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【大賞は獲れなくても、デビューできる】大人気児童書作家が今だから明かす驚きの創作秘話

大賞は獲れなくても、人気児童書作家になれる!

――なんていうと、どこの少年漫画の話だよ、と思われるでしょうか。

しかし、実際にそれを証明してみせた人がいるのです。

約10年にわたって続き、小学生女子の恋愛バイブルとなった「お願い!フェアリー♡」シリーズ(カタノトモコ絵/ポプラ社)。著者であるみずのまいさんは、第2回ポプラズッコケ文学賞(※ポプラズッコケ文学新人賞の前身)に応募、最終選考まで残ったものの、大賞は獲っていません

ではなぜ今こうして人気児童書作家になったのか――。

と、その前に。

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ポプラズッコケ文学新人賞では「子どもが自分で考え、動き、成長するものがたり。子どもたちが自分で選び、本当に読みたいと思えるものがたり」を募集しています。
つまり、子どものための文学を募集している賞なのです。

でも、それってどんなものがたりなの? と思う人も多いかもしれません。
子どもと言っても、書いている人も、編集している人も大人だし……

そんな疑問を、児童文学作家と児童書編集の対談で紐解いていくシリーズ第3弾。

今回は児童書界の異端児にして革命児・みずのまいさんと、新担当者の松田と小林による鼎談をお送りします!

みずのまい
神奈川県出身。初めて書いた小説『お願い!フェアリー♡ ダメ小学生、恋をする』でデビュー。同シリーズは「おねフェア」と呼ばれ、23巻まで続く人気シリーズに。著書に「たったひとつの君との約束」「スターになったらふりむいて」シリーズ(集英社みらい文庫)などがある。
ポプラ社 松田拓也
91年生まれ。奈良県出身。前職で約80冊の文芸作品を担当。2019年、ポプラ社に転職、児童書編集に携わる。第9回大賞受賞作『ライラックのワンピース』編集担当。
ポプラ社 小林夏子
87年生まれ。東京都出身。大学卒業後、新卒でポプラ社に入社。一般書営業、一般書編集を経て児童書編集者に。現在はおもに学習・実用ジャンルを担当。

自分の中にない意見に触れて、作家として成長する

小林 さっきちょうど打ち合わせが終わったところですが……

みずの 真面目にお話しましたね。

松田 ここからは僕も参加させていただいて、みずのさんにあれこれお話をお伺いできればと思っています! 現在、みずのさんはポプラ社で2つの企画(※2021年春以降刊行予定)が進行中で、担当編集者も小林と僕と2人いる状態なんですよね。正直なところ、同じ会社に担当者が2人いるのってどんな気持ちですか?

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(左から松田、みずのまいさん、小林/ポプラ社内にて)


みずの 楽だし、楽しいです。作家が成長するときって、意外なことを言われるときだと思うんですよ。ある程度仕事を続けていると、ヒットしたものと似たようなものを求められることが多くなるんですね。でも、細かいところでは違ったり、人によってはまったく違う切り口を提案されたりします。たまたま「お願い!フェアリー♡」(以下、おねフェア)も完結し、一区切りついたたところで、まったく違う2つの企画を新しい方たちと始められて、ラッキーだなと!

松田 こちらこそ、急に担当できることになって、ラッキーです! 「おねフェア」を拝読して、そのぶっ飛び具合に、この方とは面白いことができそうだなってすぐに思いました。そして今、まったく方向性の違うエンターテインメント小説を書いていただいてますね。

みずの 松田さんに「恋愛ものを書いてください」って言われたら「またか~~」って思って、ズッコケてたんでしょうけど、全然違うテーマを提案してくれましたよね。これまで別のジャンルにいた人(※松田は元々文芸書担当)だからこんな提案するんだろうって。

松田 「おねフェア」は恋愛要素が面白いのはもちろんですが、キャラクターの個性が強いところが魅力的。だから、僕は「恋愛はもういいんじゃないですか」と申し上げました。きっと別のテーマでも面白い作品を書かれるだろうなと思ったんです。みずのさんにはどんどん新しいジャンルを切り開いていただきたいです!

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(「お願い!フェアリー♡」シリーズは累計58万部のベストセラー)

みずの ありがとうございます。小林さんとは今、小説とノンフィクションが合体したような、ちょっと変わった体裁の児童書を作っているのですが、小林さんは求めているものが常にリアリティーなんだなって。子ども向けのノンフィクションを多く担当しているからか、現実的な視点があるというか。そういう人でないと成立しない企画だったと思いますね!

小林 実用ジャンルは子どもたちのニーズに正面からこたえるジャンルなので、直截的なお話をさせていただくことが多いかもしれませんね。読者にゆだねる部分も大きい創作ジャンルとは、進め方も打ち合わせの内容もずいぶん違うのかな、と思います。そういう意味では、ここにいる担当ふたりはずっと児童文学を担当していたタイプじゃないですね!

みずの なるほど~~。どっぷり児童書の世界にいた二人じゃないからこそできる面白いものがあるような気がしてます!

絶対に本にしてくれるという謎の自信

小林 みずのさんが作家になろうと思われたきっかけはなんでしょう?

みずの 若いころに関節リウマチって病気をしたんです。20代でなる人はめずらしく、私の場合は足にきて。どうなっちゃうんだろうと思って、自分で自分を慰めたくなったんです。それで、手なら動かせるかなって、小説を書きはじめました。サボテンとダメOLの話

松田 サボテンとダメOL!? どんな話なんですか(笑)

みずの ダメOLがサボテンに愚痴を言うと、次の日に嫌な同僚が死んでたりする話です。でも、こんなダークな話を具合が悪いときに書き続けるのはつらいなって(笑) それで、歌舞伎町をぶらぶらしてたら……って私、歌舞伎町に住んでたんですよ。

小林 ずいぶんにぎやかな街に……!

みずの それで、歌舞伎町を歩いているときに、子どもたちが西日の中、猫を抱いて走ってるのを目撃したんですよ。そしたら、急に涙が出てきたんです。“子どもって綺麗だ”って思って。それで、”サボテンとOLじゃない! 妖精と女の子の話だ!” と思いついて、一気に書き上げました。

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(ネオン輝く歌舞伎町)

松田 「おねフェア」のようなファンタジー作品が、実はそういったある種リアリズムを感じる出来事がきっかけで生まれたというのは面白いですね。そしてその作品をポプラズッコケ文学賞に応募してくださった。

みずの そうなんです。書き上げたとき、この小説には『ズッコケ三人組』(那須正幹著/ポプラ社)と『フーコとユーレイ』(名木田恵子著/ポプラ社)の要素がある気が個人的にしたので。しかも、「これは絶対本にしてくれる。賞金もくれるんだ」って謎の自信を抱きながらポストに投函しました(笑)

小林 初めての作品なのに、強い確信があったんですね(笑)

みずの でも、最終選考で落ちちゃったんですね。私の文体は軽いし、反対の声もあったみたいで。ただ、当時の社長とひとりの編集者の目に留まって、いきなり「年3冊書けますか」って電話がきたんです。「お仕事は?」とも聞かれ「無職です」と答えたら、「では、大丈夫ですね!」と言われて。私の無職を喜んでくれる人がいるなんて(笑) そこから、とんとん拍子に話が進んで出版することになりました。

松田 去年から編集部賞というものが設けられ、大賞には選ばれなくても、その作品を気に入った編集者が原稿のサポートをしながらデビューを目指せるようになりました。みずのさんの時代はそれがなかったわけですが、先駆け的存在だったのかもしれないですね。

みずの お金に困っていたので、賞金は欲しかったんですけど……(笑) 

自分のために書いていたら、子どもたちがついてきてくれた

みずの 子どものころ、家族にすこしトラブルがあったんですけど、末っ子だったから言えないことがたくさんあったんです。今思えば、そのモヤモヤを「おねフェア」を書くことで浄化していた気がします。だから、10巻くらいまでは自分のために書いていた気がするんですよ。

松田 子どもたちのために、というよりは自分のために。それでも子どもたちの圧倒的な支持を集めた理由はなんだと思いますか?

みずの たぶん私、自分を出そうとすると子どもっぽくなるんですよ。大人の私が言うと“ちょっと変わった人”と思われることも、子どものキャラクターに託すと、みんな受け入れてくれたんです。とはいえ、当時の担当編集者のアドバイスで、物語のラストにイベントを盛り込んだり、エンタメとして一般化できていた部分もあると思いますが。

小林 私が今ご一緒している企画には、子どもたちのお悩みにこたえてくれる、みずのさんを模した“先生”が登場しますよね。

みずの もうそれが、書くのが難しいんですよ~~! 私、大人は意識しないと書けない(笑) 自分を模したキャラにしてしまったから、そのまま書くと子どもっぽくなっちゃうんですよね。そこを指摘いただいて、気づけました。

松田 みずのさんの中に少女がいる……!

みずの そんな可愛いもんじゃない(笑) デビュー当時の著者紹介に、編集者が“ゴルゴ13を愛しながら少女の心を持つ児童書作家”みたいなことを書いたくらいですから。

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(『お願い!フェアリー♡』初版の著者紹介 ※現在は別のものです)

松田 まさかのゴルゴ(笑) でも、10巻までは自分のためにということでしたが、それ以降は読者のために書こうと思ったんですか?

みずの ちょうどそのころ、読者のお母さんからお手紙をいただいたんです。お子さんが学校に行けない時期だったのかな。「おねフェア」をボロボロになるまで読んでたんですって。それでお母さんが、“何がそんなに夢中にさせるんだろう?”って気になって読んでみたら、涙が出てきたらしいんです。“私の知らない、あの子が抱えている辛さや鬱憤がここに全部書かれてた!”って。その手紙を読んだとき、これはまじめに取り組まなきゃならない、って意識が変わりました。

小林 みずのさんの作品に救われている読者の存在をリアルに感じられたんですね。

みずの そうなんですよ。それに、”本を読むのは苦手だったけど、「おねフェア」は読めた”っていう手紙もよくいただくんです。私が目指しているところは、まさにそこで。私の本が読めたら、自信をつけて、もっと難しい本も読んでほしい。だから、できるだけ読みやすく書いてます。本が嫌いな子って、多くは最初に読んだ本が難しかったり、合わなかったりして諦めちゃってるんだと思うんですね。

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(みずのまいさんの元に届いた、たくさんのイラスト入りのお手紙。ひとつひとつが宝物。※写真の中には現在のポプラ社と違う住所がございます)

松田 本は音楽やテレビなどと違って、能動的にならないと味わうことのできない世界ですからね。みずのさんの本がきっかけになって読書が好きになった子は多いと思います。

みずの 私は私で子どもたちの手紙が創作に大きく影響しましたね。

児童書に恋愛要素を持ち込んで、炎上!?

松田 「おねフェア」を拝読したとき、こんな自由でいいんだって思ったんです。

みずの 私、大人に隠れて読む児童書があってもいいと思うんですよね。大人と子ども両方が楽しめるのも大事だし、子どもだけが楽しめるものも大事にしたい。「おねフェア」は“小学生に恋愛なんて”とSNSなどでバッシングを受けたこともあったんですよ。

小林 『ズッコケ三人組』ですら刊行当時は、色々とご意見をいただいたことがあったといいます。

みずの らしいですね。子どもたちにつまんないって言われるんなら、お小遣いで買ってくれるんだから、真摯に受け止めなきゃいけないと思うけれど、ちゃんと読んでくれていない大人に色々言われるのはいやですね。

小林 実際に作品を支えてくれている人の気持ちや意見こそ、大切にしたいですもんね。

みずの 子どもって色んな感情を持ってるんですよ。うまく言葉にできないだけで。それが恋なんだよとか、嫉妬なんだよとか、教えてあげるだけでスッと気持ちの整理がつく。自分の感情がなにかわからない辛い状況から、救ってあげたかっただけなんです。

松田 “子どもに恋愛なんて!”と言う大人がいると、余計に子どもたちも自分が抱いている感情と向き合うのが難しくなってしまいますよね。

みずの そう! 子どもの成長過程って何を見るか、何を感じるか、だと思うんです。好きな子ができるのも、かわいい子がうらやましいのも、ぜんぶ成長なんですよ。だから自分が恋愛ものを書くことは児童書の王道だと思ってたんですね。

小林 恋愛も大事な感情で成長過程のひとつ。大人になっても扱いが難しいものなのに、子どもだからと遠ざけてしまっては、いざ悩んだときに自分の気持ちとどう向き合っていいか、分からなくなると思います。

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(人気を博した「教えて!フェアリー」のコーナー。読者からのお悩み相談にたくさん答えてきた)


みずの 一見くだらないことこそ人を大きくすると思ってるんですよ。ひょっとしたら恋だってくだらないかもしれない。一生懸命やって傷つくだけかもしれないし、得しないことばっかりかもしれないし。でも、ある瞬間に気持ちをすべてそこへ持っていくっていうことは、やっぱり必要! “好き”って思いはなにより強いと思います。

松田 子どものころって、“これが好き”っていう自覚がある子が多いと思います。車とか、虫とか、なんでも。でもそれが大人になるにつれ、周りの目を気にしたり、思春期などを経たりして、好きって言わなくなっていく。でも時代は少しずつ変わってきて、一昔前なら大人でアイドルを追っかけていたらオタクだとか言われて白い目で見られていた節もありましたけど、今はそういう生き方の方がむしろ“尊い”というか、好きなものをオープンにする生き方の選択肢も増えてよかったなあと思います。

みずの 好きっていう気持ちは人を豊かにさせますね。そういう意味では、今松田さんと企画しているものは恋愛以外の“好き”を書けていて、“好き”の定義というか、幅を広げられています。

松田 人から見たらちょっと変なものに熱中しているハミダシ者たちが集まって、一緒にすごいことやろうぜ! っていう物語ですもんね。さっきの話じゃないですが、大人はSNSなどで好きな者同士を見つけやすくなりましたけど、子どもはなかなかそうはいかない。この作品で、同士がいなくても何かを好きでいいんだと分かってくれればと思います。

みずの たくさん読んでくれるといいなあ。

子ども時代は誰でも一度経験している

小林 この企画でいつもお伺いしている、これから児童書を書く人へのアドバイスをみずのさんにもお聞かせいただけますか? 

みずの 子ども時代ってね、みんな一度経験してるんですよ。だから難しく構えなくたって書けるはずなんですよ。

松田 子どもの本のほうが自由なんですよね。動物がしゃべったっていいし、妖精がいたっていい。大人向けのだと、リアリティがどうとか、シュールだとか言われるものも、子どもは想像力が豊かだし、想像できるように書ければ問題ない。

みずの そうなんですよ。大人の世界に思えるものでもね、登場人物を12歳にしちゃえばいい。例えば警察は無理だろって思っても、警察って枠組みを取っ払って、なにか独自に捜査する物語でもいい。大人向けに書いた作品を、児童書に書きなおしてみたら意外とよかったってのもあると思う。もっと自由な発想の、若い書き手が来てほしいな~~!

小林 大人向けのノンフィクションだと、“今出す意味は?”って会議でよく聞かれるんですよ。でも児童書って、もちろん今を捉えないといけない側面もありますが、十年、二十年先も読まれるような、普遍的な側面も重要視されます。”いつでもまたここに帰っておいで”という本が作りたいと思います。

みずの 悩みはいつの時代もありますからね。“普遍を今っぽいテーマでやる” これだ!(笑) 私、たくさん読んでほしいって思いが強いんです。「ズッコケ三人組」や「ぼくらの」(宗田理著/KADOKAWA・ポプラ社)シリーズぐらい、長年愛される作品を書きたいんですよ。だから、新作も面白いものにしましょう!

みんなでレボリューションを起こす!! これ、見出しで。ダメ?(笑)

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(笑顔で迎えた「おねフェア」完結巻。みずのさんの挑戦は続く)

いかがでしたでしょうか? 

ポプラズッコケ文学新人賞は現在作品を募集中です(10月末日まで)

詳しくはこちらをご覧ください。

こちらの連載は今回で終わりますが、またいつか児童文学の世界を皆さんにご紹介できればと思います。

まだ見ぬ才能に出会えることを願って……。