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”単純であるということは、純粋であるということ。いちばん大事なことね。“ 「くまの子ウーフ」50周年記念・神沢利子さんインタビュー

長きにわたって小学校の教科書にも掲載され、多くの方に読み継がれてきた『くまの子ウーフ』。リニューアル版の刊行に併せて、2019年に行われた作者・神沢利子さんのインタビューをnoteに再掲載したいと思います。率直で深い言葉のひとつひとつが、今を生きるわたしたちを、勇気づけてくれます。

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心の中にウーフが生き続けてくれているとうれしい

――『くまの子ウーフ』が刊行されてから、半世紀が経とうとしています。

(神沢) あっという間ですね、本当に。人生なんてそんなもの。過ぎてしまえば、みんなあっという間。子どものときは、自分がおばあさんになるなんてどんな感じだろうって、不思議な気がしてたけど、おばあさんになってしまったら、なんてこともなかったわね。

――この作品が世代を超えて愛されている理由を、どのように受け止められていますか? 

(神沢) 子どもは好奇心のかたまりだと思うんですよね。『くまの子ウーフ』は、いつもどうしてどうしてと考えているから、子どもたちは一緒になって、おもしろがって読んでくれるんだろうなあと思っているのだけど。

――子どもの好奇心はいつの時代も変わらないのですね。

(神沢) 大人になるにしたがって、いろんなことが当たり前になってくると、好奇心が薄れていくっていうことはあるでしょうね。子どもにとっては、いろんなことが新鮮だと思います。

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――神沢先生は「くまの子ウーフ」という作品の魅力は、どんなところだとお考えですか?

(神沢) ウーフはぼーっとしているところがあって、友達のきつねのツネタはちょっとお利口さんでお兄さんぶったりしている。その二人の対比ね。それがこの物語を面白くさせてるんじゃないかと思います。

――そもそもウーフという愛らしいお名前はどこからつけたのですか?

(神沢) 誰の本か忘れちゃったけれど、翻訳本で、くまが「ウーフー」って言う、というようなのがあったんですよ。いいなと思って、それを名前にしたの。ツネタはきつねらしい名前だから。

――ウーフの、大人ですら答えるのが難しいような疑問はどのようにして生まれたのでしょう?

(神沢) 私も、ウーフと同じようにいつもわからないんですよ、いろんなことが。私も、いつも、どうして? どうして? って考えているんです。

――子どもたちが持っている疑問を聞いて参考にするようなことは?

(神沢) それはないのね。私、自分の子どもくらいしか、子どもとのつきあいがなかったんですよ。だから、子どもたちからヒントを得たとかモデルみたいなものはまったくないの。私の子どものころからの疑問を大事に持ち続けているの。

――2世代、3世代で『くまの子ウーフ』を読んでいるファンに伝えたいことは?

(神沢) ウーフを子どものときに読んで大人になった人、たった今ウーフを読んでいる子どもたち、たくさんの人の心の中に、ウーフがずっと生き続けてくれているとうれしいなと思っています。

たった今を、大事に、十全に、力いっぱい生きてほしい

――現在はどんな作品を執筆なさっていますか?

(神沢) 楽しい絵本が作りたいなあと思うんだけれども、なかなか書けないわね。物語絵本ということではなくて、シンプルで、全宇宙がこめられたような短い詩のような絵本。そんなに難しい事柄じゃないんですよね。たとえば、木の実が熟して大きくなるだけでも大自然であるし、命を表してもいる。そういうものです。

――これまでの本には書かれていないものでしょうか。

(神沢) 書けていませんね。もっともっと単純で…。単純であるということは純粋であるということ、いちばん大事なことね。誰にでもわかって、何かを感じさせる絵本。だから単純じゃないといけないのね。

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――最近もやはり、ウーフのように「どうして?」と思うことはありますか?

(神沢) いっくらでもありますよ。どうして人間は戦争ばかりしてるの? とか、どうして昔から子どもは喧嘩ばかりしているの? とか。子どもは喧嘩ばかりして大きくなるんだけども。

――長い作家生活の中で、ファンの方との印象深い思い出や、作家をしていて良かったという思い出は?

(神沢) 良かったのは、たくさんの人と出会えたことですね。子どもたちと直接接触することは非常に少ないんですよ。子どもの本は書いているけれども。でも、本を書くことで子どもたちとつながっていけるということが、とてもうれしいですね。子どもの声をそこで聞くこともできるから。私が作った童謡なんかを歌ってくれているのを聴くと、「あ、子どもの心の中に響いているんだなあ」と感じられて、とってもうれしいですね。

――これからを生きる子どもたちや親子にメッセージをいただけませんか。

神沢 そうね…。ちょっと難しいの、今考えていることは。たとえばね、生きるっていうことは息をすることっていうことね。それで、たった今っていうことね。ちょっと前のことは「生きていた」ことになるし、先のことは「生きるだろう」ってことになるから。「生きている」っていうことはたった今ということで、そのたった今の持続が「生きている」っていうこと。そのたった今は、たった今しかないんだから、それを十全に生きるということね。大事に、十全に、自分の力いっぱい。力が及ばなくてもいいのよ、また明日があるんだから。

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作家・神沢利子(かんざわとしこ) プロフィール
1924年、福岡県に生まれ、北海道、樺太(サハリン)で幼少期をすごす。文化学院文学部卒業。詩、童謡、絵本、童話、長編と、児童文学の第一線で幅広く活躍。「くまの子ウーフ」の童話や絵本(ポプラ社)のほか、『ちびっこカムのぼうけん』(理論社)『うさぎのモコ』(新日本出版社)『ふらいぱんじいさん』(あかね書房)など、その作品は、世代をこえて読み継がれている。東京都在住。

(文/吉田有希)

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瀧井朝世さんによる「大人のためのウーフ深読み」、公開中!

「くまの子ウーフ」に新しい2つのシリーズが刊行!

50年以上愛され続けるロングセラー「くまの子ウーフ」は、今年新しい2つのシリーズを刊行しました。刊行と併せて、シュタイフとのコラボテディベアも書店店頭にて予約受付開始しています。ぜひ特設サイトをご覧になってください。
https://www.poplar.co.jp/pr/uff-steiff/

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