累計170万部突破!「迷路絵本」の作り方を大公開!人気の秘密は、ジオラマ制作⁉
迷路×探し絵の絵本という独自ジャンルを切り拓いた『冒険!発見!大迷路』(以下「大迷路」)シリーズ。2008年にスタート以来、17冊のシリーズで累計170万部を越えている大ヒット絵本です。
一度読んだら絵本から目が離せない、その秘密とは?
最新作『ベストセレクション 大迷路 竜の巻』の刊行を記念して、作者の原裕朗さんのアトリエにお邪魔してお話しを伺ったところ…そんな、創作の秘密があるとは! という驚愕の事実が続々と明らかになりました!
この絵本の制作過程と作家・原さんのこだわりに、ライター・柿本礼子さんが迫ります!
まるでジオラマ工房のようなアトリエ
ゲーム好きの小学生男子を中心に、子どもたちが熱中する絵本があるという。2008年にシリーズ1冊目である『海賊アドベンチャー』編を発売してから累計170万部! 大人気を誇るという「大迷路」シリーズだ。
実は筆者は、このインタビューをすることになるまで、お恥ずかしながら、このモンスター級ヒットの「大迷路」の存在を知らずにいた。出版社より「すごいんで、ぜひ一度見てみてください!」と送られてきた本を開いたら…。
確かにすごい!
2つの迷路が一画面に収まっているだけでなく、さがし絵までがセットになっている。さらに、この絵本は主人公(=読者)を含め12人の生徒が出てくる、一種のRPG(ロールプレイングゲーム)の構成になっているのだが、全ての画面に12人全員が、それぞれのシチュエーションを継続させながら登場しているということだ!
と、このようにストーリーについても「絵本レベルじゃない」と腰が抜けそうな精度なのだが、今回はまず絵について伝えたい。よーく見ているうちに「なんてこった…」と呟きたくなるのだ。
お分かりだろうか。こんなに細かい絵なのに、全てに影がついているのだ!! なんで?? どうして?? ということで、アトリエを訪ねたところ、冒頭のジオラマの山を目の当たりにしたわけだ。もしかして、原さん、このジオラマ的なものって…?
(原)そうです。「大迷路」シリーズで描いた景色の立体版です。
影の方向や位置、パース感を確認するためにジオラマを!?
――このジオラマの量に圧倒されています。この立体は何から作られているんですか?
(原)これはほとんど紙粘土とか厚紙で作っています。割り箸も使うし、布のニュアンスが欲しい時はティッシュペーパーを使ったりもします。割とラフに、ちょこちょこっと作っているんですけどね。
――「ちょこちょこ作る」の概念が崩壊しそうです。「大迷路」シリーズの1作目から、こうした立体を作っていたんですか?
(原)こんな風に模型的なものを作り始めたのは7作目の『魔法の学校』あたりからかな。絵を描く時にあればわかりやすいなって思ったんですよね。影の位置について制作スタッフとちょっと揉めて、あ、立体があった方がすぐにわかるかなって。
――いきなり完成度が高いです! ジオラマ制作以前と以降では絵の雰囲気は変わりましたか?
(原)基本的には立体がなくても描けるので、そこまで違いはないと思うんだよね。ただ、この迷路の絵本はスタッフと一緒に制作しているから、認識を共有するには立体があると早いよね。平面だけでもパースは取れる(=立体的な絵を描くこと)けど、細かい見え方はもうちょっと違ってたかもしれない。影も、どこに何の影がつくんだっけ?って頭がこんがらがるときがあるから、そんな時は立体をみて、あ、そうかって思うんだよね
――そこから部分的にジオラマを作るようになったと。10作目の『ドラゴンアドベンチャー』ではドラゴンの頭部も作ったんですね!
(原)立体感あるドラゴンを描きたくて。こんな風にデジカメで撮影して、光の当たり方や影の回り方を参考にしました。
(原)空想の動物や乗り物は、こうやって紙粘土で作ってみることがあるね。例えば15作目『海底大決戦』で主人公たちが乗るドルフィン号とか、12作目『巨大昆虫の島』の樹上の小屋とか。
――迷路はまず、アイデアのラフスケッチから始まり、ルートを確定した段階で、立体で試したいシーンは紙粘土などで作り、立体を参考にしつつ本番の絵付けに入る…という順番ですね。
(原)そうだね。例えば『ドラゴンアドベンチャー』の結晶石の道のシーンの場合は、ラフスケッチの後に紙粘土でジオラマを作りました。上からの構図で、道の高低差がわかるようにしたかったから、影のつき方なんかを参考にしようと作ったんだね。
――どれも迫力ある絵で、これが迷路であることを忘れてしまいます! これで迷路…いや、迷路でこの迫力、しかも立体として破綻していないというのが強烈です。その強烈さが個人的に最も感じられたのが13作目『GO!GO! カーレース』でした。見ると、この号はジオラマも沢山作っているんですね!
(原)このカーレースは街中からスタートして、神殿のある砂漠を通り、火吹山という山の火山洞や吊り橋、谷を疾走するというルートを設定したんです。実際には走れないような危険でワクワクするルートを考え、どこまで臨場感を持たせて描写できるかがポイントでした。
――ええと、何度も忘れそうになるので繰り返しますが…、これ、迷路ですよね…?
(原)はい、迷路です。
――しかも探し絵もあるという。さらに他の探し絵絵本や迷路絵本と異なるのは、RPG的というか、1冊がひとつのストーリーを紡いでいるというところですよね!
「起承転結」がある迷路絵本にこだわって
(原)作品を作る時に、まず世界観とテーマを決めてから、ストーリーを考えるんだよね。この時点ではメモ書きから始まります。そこから12枚のプロットに分けていく。僕はこれを起承転結の4つのブロックに大きく分けて考えていきます。
――ドラマがあるんですね。
(原)例えばインタビュー冒頭で紹介した『魔法の学校』だと、若い魔法使いたちが冒険の旅に出るんだよね。その目的は、闇の世界に落ち、魔法使いを連れ去ってしまった「デスバラード」を倒すこと。そのためには、未知なる力を秘めた若者たちの力が必要なのだ、その中の一人、皆を引っ張っていくのが(読者の)君だ、というのがオープニング。物語のはじめは、 これより魔法学校への入学を許可する! ってところから始まっているんです。
――冒険を進めるうちにデスバラードの思惑も徐々に明らかになっていきますね。秘密の階段では、誰かが「禁断の書」を隠してある出口に入っている…。そこで魔法使いが「まずいぞ! デスバラードの目的は禁断の書を手に入れることなんじゃ」と言います。
(原)そう、デスバラードが秘密の通路まで知っていたことで、「あ、 誰かが手引きしてる」って話になるわけ。この時点では誰が手引きしてるかわからないけど、ちらっと誰かの影は見えるんだよね。
(原)慌てて図書館にいくと、すでに「禁断の書」は使われていて、デスバラードが悪魔を地獄から呼び出した後だった…と。魔法の学校もデスバラードの手に落ちてしまって、みんな慌てて学校から逃げ出すんだよね。捕らえられてしまった人もいて、「みんな助けに必ず戻ってくるからね」と一旦脱出して、立て直しをはかるわけだ。
――最終的にはドラゴンも出てきて、すごい戦いになります。実は魔法学校の先生の中に裏切り者がいたりして、改めて見てみるとものすごいドラマチックですね。この1冊でハリウッド映画が1本作れそうです。さらには物語が終わった後も「先生方からのとっておきの宿題」として絵さがしがついていて…これ、何度も遊べますね。飽きることがないです。
(原)さらにマジカルカードっていう、僕が作ったカードゲームもつけました。
――なんと手厚い。キャラクターの名前一つ性格づけ一つとっても、こんなにたくさん考えて詰め込むのって大変じゃないですか?
(原)意外に面白いですよ。僕はゲームも作っていたし、カードゲームも作っているから、そのあたりはあまり苦にならないかな。一見開きで2時間はたっぷり遊べるつくりで、1冊遊び切るのにゲーム1つを攻略するくらいの時間はかかると思います。
――いま、さらっと凄いことをおっしゃいましたね! ゲームを作るとは…そしてカードゲームも作っていたとは? すっかり長くなっちゃったので、次回は原さんのキャリアについて根掘り葉掘り聞かせていただきます!
(文・柿本礼子)
★「冒険!発見!大迷路」シリーズ(記事中で紹介した作品)
最新作
1巻
7巻
10巻
11巻
12巻
13巻
15巻
★他にも、忍者、宇宙などなど、いろんな「大迷路」シリーズが出ています。好きなテーマからぜひ選んでみてください!