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【あきらめない! 絵本作家デビューまでの道のり。一度見たらやみつきになる、迫力のデビュー作『とうもろこしぬぐぞう』ができるまで】


スーパーでとうもろこしを見かける季節になりました。
緑の葉っぱがついたものから、ゆでられた黄色いものまで、並べられ方はさまざま。「料理するには缶詰でじゅうぶん!」なんて声も? 「いやいや、それでは楽しくない!」と思わず異議を唱えてしまう大迫力の“とうもろこし絵本”が出るんです。


その名も『とうもろこしぬぐぞう』

書影ぬぐぞう

▲どうですか? この姿!

とうもろこしのキャラクターがただひたすらに葉っぱの服をぬいでいく。それだけなのに、とっても楽しくて、やみつきになる絵本なのです。

作者は本作がデビュー作となる、はらしままみさん。
今日が見本日! ということで、担当の私は4月に入ったばかりの新人編集者とともに、いそいそと会議室を記者会見場のようにし、会社にはらしまさんをお迎えしました。

さっそく生まれたてほやほやの新刊をお渡しすると、はらしまさんは緊張の面持ちで絵本をそーっと手にとり、しばし感無量のご様子。

それもそのはず。5年以上の歳月を経ておとずれた、待ちに待ったこの瞬間だったからです。喜びをかみしめているはらしまさんに、ここまでの道のりを語っていただきました。

記者会見

はらしままみ
1983年東京都生まれ。明治大学商学部商学科卒。
電機メーカー勤務。「パレットクラブスクール」絵本コース、「キルタースペース絵本勉強会」、絵本ワークショップの「チャブックス」に参加し、絵本創作に取り組む。本書がデビュー作。
(聞き手)ポプラ社 小堺加奈子
80年生まれ。東京都出身。新卒から今まで、児童書編集一筋。しかけ絵本、創作絵本、幼年童話などを担当。noteでは『ルルとかおる』担当。

信じられないくらいうれしいです(はらしま)

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小堺:まずは、こちらが見本です! ここまで本当にお疲れ様でした‼ 見本を手にとられた感想はいかがですか?

はらしま:現実なんだろうか……⁉(笑) 信じられないくらいうれしいです。

はらしまさんマスクなし

小堺:はい、現実です! 私も嬉しいです。今日社内に見本が届き、「あ、ぬぐぞうだ!」という声がいたるところから聞こえてくるんですよ。「とうもろこしぬぐぞう」は実は企画会議のときからインパクトが大きくて、みんな楽しみに待っていました。


絵本制作期間5年以上

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小堺:はらしまさんのデビュー作となりますが、出版企画として動き出したのはどういったきっかけだったのでしょう。

はらしま:まず、松田素子さん(数々のヒット作を手がけるベテランのフリー編集者)に面白いと言ってもらえたことがきっかけで。

松田さんのところに「子ども先生」といって、率直な感想を言ってくれる子どもたちが来るんですけれど、「このお話はとても評判がいい」とも言ってくれましたね。でもそれから5年以上かかりました。

本当はうちの子どもが保育園の時に出したかったんですが、今はもう小学4年生になりました。(笑)

小堺:そもそも、会社員として働きながら、なぜ絵本を?

はらしま:絵本作家になることが夢だったので、仕事をしながら通える絵本の学校に通い、そこで松田さんに出会いました。何作見せてもダメだった時期があって、へこんだりしたんですけど、自分の絵のスタイルがまだなくて、誰かの真似の絵になってしまっていて。そこから抜け出したくて、一生懸命描き続けました。

小堺:厳しかった松田素子さんについていこうと思われたのは、どうしてですか?

はらしま:厳しいけれど、いつも励ましてもらえたので。かならず最後に「がんばって!」って言ってくれるんです。


絵ではなく絵本がつくりたかった

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小堺:愛のある厳しさですね。絵本作家はいつから目指していましたか?

はらしま:ずっと絵が好きで、中学校の卒業制作で絵本を作り、スクリーンに投影してみんなの前で発表したことや、大学の学園祭で絵を描いたり、今も勤め先で頼まれたら絵を描いたりして。小学校のときの担任の先生が書いたお話に絵をつけて、図書室に置いてもらったこともありました。

でも絵ではなく絵本が作りたかったので、絵本のワークショップや展示会に参加して、絵本仲間と励まし合いながら取り組んできました。時には友人のデビューする姿をみて、自分自身も奮い立たせて頑張りましたね。学校の先生も今までずっと応援してくれていて。


お話は通勤電車の中で

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小堺:同志の存在や、応援してくれる人がまわりにいたのは心強いですね。 普段は、どのように創作活動をされているんですか?

はらしま:会社員でもあり、子育てもしているので、通勤電車の中でお話を考えては、休みの日に絵を描いています。『とうもろこしぬぐぞう』の絵も、子どものプール姿を見ながら、手足の筋肉をデッサンしていました。

小堺:子どものプールでデッサンですか! すごいなあ。


きっかけは、子どもの保育園

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小堺:このお話は、どんなときに生まれたのでしょう。

はらしま:身近な題材ということで、食べ物のお話はよく作っていました。そんなときに、子どもの保育園の“食育イベント”でとうもろこしの皮むきをやることになって。私はアルバム係だったので撮影しに行ったんです。

そしたら、「おりゃー!」とか「うおー!」とか言いながら、子どもたちが楽しそうに皮をむいていた。「ああ、こんなイベントの前に読める絵本を作りたいな」と思って。

原島さん差し替え写真

絵本を読んで、「ぼくもやってみる!」「手伝いたい!」と思ってくれる作品があったら楽しそうじゃないですか。以前からも、とうもろこしは畑の直売所で買っては茹でて食べていましたし、保育園でお手伝いする子どもたちを見て、「こんなに楽しい時間が過ごせる食べ物なんだ」と思いました。

小堺:(その時の写真を見ながら)楽しそう! みんなエプロンと三角巾をかぶって、可愛いですね。余談ですけど、とうもろこしの髭の本数って粒と同じ数あるんですよね。さて話を戻して、それで、とうもろこしを絵本の題材にしていこうと思われたんですね。


汗と涙のラフの山

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はらしま:とうもろこしが自分の皮を脱いでいく、という話はできても、展開は紆余曲折しました。最初のころは、キャラクターが3人出てくるお話だったし、終わり方も、粒がはじけて「これにて解散!」というものや、葉っぱのおふとんで寝ていたり。

ラフの山

小堺:このラフの量……! シンプルなだけに、展開にも苦労されたんですね。絵の方はどうだったのでしょう?

はらしま:筆の勢いが出ない時期がありました。うまく描けた線をなぞってもダメだし、小さい紙に描いてしまうと良い線が出ませんでした。でもとにかく何度も何度も描きました。家族でキャンプに行ったときも、みんなが起きる前に描いていました。ひんやりした空気の中で。


「描けた!」と感じた瞬間

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小堺:逆に、描けた! という瞬間って分かるんでしょうか。

はらしま:「これか―!」と思う瞬間があって。しっくりきたんです。線が慣れるというより、手が慣れるんですね

えいえい

小堺:そのお話、おもしろいです。本当に、何枚も何枚も描き直されていましたね。『とうもろこしぬぐぞう』で、こだわった点は?

はらしま:線の勢い、かすれと、つぶつぶをおいしそうに描くこと。ちょっとした手足の角度で、力の入れ具合が変わるので、そこにもこだわりました。あと、とうもろこしの皮をはぐ動線を活かして、本も上から下にめくる仕様なんですけれど、ページをめくる手と、服を脱ぐ動きが合うように気を付けました。

小堺:制作には、家族の応援もありましたか?

はらしま:はい。何度もとうもろこしを購入して、家族でむいて…。(笑) 収穫体験にも行きましたし、近所で手に入らなくなると北海道から取り寄せたりして。夫や子どもにぬぐぞうのポーズをとってもらってビデオ撮影したり、写真に撮ったりして描き続けました。最初のラフと比べると、だいぶ変わっている。

顔の変遷

小堺:たしかに。こうやってみると、初期のラフからぬぐぞうさんの顔もだいぶ変わっていますね。

はらしま:そうなんです。最初はノリのいいぬぐぞう、次に男くさいぬぐぞう、最後は、友達感覚で応援したくなる、親しみやすいぬぐぞうになるように変えました


普通ではないキャラクターにしたい

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小堺:「ぬぐぞう」という名前も個性的です。

はらしま キャラクターにするなら普通のとうもろこしじゃだめだと思って。最初は「とうもろこしさん」だったんですけれど、考え直しました。そういえば、祖父が「ふくぞう」っていうんですよね。(笑)

小堺:もしぬぐぞうさんが小さな子どものような姿だったら、ここまでのインパクトはなかったかもしれませんね。ぬぐぞうさんのチャームポイントはどこでしょう。

はらしま:程よい筋肉と丸い鼻。健康的なんです、とにかく頑張り屋で、精一杯もがいて、最後に気持ち良いお風呂にたどりつく。描いていて、この人なんで脱ぎたいんだろう? と考えたことがあったんですけど、今まで入ったことのない気持ち良いお風呂に入りたかったんだと思います。(笑)


スーパーマーケットで「あ、ぬぐぞうさんだ、買って!」って言ってくれたら(はらしま)


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小堺:見ていて、本当にスカッとしてい気持ちいいし、読むたびに自分の心と体が喜んでいるのがわかります。こうやってできあがった絵本を、どのように楽しんでもらいたいですか?

はらしま:ぬぐぞうの絵本を読んで、「ぼくもやりたい!」と思ってほしいです。それからいろんなことに挑戦してほしい。お話の中盤で、「あれ? うまくいかない」というシーンが出てくるんですが、あきらめないで「えい えい えい」と再度前に進んでいます。ぬぐぞうを応援しながら、一緒に体を動かして、いっぱい笑って、楽しい気持ちになってほしいですね。

小堺:何度も何度もあきらめない。はらしまさんご自身のようです。

はらしま:あと、ぬぐぞうさんと友達になってくれたら嬉しいですね。スーパーでとうもろこしを見かけて、「あ、ぬぐぞうさんだ、買って!」なんて言ってくれたら!

小堺:今後はどんな絵本をつくっていきたいですか?

はらしま:読む人の思い出の一冊になるような、ずっと愛されるような絵本をつくりたいです。

小堺:何かもうテーマがあったりしますか?

はらしま:ピーナッツの絵本をいつか発表したいです! あとは、「さつまいもほるぞう」とか?(笑) あ、人形を見せないと! これ、友達が作ってくれたんです。

人形説明0

小堺:か、かわいい……。どなたか商品化してくれないでしょうか。

はらしま:こうやって、髪の毛もちゃんととれるんですよ。

人形説明2

人形全裸

小堺:はだかんぼうになるって、なんでこんなにテンションが上がるんでしょうね。子どもって、お着替えやお風呂ではだかんぼうになると、意味もなく走りまわったり、踊りだしたりしますよね。そういう動物としての根源的な解放感も描かれているように思います。でもとにかく、スカッとする楽しい絵本です! 今日はありがとうございました。そして、今後も楽しみにしていますね。


ぬげたあっぷ


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インタビューは終わり、はらしまさんは、見本と原画とたくさんのラフダミーを手に、会社を後にされました。今日はぬぐぞうさんのように、ゆっくりお風呂に入ってくださいね。

ぬぐぞう お風呂

●『とうもろこしぬぐぞう』作・絵 はらしままみ