見出し画像

知られざる「海外版」の装丁を見るのがおもしろいという話


さて、問題です。
この写真の本たちは、いったい何の本かわかるでしょうか? 
なんだか見覚えがあるものもあれば、見たことのないものもあり……
………
……

はい。というわけで答えですが、
これらはすべて、海外翻訳された本たちです。

海外で刊行された本が日本語に翻訳された本――いわゆる翻訳本、海外文学とよばれる本は、本屋さんでよく見かけます。『ハリー・ポッター』などがそうですね。海外の文化が詰まった翻訳本には独特の魅力があり、よく読まれる方も多いことでしょう。

海外の本の日本語翻訳版があるのであれば、その逆もまたしかり。
そう。日本の本の海外翻訳版(以下:海外版)だって存在するのです。

これら海外版は、海外の出版社が翻訳・出版し、海外の本屋さんで販売されます。
なので日本の本屋さんに並ぶことはほとんどなく、一般の人たちが目にすることはほとんどありません。しかし私たちが読んでいる日本の本は、意外とけっこう海外翻訳されていたりするのです。
今日はそんな知られざる「海外版」の魅力についてご紹介いたします。

ポプラ社には海外ビジネスユニットというチームがあり、その部署の人たちが窓口となって海外版の刊行を進めてくれています。
よりよい形で海外版が出せるように、積極的に売り込んだり、刊行する出版社を見極めたり、いろんな条件を交渉したりしてくれており、とても心強い存在なのです。
海外版は全世界のいろんな地域が対象になりますが、一般書の小説に関しては、韓国や台湾などアジア圏から翻訳のオファーをもらうことが多いですね。

作家さんと作り上げた物語が、海を越えて別の国でも読まれるだけで嬉しいのですが、海外版で嬉しいポイントは、なんといっても装丁です。

海外版の装丁は、元の本のデザインを踏襲するものもあれば、イラストからがらりと変わるものもあります。版型だって変わります。
中身は同じなのに佇まいが新しくなり、まるであり得た「もう一つの正解」を見ているような気になって、とてもわくわくするのです。

それでは、海外版の装丁がどんな風に変わるのか、いくつかご紹介していきましょう

単行本よりもちょっと大きいサイズ

こちらは廣嶋玲子さんの『失せ物屋お百』の韓国語版です。
『失せ物屋お百』の日本版は文庫なので、海外版ではサイズが大きくなりました。イラストは元本と同じですが、サイズが変わると雰囲気が変わりますね。

裏表紙もちょっと違います。
ちなみに『失せ物屋お百』は江戸が舞台の時代小説ですが、日本の時代小説を海外の人がどう受け止めるのか、とても興味深いです。


日本語のタイトルも入れてくれるんですね

続いて、小路幸也さんの『花咲小路三丁目のナイト』の台湾(中国語繁体字)版です。※以下「台湾版」
イラストは同じで、タイトルの入り方も似ているので、全体的に日本版とデザインは近いですね。ただ台湾版ではカバーに枠が入っており、ちょっとシックな感じにまとまっています。帯の黒猫もおしゃれ。


タイトルが虹色に輝いて美しいですが、もしかしてホロ箔かしら?

そしてこちらは、同じく小路幸也さんの『花咲小路四丁目の聖人』の韓国語版です。
どちらも大人気「花咲小路シリーズ」ですが、こちらはガラリと雰囲気が違いますね。
韓国語版ではイラストがオリジナルの絵に変わり、華やかな花咲小路商店街の姿を楽しめます。
二冊ともに、名物紳士であるセイさんが商店街の中央に立っていますが、韓国版ではアーケードがなく、青空が広がっています。商店街の雰囲気も変わっていたりして、国々でイメージする画の違いを感じますね。

このように装丁が大きく変わることもあり、新たな側面を楽しめるのも海外版の魅力です。


ほしおさんの漢字表記はこうなるんですね

こちらはほしおさなえさんの『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』の台湾(中国語繁体字)版です。
日本版では主人公の弓子さんが背中を向けていますが、台湾版ではしっかり顔を見せています。タイトルはシルバーの箔押しできれいですね。
ちなみに台湾版は、活版印刷で刷られたカバーを巻いた特装版も作ってくれました。


光が反射している通り、韓国語版はピカピカしています。ベトナム版はしっとりマット加工

最後は凪良ゆうさんの『わたしの美しい庭』。
左が韓国語版で、右はベトナム版です。

どちらも海外版オリジナルの装丁ですが、日本版と同じく屋上庭園を描いてくれています。マンションの屋上にある縁切り神社が鍵となる物語ですが、ベトナム版の社は少しオリエンタルな感じです。韓国版では鳥居は見当たらないですね。
それぞれのアプローチで海外版を作ってくれていますが、優しい雰囲気は変わっておらず、原作にリスペクトを込めてくださっていることがよく伝わってきます。

背表紙はこんな感じ。
海外版は帯にもバーコードが入るんですね。

※※

今回ご紹介したものは数多ある海外版の一部ですが、みなさんの身近な本はほかにもたくさん、いろんな地域で翻訳されています。
日本の素敵な物語がいろんな国で読まれて、海を越えて読者が広がっていくのは素敵なことだなあと思いますし、その国の文化に応じた装丁を見るのも楽しいですよね。

なかなか出会う機会は少ないかもしれませんが、海外の本屋さんで出会うことがあれば、「ああ、これが海外版か!」と手に取っていただければ幸いです。

文:森潤也

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?