「副業」は将来を見据えた働き方?注目されている理由やその背景とは
かつては「会社に内緒でお小遣い稼ぎ」というイメージだった「副業」という働き方が見直されています。
終身雇用制度や年功序列といった日本独自のシステムは、安定した生活の基盤として高度経済成長期を支えてきたものですが、時代の変化と日本経済の衰退によってその基盤が揺らいでおり、働き方そのものを見直す段階が来ています。
そこで注目されているのが「副業」なのです。今回は、副業の最近の動向やこれからの展開について解説します。
現代社会の「副業」とは?
改めて「副業」の定義について整理してみましょう。「副業」とは一般的に本業以外で収入を得る仕事を指しますが、ワークスタイルが多様化した現代においては、一言で「副業」と言っても「複業」「サイドビジネス」「パラレルワーク」「内職」「アルバイト」などが含まれています。
ここでは、本業を主たる収入源としたとき、勤務時間外に行い収入が発生する業務を「副業」と定義します。
副業が注目される背景
厚生労働省が2017年12月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン(案)」を提示したのが「副業」の大きな転換期と言えるでしょう。
就業規則を作るときの参考となる「モデル就業規則」において、原則禁止とされている「副業・兼業」を、メリットや留意点といった切り口からまとめた画期的なガイドラインであり、省庁が正式に働き方の選択肢を広げるきっかけを作りました。
その後、「モデル就業規則」は2018年1月に改定され、それまでに労働者の遵守事項として記載されていた「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定が削除されています。ここから、国が副業や兼業を認める流れが始まったと言えますね。その後、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックなども副業推進への大きな流れを生みました。
副業を認める企業のねらいや働き手側のメリットなど、副業にまつわる事情についてもここから詳しく解説していきます。
感染症の世界的流行
前述したように、政府が副業や兼業を推進する動きは2017年頃からすでにありましたが、さらなる大きなターニングポイントとなったのは、2020年以降世界を揺るがすこととなった新型コロナ感染症の世界的大流行でした。
パンデミックの影響で業績が悪化した全日空は、従業員の給与を減額し冬のボーナスも支給されないなど、平均で年収約3割減になったと言われています。全日空のように誰もが知っている大手企業がそれだけの業績悪化となれば、中小企業への影響は計り知れません。飲食店は休業を余儀なくされ、世の中は大混乱に陥りました。
感染拡大防止のため、在宅での仕事が推奨され、テレワーク・リモートワークが一気に普及しました。通勤時間がなくなり、空いた時間を活用して副業で収入を補うことを考えた方も多かったようです。
前回のシェアリングエコノミーの記事でも解説したように、インターネットを活用して自分のスキルを収益化するためのプラットフォームが多く存在している現在は、以前よりずっと副業をしやすい環境である、というのも副業推進の流れを後押ししたのでしょう。
年々悪化する労働条件
日本企業には社員とその家族を守るために、安定した雇用を約束するための「年功序列」「終身雇用」といった制度があります。これは世界的に見ても特殊な日本独自の制度であり、安定した生活の基盤があることで多くの従業員が安心して働くことができ、長らく高度経済成長期を支えてきた制度ですが、こういった制度が時代の流れに合わなくなってきているのもまた事実です。
グローバル化や少子高齢化などさまざまな要因によって多くの日本企業の業績が悪化している現在、こういった制度を継続することが景気の悪化を後押ししているのではないかという考えが広がりを見せています。日本を代表する大手企業、トヨタ自動車株式会社の社長が2019年に「終身雇用を守るのは難しい」と発言したのも記憶に新しいところです。2020年、同社は年功序列制を廃止し、成果主義への移行に踏み切りました。
この流れは今後さらに加速していき、一律で給与が上がっていく制度は遅かれ早かれ日本から姿を消すでしょう。そうなると、給与を上げることはこれまでより難しくなり、会社から得られる収入だけでは、今と同じ生活水準を保つことが困難になる可能性もあります。
人生100年時代
近年、医療技術の発達によって平均寿命は伸び続けています。長生きできることは喜ばしいことばかりではありません。長く生きるということはその分だけ生活費がかかるということ。つまり、これまで以上の収入が必要となるのです。
少子高齢化が進む日本の年金制度は今後破綻していくと考えられています。収入を増やす必要があるにも関わらず給与は下がり、将来的に年金がもらえるのかも不透明という悲しい未来像が予測される今日この頃。今の生活を老後も続けていける保証はどこにもありませんそう考えると、あまり長生きしたくなくなるというのが本音ですね……。
より多くの貯蓄を得るか、定年後も稼ぐのか
ここまで解説してきた日本の労働環境やさまざまな問題から、今こそ個人で稼ぐスキルを身につけないと豊かな人生を送ることが難しくなってしまう、ということがおわかりいただけたでしょうか。
「副業」という言葉とよくセットで話をされるのが「2000万円問題」です。これは2019年に麻生大臣が国会にて「老後仕事をしないで生活するためには2000万円が必要となる」と発言したことに始まったものです。氏は後日、国民の不安をあおったことを謝罪しましたが、これは金融庁の試算を元にした発言であり、そのレポートには「高齢の無職夫婦世帯が老後30年過ごす際には年金以外に2000万円が必要である」と記載されています。
現在、日本の年金制度は、働く若い世代が年金受給者分を負担するマクロ経済スライド方式を採用しています。しかしあと20年ほどで2000万人近い人口減少がおこることが予測されており、今のままの年金制度では負担が大きくなり、支えきれなくなっていくのは時間の問題です。
そのため、実際に老後に必要な金額は2000万円では足りないとの見方が一般的です。
雇用者側が副業を許可する背景
まだまだ多くの企業が副業を「原則禁止」としている中でも、副業を解禁する企業が増えてきました。副業を許可する背景には下記のような理由が挙げられるようです。
時間の有効活用や経済的余裕を持ちたいと考える従業員の満足度を上げたい
副業を許可することで、従業員のスキルアップや営業活動につなげ、本業への相乗効果を期待したい
企業が個人や家族を守ることが難しい今、各個人が自分で道を切り開けるように環境を整えたい
他にも副業を認めることのメリットには、「多様な働き方を認めている」という会社のPR効果、副業先として自社に優秀な人材を呼び込める、副業で豊かになった会社員の所費が増えひいては経済活性化につながる、といったものがあります。
副業がもたらすメリット
本業の延長上で副業に取り組む人もいれば、全く別の分野でチャレンジする人も。「副業」という新しい働き方は、隙間時間を利用して自分のスキルを生かし、収益化することができたり、新しいことにチャレンジしてスキルアップが見込めたりするため、経済的にもビジネスキャリア的にも効率の良い働き方と言えます。
自分の可能性や引き出しを広げ、高めるための自由なワークスタイルを選ぶことができるのも副業の大きなメリットですね。
副業ができない理由
「副業」を後押しする流れは確かに来ているのですが、実は現在、副業を認めている企業はわずか13%という調査結果があります。
企業にも雇用者側にもメリットが多い「副業」ですが、なぜ浸透していかないのでしょう?
情報漏洩のリスクが高まる、本業がおろそかになる、優秀な人材が流出する、といったことを不安に思う企業が多いようです。
許可されていても副業をするつもりがない、という従業員に理由を聞くと、時間的・体力的な余裕がない、副業に生かせるようなスキルを持っていない、今の仕事にやりがいがあり満足している、といった意見が多いようです。
副業を始める前に気をつけたいこと
副業には様々なメリットがあります。時間や気持ちに余裕があれば、チャレンジしない手はありません。
副業を始める際には、まず職場の就業規則、事前に許可が必要なのかどうかや副業にあたって守らなければならないルールなどをしっかり確認し、上司や該当する部署に申請や手続きを行いましょう。「大した収入にはならないから」「休みの日にやるだけだから」とこっそりやるのはもってのほかです。
また、本業をおろそかにしない、コンプライアンスに注意して本業副業ともに守秘義務を守る、なんのための副業なのか目的意識を持つ、体調管理や時間管理をしっかり行う、という点も徹底しましょう。
副業のために本業に支障が出たり、仕事に追われて休めないような状態に陥ってしまうのは本末転倒です。それなら楽しさを優先させ、自分がわくわくできるものに出会えた時に、初めて副業という選択肢を考えても良いかもしれません。せっかく働くのであれば有意義に仕事に取り組むようにしたいですね。
まとめ
厚生労働省のガイドラインをきっかけに見直されることになった副業。さらにそれを後押ししたのは、パンデミックの影響による在宅勤務の増加でライフスタイルに変化が生じたことや、老後2000万円問題などで収入に不安を感じる人が増えたことだと言われています。
副業をしている人は高収入の方と低収入の方におおまかに二分されている、という調査結果からもわかるように、副業に関心がある方の中には、時間に余裕ができた、自分のスキルを試したいといった前向きな理由もあれば、収入や将来に不安があるためせざるを得ない、という理由もあるようです。
さらに、企業側と働き手側双方にメリットのある副業が実際には13%しか浸透しておらず、企業側が「情報や人材が流出するのを危惧している」ことが大きなハードルとなっている現状があります。働き手も今の働き方や収入に満足していればわざわざ副業を行う必要がないため、必ずしも満足していなくても特に不満がない、という状況の場合も副業を考えることは少ないのかもしれません。
「副業」を認めてもらうための手続きが複雑であったり、ロールモデルがいないと企業側もどのように取り扱って良いのかわからない、という現状もあります。今後、企業の方針や体制が働き手の後押しをする状態になって初めて、副業は一気に普及するのかもしれません。
とは言え、副業としてスキルを発揮できる環境は少しずつ整いつつあります。制度や環境が完全に揃うのを待つよりは、テストマーケティングを行ったり、スキルアップの準備を整えたり、来るべき副業時代に今から備えておくのが良いでしょう。
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