見出し画像

貯えナシから始めた新店舗づくり      【エッセイ:カフェ物語】

「お願い!筋肉痛にならない程度の事しか頼まないから
 新しい店舗の内装手伝って」
とスタッフに少し控えめなお願いから始まった過酷な三か月


事の始まりは、今年の初め
旧店舗の前に流れる瀬田川からの風は痛いほど冷たくて
肩をすくめながらお店に向かった日
「昨日の定休日に降った雨、強かったけどお店だいじょうぶかなぁ」
なんて少し心配しながらドアを開けてびっくり
あまりのことにしばらく立ち尽くしてしまいました

なんと、天井が雨の重みに耐えかねてごっそり抜け落ちていたのです
なんでも戦前からの建物だということで
以前から雨の日には店内の雨漏りに悩まされていました

ひどい時には「えっ、シャワー?」
っていうほどの大量の雨が漏ってくることも
少しの雨でも天井から五か所も六か所も雨が漏ってきて
バケツに落ちた時の「カツーン」「カツーン」という音の中
お客様にお食事をしていただくなんてこともありました

本当に申し訳なかったのですが
優しいお客様ばかりで
「なんだか昭和の香りがするー」
と言いながら笑って許していただいて
本当に有難うございました


そんな訳で、その日も前日の大雨が心配だったのですが

まさかこんなことになっているなんて

大急ぎで何とかしなければと動いたのですが
あれやこれや次から次へと問題発生で
とうとうこの場所での営業を断念することになりました

とっても残念、みんなで作り上げたお店だったのに

でも仕方ない
新しい場所を探してやる


数か月後、大きな窓の素敵な空き店舗を見つけました
がしかし
今回は計画を立てての移転ではありません
全くの貯えがない状態での移転だったものだから困りました

素敵なお店にしたい、、、だけど予算がない
こだわったお店にしたい、、、だけど、、やっぱり予算がない
妥協するかぁ、、
いやいや、せっかくこんな素敵な店舗を見つけたんだから妥協したくない
ならば、自分たちで作るしかない

ということで
最初の「お願い!筋肉痛にならない程度の事しか、、」
の控えめなお願いにつながったのです

本当に、嘘でもなんでもなく
最初は壁の色は白色がいいなぁぐらいのほんの小さな望みだけだったんです
少しの我儘を通したかっただけだったのに
まさかこんな大事になってしまうなんて
ごめんねみんな

筋肉痛にならないなんて大うそ
日々筋肉痛! 
もうヘロヘロ! 
ベッドに入って3秒で熟睡!
来る日も来る日も9時~5時まで大工仕事

10㎝角の檜の木材抱えて、電鋸、ドライバー、塗装にサンダー
お昼の休憩時間の会話なんて
「55㎜のビスより50㎜のビスの方が、、」
なんてまさに職人の世界

手伝ってくれているスタッフみんな普段は本当に綺麗な主婦ばかりなんです
日曜大工すらしたことのないマダムって感じ

なのにこの三か月間といえば、、
頭から足先まで木くずだらけ
手のひらはペンキだらけ
家に帰ったらまず玄関で服脱いで
まるで泥んこになって帰ってきた子供に
「部屋に入る前に玄関で服脱ぎなさぁい、そのままお風呂入っちゃいなさぁい」
って感じです

思い出すと笑っちゃいます

ほんとごめんね、騙すつもりはなかったの
ただ、壁は白色にしたなって
壁塗りだけ手伝ってもらう予定だったのだけど、、
それだけじゃ終わらなかった

もしかして
無計画な私の性格を知り尽くしているスタッフのみんなは心の底で
≪これで終わるはずがない≫
と見抜いていたのかも

≪壁塗りだけで終わろ≫
それで終わるはずのない自分の性格を
一番知らなかったのは私だったのかも


この頃の会話は
「私たちってYDK〝やればできる”かも」
なんてまだまだ平和なものでした


真っ白な壁が完成したら
次は入り口ドアに続くアプローチをレンガで作ってみました
イメージはナチュラルガーデン
ガーデニングだってお手のものです
ドアは深緑にペインティング、みんなのセンスが光ります


この頃からどうも雲行きが怪しくなってきました
お店で使うテーブルやイス、気に入ったものが見つからなくて、、
≪これは、もう、自分たちで作っちゃうか?≫
という恐ろしい考えがふっと頭をよぎるようになってしまったのです

だって仕方がありません
真っ白な壁に店内いっぱいに射し込む陽の光
深緑の素敵なドアを開けると小径風の可愛いアプローチと小花たち
こんなにお気に入りが揃ってしまうともう妥協なんてできません
なにがなんでもお気に入りのカフェを作ってしまいたい
もう止まりません

みんな、最初の
「筋肉痛にならない程度のことしか、、」
のくだりは覚えているのかなぁ
"もう勘弁してよ"
って思っているのかなぁ
みんなに聞いてみたいけど
「覚えてるよ」
って返ってきたら怖いしなぁ

気づかないふりして
「次はベンチ型のイスを作ろうと思うのだけど、、」

本当にみんな有難う
何も言わずに全力で手伝ってくれて
心から感謝しています

切って
サンダーかけて
塗って塗って塗って
組み立てて
ベンチ型イスの完成です

お店の真ん中には12人用の大きなテーブルと足場板で作ったイスを作りました
テラコッタ風タイルを埋め込んだお気に入りのテーブルも完成です
キッズスペースにはおままごとキッチンや本棚、黒板を作って設置しました


厨房は工務店さんに作っていただきました
やっぱりプロの仕事は違います
一ミリ単位の仕事です
寸分の狂いも許さない完璧な職人技に感動します

この頃の私はすっかり大工仕事にはまってしまって
この1㎜の狂いも許さない職人さんの姿勢に魅了され弟子にしてもらおうか
なんて本気で考えてしまいそうになっていました

でもでも、私たちだって負けていません
1㎜の狂いも許さないなんて超人的なことはできませんが
2㎜、3㎜の狂いは誤魔化せる技を身につけることができるようになりました
というか、、
5㎜までなら"まっいっかー"
で済ますことのできる図太さを身につけることができました
私たちはこの仕上がりを〝味〟と呼ぶことにしました


厨房が完成したので厨房手前のカフェコーナーの製作に取り掛かります
設計図が書けるわけでもなく、頭でイメージができるわけでもなく
ましてや展開図・見取り図なんて、とんでもない
行き当たりばったり
「ここどうする?斜めにしちゃおうか」
「ねぇ、この余った板ここにぴったり入るでぇ、取り付けちゃう?」
「めっちゃいい感じやん」
「なんか、斜めになってない?」
「、、、5㎜程度の誤差やし、まっいっかー」
こんな職人さんに聞かれたらとんでもない会話が飛び交う中
何とか形になってきました
カフェコーナーが完成です


この頃になるとみんなすっかり大工仕事が本職です
電動工具の音も軽快に早い早い
ビスの打ち方なんて見事なものです
「私たちってYDK(やればできる娘)」なんて言っていたころが初々しい
今や会話も
「もしかして家一軒ぐらい建てられるんちがう?」なんてたいそうなことに

≪ねぇみんな、ここはカフェだって覚えてる?
 ご飯作るのが本職のはずだけど、、≫ 
≪まっいっかー。≫


レンガを積んで大型ストーブの設置コーナーも作りました
トイレ前の手洗いシンクも作りました
ネットで取り寄せた外国製の水栓金具の取り付け方がよく分からなくて
ちょっと使いづらいですが
これも≪味≫ってことでよしとしました

最後に、お店の前に大きな看板を作りました
セメントで固定した木製の看板に漆喰で文字をぺたぺた粘土のように盛って作ったお気に入りです

こうして3か月をかけてようやく完成です

大きな窓から差し込む優しい陽射し
ゆっくりと流れる静かな時間
心地よいBGMと少し甘めのキャラメルマキアート

そんなカフェを想い描いて始めたカフェづくり
大好きな仲間に助けられて
わがまま一杯のカフェが出来上がりました

爽やかな春風が心地よい4月に始めたカフェづくり
今、明るく大きな窓の外では気の早い蝉が鳴いています




この記事が参加している募集

眠れない夜に

つくってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?