バーバー吉野 【わたしの黒歴史】
朝8時。わたしはすっぴんに赤メガネ、髪をひっつめて上下部屋着のスウェットという出立ちで友人加藤の家を訪ねました。
インターホン鳴らすと玄関ドアが開き、わたしを見た加藤は一言
「オマエ。もたいまさこか?」
前日の夜、加藤のアパートで飲みすぎたわたしは、ほとんど記憶のないまま家まで帰ったのです。記憶はないものの、目覚めた時「きのう絶対あかんことした」という確信だけはしっかりありました。
恥と不安から二日酔いもどこか感知できない所へ吹っ飛んでしまい、居ても立っても居られなくなったわたしは、翌朝の極めて健康的な時間帯に加藤のアパートに向かったのでした。
チャリを停めると、アパートの裏バルコニーにつながる外階段の上り口に、靴が綺麗に揃えて置いてあるのが目に入りました。
わたしのパンプスでした。
完全に「お邪魔します」の揃え方でした。いやもしくは「これから身投げします」の揃え方にも見えました。とにかく行儀良く揃えてありました。
紛れもなく昨夜履いていたやつです。靴の持ち主はここにいます。
「昨日どうした?わたし」
加藤の『もたいまさこ』発言にクスリとも逆にイラともしなかったのは、「わたしが昨夜やらかしたであろう何か」のことしか頭の中になかったからで…
「オメーさん、途中で急に出てったぞ」
そうだ、わたしは友達とみんなでここで飲んだ。だけど途中で気分が悪くなって外に出たんだ。
「あたし吐いたこと覚えてる」
点と点がおぼろにつながったところで、とにもかくにも早急に昨夜のアレ(最悪なことには加藤のアパートの共用スペースに吐き散らかしたアレなのである)を片付けねば、という話になりました。
消えてしまいたい気持ちで、外にあったデッキブラシを拝借。「もう飲まない。酒はやめる」とブツブツ言うわたしの横で、加藤はニヤニヤしながらホースで水を流してくれたのでした。
今思えば、加藤はなんていいヤツだったのでしょう。わたしのゲ◯をいっしょに掃除してくれたのですから…
封印していたはずの真っ黒い昔話を思い出してしまったのは、先日見た「バーバー吉野」のもたいまさこのインパクトが強すぎたからで。
神ノゑ町では男の子はみんな「吉野刈り」という髪型にしなければなりません。これは100年続く伝統で、なんでも、伝説によれば天狗が男の子を連れて行ってしまうからだとか。そんな、古き良き?風習が根強く残る田舎町に、転校生がやってきます。それが、カッコ良い坂上くんなのでした。
少年達が集まると、特別な物語が始まるのはなぜでしょう?少年映画と言えば「グーニーズ」もそうですが、メンバーには必ず“メガネ”と“ぽっちゃり”が必要です。メガネのカワチンはテディ(スタンドバイミー)とステフ(グーニーズ)。ぽっちゃりのグッチはバーン(スタンドバイミー)とチャンク(グーニーズ)。チビのヤジの印象は、データ(グーニーズ)がぴったり。主役のケイタは主役らしくまじめで眼差しが強く、ゴーディやマイキーとしっかり重なります。
次第に髪型を強制されることに疑問を抱き始め、反抗を始める少年たちは、家出同然で森に入ります。ここら辺で、やっとこれは「スタンドバイミー」なんだと気がつきました。
「バーバー吉野」がなぜ「グーニーズ」でなく「スタンドバイミー」なのかというと、ポイントは都会から来た転校生坂上くんにあります。彼は絶対、スタンドバイミーの「クリス」だからです。そう気がついてから、坂上くんをもう一度よく見てみました。本当によく似てる。彼はリバー・フェニックスなんだ!
とにかく!余計な考察や考えすぎは抜きにして、純粋に声を出して笑ってしまう可愛さとなつかしさと。きっと誰しも覚えがある世界。特に最後のリコーダーのシーンは気まずさ満点!
もたいまさこが食べてる柿の種が、缶に入っているの。無性に食べたくなった。
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