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【短編小説】誰が一票を投じたのか?

 冴えない印象の女子が四人、隅の机に集まってなにやら話をしている。服装や振る舞いこそどこかのOLか何かではあるが、全員服装が妙にちぐはぐであった。
「それで、相談って何なの?」
 話を切り出された一人が早速スマホを取り出す。それはTwitterのアンケート画面だった。

【アンケート】皆さんから見てもちぷりんはどんな絵師ですか?
神絵師だって答える方は流石にいないかなって思いますが(←じゃあ何故入れたしw)、お気軽に入れていただけるとうれしいです^^

・神絵師 10%
・プロ絵師 20%
・一般絵師 60%
・底辺絵師 10%
総投票数 10票

「それでね、誰が底辺絵師に投票したのかを調べたいの」
 もちぷりんがそんなことを言うので、三人は顔を見合わせた。
「私はプロ絵師に入れたよ、もちちゃん絵上手いもん」
 すかさずAがそう言った。
「私は神絵師に入れたよ!」
 Bがそう言った。するとCがすかさず反論を入れる。
「は? 神絵師に入れたの私だけど? そうやって好感度稼ごうとするのやめて?」
 Cに三人の視線があつまるも、このままでは話題が想定と違うものになる。もちぷりんは慌ててその場を取り繕った。
「いいの、みんながどこに投票したのかが問題じゃなくて、底辺絵師に投票した人を知りたいってだけだから!」
「そもそも調べようとしても無理じゃないかなぁ」
 喧嘩に巻き込まれるのはゴメンと言わんばかりに、Aがもちぷりんの話題に乗る。BとCもバチバチに火花を散らしつつ、スマホの画面を見た。
「手が滑ったんじゃないかな。底辺絵師じゃなくて一般絵師に投票したかったのに、手が滑ったとか」
「そんな解釈アリ?」
「私もたまにやらかすときある。その時はリプライ送るけど」
 Cが自分のスマホを示した。
 ――すみません、アンケート間違ってDに投票してしまいましたが本当はCです!
「そのリプライって意味あるの?」
 Bの刺々しい物言いにCはむっとした顔をした。
「一応言ってるだけ」
「でも、私のにはそういう訂正リプライないんだけど」
「全員が全員そういうリプライするわけじゃないからね」
 Aは手元のアイスティーを口にした。他の三人も次々に飲み物を口にする。
「…………」
 彼女たちの視線は、みんなスマホの上にあった。
「そういえばさ、」
 もちぷりんが口を開いた。
「みんなのアカウントから私のツイートを見れば、誰がどれに投票したのかわかるんじゃないかな」
「知りたいの?」
 Bが怪訝そうな顔をした。
「あまり気にしすぎるのもよくないと思うけど」 
 すかさずCが鬼の首を取ったようにして叫んだ。
「自分が見せられないからって逃げなくていいんだよ!」
「は?」
 Bの手にあるプラスチックのカップが歪む。慌ててAが口をはさんだ。
「今回は運よく一部の票の出所を確認できるかもしれないけど、本当はそういうことはなかなかできないよ。もしもここでみんながどこに票を入れたのか見たら、もちちゃんはこの先も誰がどこに票を入れたのか気にし続けると思う」
 もちぷりんはちょっと納得したようだった。
「…………」
 そして、また四人は同時に飲み物を口にして、自分のTwitterアカウントを見る。

(危なかったぁ)
(危なかったぁ)
(危なかったぁ)

 票を入れる、という最低限のことさえすればよいだろう。三人は同じことを思い、同じところ――一般絵師に票を入れた。もちぷりんの絵は典型的な発展途上の絵だ。プロや神に比肩するなど現状においては絶対にありえない。かわいらしい女の子の顔は描けても、首から下は明らかにアンバランスで、手に関しては複雑骨折をしているといって差し支えない。
 友人への忖度をすることもできるが、流石にこのイラストに「プロ絵師並み」なんて評価はできないししたくない。他のプロ絵師に失礼な気がする。神絵師なんてなおさらだ。
 別に、AもBもCもそこまで絵が上手いわけではない。偉そうな説教なんてできない。彼女との縁を切らないのは、自分の出した本やグッズを全部購入してくれるから、ただそれだけである。
(人気ジャンルに次々乗り換えして一番人気のキャラ描いてキャラ側の人気に乗っているだけなのに、それを自分の人気だと勘違いできるのがすごいなぁ)
(そりゃフォロワーに媚売ってればお世辞の「絵上手ですねぇ」くらいはもらえるでしょ)
(底辺絵師認定されたくなかったら、最初から投票の選択肢に組み込まなければいいのに)
 あの調子なら、最多得票がプロ絵師になると思い込んでいたのだろう。
 もちぷりんが小さく息をつく。
「やっぱり、私って底辺絵師なのかな」
 三人は慌てて、否定の言葉を投げた。
「もちちゃんは絵上手いよ! この前だって×××の××を描いていいねニ十個たくさんもらってたでしょ?」
「フォロワーさんからもいっぱい、絵上手だねって言われてるじゃん!」
「きっと嫉妬だよ嫉妬。嫉妬で底辺絵師に一票投じたやつがいるんだよ」
 少し暗い表情をしていたもちぷりんは、笑顔を見せた。三人は心の中でそっと安堵する。
「なんか、いろいろ吹っ切れた! ありがとう!」
「よかったー」と、Cが言う。
「元気が出たなら何よりだ」と、Bが言う。
「もちちゃんの絵が見られなくなったら嫌だから、安心したよぉ」と、Aが言った。
「……ありがとう、みんな!」
 笑顔のもちぷりんに、三人は安堵の笑みを携えた。
「元気出してー」
「気にしないでー」
「私たちは味方だからー」

「「「ねー?」」」

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)