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【超短編小説】ピンクの木
図工の先生が言いました。
「今日は木を描いてみましょう」
生徒たちはみんな、絵の具で思い思いに木を描き始めました。
大きな木、小さな木、沢山の木……。
その中で、一人だけピンク色の木を描いている女の子がいました。
先生はちょっと考えて、
「××ちゃん、木はピンク色じゃないでしょう」と注意をしました。
そして、お外のポプラの木を示しました。
ポプラの木は緑色の葉っぱを風に揺らしています。
女の子は考えます。
春の、丁度この学校にやってきたとき……。
通学路にはピンクの木がたくさん並んでいました。
だから女の子は思いきって言いました。
「せんせい」
先生は、優しい眼差しで女の子を見つめます。
「はるのお外の木は、ピンク色だったよ」
すると先生は、深いため息をつきました。
「何度言ったら、分かるの? ピンク色の木なんてないのよ。周りをご覧なさい。誰も木を緑色に塗っていないでしょう」
先生の言うとおり、木にピンク色を使っているのは女の子だけでした。
隣の席の男の子が、女の子に緑の絵の具を手渡しました。
彼は、女の子が緑色の絵の具を忘れてきたのだと勘違いしたのでしょう。
「ほら、××くんが緑色の絵の具を貸してくれるって」
先生は、女の子が描いたピンク色の木の絵をグシャグシャに丸めました。
女の子は、先生から新しい紙を受け取りました。
数日後、学校に転校生がやってきました。
図工の時間は、やっぱり木を描く授業でした。
転校生は、一生懸命木を描いています。女の子はその様子を、じっと見つめていました。
下書きが終わって、色を塗る段階にきたとき……。
転校生はピンクの絵の具を取り出して、木をピンク色に塗りました。
女の子は立ち上がって、転校生の絵をさっと取り上げました。
転校生は、「えっ」と小さな声を上げました。
クラス中の子供たちが、女の子を見つめます。
「木はピンク色じゃないんだよ」
女の子はそう言うと、転校生の絵をビリビリに破いてしまいました。
泣きじゃくる転校生の前で、先生は女の子に手を上げて……ぶつなんてことはしません。先生は女の子を褒めたのです。やさしく頭を撫でて、女の子を褒めました。
女の子は「エヘヘ」と嬉しそうに笑いました。
転校生の隣の席に座っていた生徒が、緑の絵の具を貸しました。
先生はその生徒のことも、おんなじように褒めてくれました。
千切れた画用紙が、風に踊る様子は、
桜の花びらが散る様に、とてもよく似ていました。
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)