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【短編小説】旅人とみっつのクリエイむら

 旅人は、あちこちのむらをめぐっています。
 きょうはひとつのクリエイむらにやってきました。
 クリエイむらは、この世界のあちこちにあるむらで、
 そこにはものをつくることが好きな人たちがたくさんいます。

 絵をかくのが好きな人は、えがく人。
 物語をかくのが好きな人は、つづる人。
 音楽をつくるのが好きな人は、うたう人。
 他にも、おどる人やかなでる人、えんじる人に、ほる人!
 たくさんの人たちが、いろいろなものをつくっています。

 旅人は、いっしゅうかんほど前に、
 別のクリエイむらからやってきました。
 そのクリエイむらには、つくらない人たちもたくさんいました。
 かれらは、つくる人たちがつくったいろいろなものをみて、
 ああでもない、こうでもない、といろいろなことを言っていました。
 そしてそのケンカは、だんだん激しくなって、
 ついに、なぐりあいになってしまいました。
 つくる人たちは「こりゃ、たいへんだ」とすっかりおびえて、
 クリエイむらを去ってしまいました。
 旅人も「こりゃ、たいへんだ」と
 あわててクリエイむらを去りました。

 旅人は、自分が少しの間すごしたクリエイむらが
 あのケンカで無くなってしまったことを新聞で知りました。
 つくる人がだれもいなくなって、
 つくらない人だけがのこってしまったのです。
 旅人は少し悲しくなりましたが、
 このクリエイむらは大丈夫だなと思いました。
 なぜならこのクリエイむらには、
 つくらない人たちがいないのです。

 旅人がやってきたとき、このクリエイむらの人たちは、
 「きみは、つくる人かい?」と旅人にたずねました。
 旅人が「つくらない人だ」と答えると、
 その人はあまりよくない顔をしました。
「ここは、クリエイむら。
 つくる人のための場所。
 つくらない人は必要ない。
 でも、旅人を追い返すほど、
 わたしたちも冷たくない」
 たしかに、旅人はひどいあつかいを受けることはありませんでした。
 しかし、旅人は、どこかいごこちの悪さをかんじて、
 予定を早めて旅立ちました。

 旅人は、いっしゅうかんごに、
 また別のクリエイむらにやってきました。
「わたしは、つくらない人だけど、
 ここで少しの間、すごしても
 モンダイないかな」と、旅人がたずねます。
 すると、その人は顔をかがやかせて
「つくらない旅人さん、ぼくの絵をみてください!」
 と言って、みごとな絵をみせてくれました。

 それから、えがく人、つづる人、
 うたう人、おどる人、かなでる人、えんじる人、ほる人……。
 たくさんの「つくる人」があつまって、
 旅人のまわりはとても、にぎやかになりました。
 もともとこのむらにいた「つくらない人」も集まって、
 みんなでつくる人のさくひんを楽しみました。

 つぎの日、旅人が新聞をめくると、
 いっしゅうかんほど前にすごしたクリエイむらが
 無くなったという記事がありました。
 あのクリエイむらには、「つくる人」しかおらず、
 「つくらない人」がひとりもいませんでした。
 つくる人しかいないクリエイむらでは、さくひんは次々できあがりますが、
 そのさくひんにふれるよゆうのある人がいなかったのです。
 つくる人はつくるのにいそがしくて、
 ほかの人のさくひんには、すぐに触れることができません。
 つまり、ほかのクリエイむらとはちがって、
 せっかくさくひんをつくっても、だれも見てくれないのです。
 そのクリエイむらには、だれからも愛されなかったさくひんたちが
 たくさん捨てられています、と新聞には書かれていました。

 旅人はすこし悲しくなりましたが、
 このクリエイむらは大丈夫だなと思いました。
 なぜならこのクリエイむらには、
 お互いにお互いをうやまうことができる
 つくる人とつくらない人がいるからです。

 旅人は、名残惜しさをかんじましたが、
 明日、このクリエイむらを発つことにしました。
 すると、それをしったひとりのつくる人が、
 旅人にこう言いました。

「わたしは、つづる人です。
 旅人さん、どうかあなたの話を
 わたしにつづらせてください」
 旅人はこころよく、彼のお願いを聞き入れて、
「みっつのクリエイむら」のお話をしたのです。

 旅人は今日も、どこかを歩いています。
「みっつのクリエイむら」のお話は、
 今日もあちこちのクリエイむらで、
 ながーく、ながーく、かたりつがれています。

 おしまい。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)