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とある会社の想定外な2年間

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2020年4月の記事一覧

なぁまぁたぁまぁご(研ナオコ風)

 Sさんから受ける電話はいつもこんな感じだ。

電話を取るといきなり「撮影の準備して」

自分が誰であるかとか前置きは一切ない。いきなり要件。なんの撮影か問うと「卵。割った卵」

どんな風に撮りますか?なんに使いますか?「卵が落ちるところ。ポスターに使う」

こんな感じで少しづつ聞き出したら、どうも生卵を割り、中身が落ちる様子を、割った手と殻を入れて写真に撮りたい様だ。背景は真っ黒で、手、殻、卵だ

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いちいち工具を買ってくる

 社長は普段会社に居ない。普段は市街地にあるレンタルオフィスに居るらしい。若者起業者やSOHO向けの、デスクひとつ置いたスペースをパーテーションで囲って貸し出しているアレだ。従業員がいる会社の社長さんなんだし、そのスペースの空きがでるのを待ってる人いるんだから、会社に戻るなり他のちゃんとしたオフィスを借りるなりすればいいのにと思う。

 来るときは会社に電話をかけてきて、それから出社する。アポを取

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げ、限界だ....あぁぁぁぁぁ

 この日は夕方から看板の搬入の手伝いだ。昼間のうちにカットと貼り込みを済ませた内照式の看板に、蛍光灯を取り付け配線をして作業車に積む。長さ2.5mくらいのさほど大きくない看板だが、金属製の枠にいろいろ部品を付けてあるのでけっこう重い。K部長と車に乗って出発だ。

 自動車修理工場の建物正面、大きなシャッターの上に今回の看板をかけることになっている。今日は看板の搬入だけで、明日の朝から鳶職人と一緒に

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ボク、頭良いから

 重そうなパンパンのTUMIバッグを抱えてSさんが現れた。あのバッグには何が入っているのだろう?看板屋の営業だから材料のサンプル集とか、既製品のカタログとか入れてるのかと思ったら、そういうのはわからないから持っていないらしい。たまに英語で電話をしている時に辞書を出すことがある。中学入学時に買ってもらうような分厚いA5版のコンサイスだ。あんなもの持ち歩いてるのか?

 私は幼い頃からなぜか無線通信に

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社長、粉を吹く

 看板製作の日々が続く。教育のために時間をとってもらえるわけではないが、何かの折に教えてもらえる先輩方の知識や知恵の片鱗を拾い集め、それを作業に生かしていくのがなんとも楽しい。作業指示を受け、わからない点をまず考えて解決し、それを「こんなやり方でいいですか?」と確認してOKが出たら作業を始める。分からなければ何がわからないのか、どの点がわからないのか理解してから質問する。みんな忙しいから、自分であ

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職人の技

 看板の業界には「貼り職人」と呼ばれる人たちがいる。シートを貼る専門の人たちだ。なんどかその技を見る機会があったが、それは予想以上のハイレベルなテクニックだった。

 まず曲面にシートを貼る技。かなりの高難易度だ。平らな面に貼ってもシワや気泡が入りやすいシートを、シワも気泡もいれず曲面に貼るのだ。バスや鉄道車両、企業の看板車などをラッピングするためにシートを貼るのもこの人達。シートだけで無く、大型

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続・看板製作入門

 カストリが済んだ粘着シートに転写シートを貼る。リタックとかタックシート、アプリケーションとも呼ばれるシートだ。この会社ではリタックと呼んでいた。リタックを綺麗に貼ったら隅の余分な部分を切り落とす。この時水平の基準になる場所や、隣りに貼るシートとの位置合わせになる部分を切り落としてしまうと現場が苦労する。リタックにシワを入れてもまずい。大きすぎるシートを作っても、小分けにしすぎてもよくない。水平の

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看板製作入門

 写真の仕事が済んでしまったので、Kさんについて看板製作の初歩を教わる。まずはカストリという作業だ。製図などでも使われているプロッターという機械がある。製図の場合は縦横自在に動くヘッドにペンが装着されていて、大きな紙に線を引いたり文字を記入したりして図面を描く。看板屋の場合は紙ではなく粘着シートをセットし、ヘッドにはペンでは無くカッターの刃先が着いている。そしてイラストレーターなどのベクトルデータ

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新事業部立ち上げ

 会社の本業は看板製作と設置。レンタル看板とかはやってない。そして今度新事業として写真事業部をたちあげるのだそうだ。私はその要員として呼ばれたわけ。新事業部の部長は営業部長のSさん。

 Sさんは元々カメラマンであり、今もその仕事を副業として続けているとのこと。スタッフが常駐しているスタジオも3ヶ所持っているという。

 新事業部を立ち上げるのは、京都の観光PRプロジェクトに参加するためで、あの有

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見慣れた新天地へ

 新しく勤めることになった会社は、看板の製作と設置が専門の会社だ。いわゆる看板屋さん。実は以前の勤め先の隣近所で、毎日この会社の前を通って通勤していた。その頃に何度か仕事をお願いしたことで営業部長さんと知り合った。

 以前勤めていたのはやはり結婚式場だ。写真屋を立ち上げる会社がありカメラマンを探しているから来ないかと、新幹線で3駅離れた都市に住む友人から誘われた。当時はスタジオに勤務しており、辞

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新天地へ向けて

 もらった電話で即答してしまい、まだ家族には何の相談もしていない。既に決めてしまった事とはいえ、大いに影響を受けるであろう妻に事後報告というのはなんとも話しにくい。恐れながらと報告し、どんな事態になるかと恐縮しきりだったが、妻はあっさり「そう。いつから?」の一言で済ませてくれた。妻は妻の姉と従業員10名ほどの広告代理店を営んでいる。やはり経営者は肝の座り方が違うのだろうか?

 これまで仕事を出し

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広告写真の事をちょっとだけ

 誘われた新規事業とは、いわゆる観光写真だ。

とはいっても、観光地で記念写真を撮るといった写真館的な業務ではなく、観光地そのものをPRするいわば広告写真の一種だ。

 広告分野の写真撮影のことを業界ではコマーシャルフォトと呼ぶ。商品や商品を着せたモデルを撮ったり、料理を撮ったり建物を撮ったりと、コマーシャルフォトがカバーする分野は結構広い。販売促進、略して販促のための印刷物やWeb向けの撮影は概

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とある会社に迷い込んだ2年間

 ある日の仕事中に携帯電話が鳴った。ある結婚式場でロケーション撮影の準備を済ませ、被写体となるお二人を待っていた時のことだった。かけてきた相手は以前の勤め先で出会った外注業者の営業部長さんだ。

「今何の仕事してる?新規で立ち上げる仕事があるんだが一緒にやらないか?」

以前の勤め先を辞めた後、フリーのカメラマンとして仕事をしていた私へのオファーだった。ありがたい話だ。でもよく聞くと請負仕事ではな

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