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【木曜日連載】虎徹書林のチョイ怖シリーズ第三話『そば処千妖にいらっしゃい』 第十三回【書き下ろし】

 初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
 二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
 こんにちは、あらたまです。

 木曜日は怖い話の連載。
 第三話は第二話に引き続き【御愛読感謝企画】でまいります。
 テーマは『御蕎麦屋さんの話』です。
 読者様アンケートにお答えして「憎めない、愛着湧くような妖怪」が出てきたり「悶絶するような、美味しいアテ」で皆々様の唾液腺をぐいぐい刺激したり。その合間に「チョイとだけ怖い」思いを楽しんでいただけるような……そんなお話を目指します。
 連載一回分は約2000~3000文字です。
 企画の性質上、第三話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
 専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
 ※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。

かんだやぶそばさんの内装


【五把目】雑炊は春の海の味~其之一~

 私のおばあちゃんは、やはり私のおばあちゃんらしく、知りたいことも聞きたいことも最短ルートで切り込んでくる。
 血は争えない。まさに単刀直入だ。
「そろそろ五月の連休でしょう?休みの前に、一度学校のお友達に会いに行ってみる?」
 おばあちゃんが隙をついてそう言ってくるたび、私は大きくため息をつくばかりだった。
 帰ったところで、ろくな居場所なんて無いのだ。
 ちょっと顔を見に来たよなんて喉越しの良い言葉を並べても、実際にはどんな顔して向き合えばいいか分からない。
 自分で反故にした居場所を再構築するための腹積もりが、私にはどうやったところでできなかったのだ。
 「ううん、まだ。いいよ」
 「そう……ヨウちゃんの人生だからね、じっくりね」
 
 既に陽は河の向こうのビル群に半分以上その身を沈めていた。
 そろそろ今日の分の食材が出尽くして、閉店の準備を始めてもいい頃だった。
 私は自分の当面の身の処し方を棚上げにして、暖簾をお店の中に下げるために引き戸に手を掛けた――のだが、戸の方が先に開いた。
 「あ……ども」
 風変わりな抑揚をつけたバリトンが、鼓膜を擽った。
 「は?あ、えと……」
 「暖簾、表向きってことは、まだやってんだよね」
 「えーっと……はぁ、いらっしゃいませ」
 手持無沙汰な夕暮れ時、店先に突如現れたその男性客は、素性が全く推測できない珍妙ないで立ちをしていた。
 肩甲骨が隠れるほどのサラサラなセミロングを、凝ったグラデーションで七色に染め上げて、両耳にしこたまピアスをぶら下げているのだが、服の方にはオシャレに対するこだわりがとんと感じられない。
 かつては真っ白だったのかもしれない無地のTシャツは、泥汚れや食べこぼしっぽい謎のシミで斑に染め上げられ、剰え釘などで引っ掛けたのか所々大小の穴を拵えており、襤褸雑巾を無理矢理巻き付けているような印象だった。ダメージ加工だと説明されたら、絶対に嘘だと即座に糾弾するレベルだ。むしろその場しのぎとして、原点回帰的に現代に蘇らせた糞掃衣であるとかナントカ言われた方が、よっぽど信用してしまいそうである。
 下半身を覆う面積の極めて少ない布も、似たようなものだった。裏地で作られたポケットは本来は見えてはいけないはずなのに丸見えだったし、かろうじて残っている表地らしき布地から、どうやら元々は丈夫が取り柄のデニム生地のズボンだったと思われた。
 ともかくも、一体全体、このお客様は何故かくもズタボロな格好であらせられるのか?
 
 
 
 「どしたの、ヨウちゃん?」
 私の様子が気になったおばあちゃんが戸口にまでやってくると、祠の方からふわりと風が吹いた。
 潮風のような、薬草の葉を軽くなでたような、妙に爽やかな風だった。
 「おばあちゃん、あの……どうしよう、お客様が」
 「あー、これはこれは!そうね……じゃ、ヨウちゃんは先ず暖簾を下げちゃって。それからお客様をお席にご案内してね」
 お客様はイヤアすまねえっす!とヘラヘラ笑っていたが、私は内心気が気ではなかった。
 「え、でも。今日の分はもう――」
 「いいから、いいから。なんとかするのが女将の心意気、お客様をお待たせしてはいけませんよ」
 大変、大変……と。おばあちゃんは小走りで厨房へ戻っていった。
 
 おばあちゃんがなんとかすると言うのだ。
 女将の、店主の決定は絶対だ。
 私は言われた通り、暖簾を引っ込めた後に、一枚板のテーブルを最も広々と使えるど真ん中の席にお客様をご案内した。
 お客様は丸椅子にどっかりと腰を降ろすと、右手の親指と中指をパチ、パチと鳴らした。
 何故、二回?
 ちょっとお高いレストランで、気障な男性が見栄を張って指をパッチンと鳴らしてウェイターを呼び止め顰蹙を買う、なんていう場面はドラマや映画で見たことがある。しかし、大抵はもったいぶって、せいぜいが一回だ。
 すっきりと伸びた背筋とリバイバル糞掃衣のコントラストに加え、ダブルの指パッチン。これはもう奇妙を通り越して……コントだ。
 当の御本人はというと、いたって真面目な顔である。
 「あー、あのね?手っ取り早く腹に溜まるものをお願いしたいんだが……そのぉ……あまり日本円の持ち合わせが無くてだね」
 バリトンボイスが載っているその奇妙な抑揚は、私が知り得る限りの外国語のそれとも違っていて、素性をますます謎めいたものにしていた。
 が、問題の本質は、そこではなかった。
 「え?日本、円、ということは……それ以外の通貨は潤沢にお持ちなんですか?」
 端から無銭飲食を決め込むつもりとあらば私にも即実力行使の準備はあったが、急いては事を仕損じるという言葉もあるし、一応お客様の懐事情をそれとなく探るつもりだったのだが……。
 お客様は一瞬呆気に取られた風に私を見つめ、その後アッハハハハハ!と豪快に笑った。
 「キミぃ!なかなかに面白いじゃないか!そういうセンス、好きだぜ」
 「はあ、ありがとうございます」
 私の何がお客様の琴線に触れたのか?
 判らないなりにアレコレと推理を巡らせつつ、お茶とおしぼりの用意をするために奥に戻る間、お客様はヒーヒーと涙を拭いながら笑い転げていた。
 「あ!緑茶は止めてくれる?苦手でさあ。ジンジャーエール、あれば嬉しいんだけど……無ければア、緑茶じゃなけりゃ何でもいいや」
 えーっと、こちら……ご陽気オブラートで包んではいるけれど、実のところ物凄く厄介なタイプなのでは?近頃何かと話題の『クレーマーとまでは行かずとも、自分の事を神様として扱えと言い出すお客様』だったりして……そんな薄ら寒くなる思い付きが次から次へと浮かんだ。
 とはいえ。
 この手のトラブルは当面、勘弁願いたいと思っていたのになあと思う一方で、そう決めつけるのは時期尚早ではないかという正体不明のシグナルも感じていた。



【五把目 其之二に続く】


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 それでは。
 こーんな端っこまでお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
 次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ
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