日本との出会いと創作への想い:絵本作家フィリップ・ジョルダーノ インタビュー#2
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日本との出会いと創作への想い:絵本作家フィリップ・ジョルダーノ インタビュー#2

日本の四季それぞれに吹く風と、その風が奏でる音(オノマトペ)をリズミカルに描いた絵本『かぜのうた』。
風鈴や鯉のぼり、凧など、日本に特有な風に関するモチーフを、独特の感性で描いたのがイタリア人作家のフィリップ・ジョルダーノさんです。グローバルに活躍するフィリップさんの手で描かれた日本のモチーフには、どこか異国的な雰囲気を感じます。
2回に渡ってお届けするフィリップさんのインタビュー。1回目に続き、第2回目は、『かぜのうた』の制作秘話について伺います。

自然と関わるための絵本

ーフィリップさんは子供時代、どのような本が好きでしたか?

絵本に携わる仕事をしているものの、興味深いことに、幼少期は多くの絵本を読みませんでした。両親は多くの絵本を買い与えてはくれませんでしたし、私も絵本が欲しいとは両親にお願いしませんでした。
変わりに、植物についての科学本を買って欲しいと頼み、それらを繰り返し読んでいました。実は、絵本よりもそうした本の方が好きだったんです。だからかもしれませんが、最近は、ノンフィクションの本、特に自然科学について扱った本に携わることにとてもやりがいを感じています。


絵本のジャンルで見ても、私はエンツォ・マリやイエラ・マリの作品がとても好きですが、彼・彼女は自然科学を感性的な視点から描いているという点でノンフィクションに通じるところがあるのではないでしょうか。
小さな頃から好きだった絵本に'' LA MELA E LA FARFALLA''(日本語版『りんごとちょう』ほるぷ出版)があります。通っていた幼稚園でこの本を見つけたんです。この絵本は、幼虫が成長して孵化し、蝶々になるまでの成長過程を感性的に美しく描いた作品です。ストーリーテリングの要素を持つ絵本と、科学本の中間に位置づけられる作品だと思います。

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Iela Mari, Enzo Mari "LA MELA E LA FARFALLA" Babalibri

エンツォ・マリ(1932-2020)
1932年イタリア、ピエモンテ州ノヴァーラ生まれ。工業デザインに多大な影響を及ぼしたイタリアのデザイナー、アーティスト。2020年のミラノトリエンナーレでは、ハンス・ウルリッヒ・オブリストによるキュレーションのもと『巨匠 エンツォ・マーリ』が開催された。(2021年9月迄開催)

イエラ・マリ(1932-2014)
1932年イタリア、ミラノ生まれ。デザイナー、絵本作家。夫であるエンツォ・マリと組んで、グラフィックアートの面から子供の視覚に訴える玩具、絵本の開発を数々手がける。代表作に"L' ALBERO"(日本語訳「木のうた」)、エンツォ・マリと共作した"LA MELA E LA FARFALLA" (日本語訳「りんごとちょう」)等がある。

「かぜのうた」について

ー「かぜのうた」は、フィリップさんにとってどのような絵本ですか?

「かぜのうた」も、絵本にあるストーリーテリングの要素を生かしつつ、風の作り出す様々なオノマトペを紹介するノンフィクション的要素を持つ作品です。その意味で、私の関心のあるエリアでのプロジェクトでした。
また、この作品に関わることで、新たな日本文化の面白さも発見できました。日本はオノマトペが豊富な国としても知られていますが、風の音だけとってみても、本当に多様なことを学びましたね。イタリアには、ここまでの種類はまずありません。オノマトペの豊かさを表現したこの作品は、私にとっては、非常に日本的な作品に感じます。
“鯉のぼり”や“風鈴”も、当然イタリアにありませんが、風を感じて楽しむための玩具として日本文化が作り上げたものです。日本の人々にとって、風がいかに近しく、親しみのある存在であったのかが、このプロジェクトに関わることで改めて分かりました。

デジタル技術に手描きの温かみを

ー制作にあたって特に心がけた点はありますか?

「かぜのうた」では、配置される風の音(言葉)と上手くバランスが取れたイラストを作ることを心がけました。イラストと音(言葉)が連動することで、風の表情を描くことが初めて可能になるからです。
風の音が配置される白いページと、それと対になるヴィヴィッドなイラストのページの良いバランスを取ることは、簡単なように見えて難しい作業で、チャレンジングな試みでもありました。いろいろなパターンを考えて試行錯誤しましたよね。最終的に、音(言葉)とイラストが互いに引き立てあうことの出来る、良いバランスを見出させたと思います。

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それから、この絵本は0歳や1歳といったとても小さい子供達も楽しめることを心がけていますが、その際重要なのは、描かれる対象がはっきりとしていることです。
子供達は、世界の中に出て行く際に、言葉を覚えていく必要があります。絵本に登場するタンポポや、かざぐるまといったモノが作り出す音を通して、そのモノが一体何なのか、そしてそのモノの名前を学びます。だからこそ、小さい子供達向けのイラストは、クリアで分かりやすくなければなりません。子供達は世界を知るための地図が必要ですし、絵本はその役割を担っています。

ークリアなイラストでありつつも、詩的な繊細さも感じますね。

その点は、イラストを制作するにあたっての自分のミッションとして、常に心がけている点です。
基本的にデジタルの技術を使っていますが、単色に見えるところにも複雑なグラデーションを施したり、手書きのスケッチをスキャンして取り込むなど、細かなこだわりがあります。デジタルの技術を使って、手書きが生み出せるような温かみや繊細さを表現することを私は大事にしているんです。
小さな子供達を対象とするため、クリアで分かりやすい絵でありつつも、洗練された詩的な雰囲気を作ることを心がけています。

子どもの絵本と誠実さ

ー子どもの絵本を作るにあたって、大事にしていることはなんですか?

たった1つの決め事ですが、それは自分自身に誠実であるということです。自分の中にある真実を見つけて、それを物語や絵で表現するために、誠実でなければいけないと思っています。
私たちは毎日様々なことに影響を受けています。そうした中で、何か表層的なことを真似て、これは自分だと言っても、それは自己表現ではなく他を真似ただけです。今、私たちの周りには絵本も含めて、様々な本があふれています。あふれすぎていると言ってもいいくらいです。残念ながら、そうしたものの中には、ただトレンドを追っただけの本も少なくありません。
自分に誠実であるということは、とてもシンプルなことに聞こえますが、様々な情報に溢れる今日の中では非常に難しいことでもあります。そして、自分に誠実であることは、作品の読者である子どもたちに対して誠実であることも意味しているんです。

(終わり)

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フィリップ・ジョルダーノ Philip Giordano
1980年、イタリア・リグーリア州生まれ。父はスイス人、母はフィリピン人の一家に育ち、現在はイタリアと東京を拠点に活動する。イラストレーター、絵本作家。多彩かつシンプルでアイコニックな作品は、イタリアはじめ世界各国で紹介され、国際的に高い評価を得ている。これまでにボローニャ国際イラストレーション賞、全米イラストレーター協会銀賞、国際推薦児童図書目録「ホワイト・レイブンズ」選定はじめ受賞歴多数。
日本で紹介された作品に『まっくろくろのおばけちゃんのぼうけん』(岩崎書店)、『ロディとほしたち』(プレビジョン)、『朝ごはんは、お日さまの光!』(徳間書店)など。
https://philip-giordano.com/

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