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日本との出会いと創作への想い:絵本作家フィリップ・ジョルダーノ インタビュー#1

日本の四季それぞれに吹く風と、その風が奏でる音(オノマトペ)をリズミカルに描いた絵本『かぜのうた』。
風鈴や鯉のぼり、凧など、日本に特有な風に関するモチーフを、独特の感性で描いたのがイタリア人作家のフィリップ・ジョルダーノさんです。グローバルに活躍するフィリップさんの手で描かれた日本のモチーフには、どこか異国的な雰囲気を感じます。
2回に渡ってお届けするフィリップさんのインタビュー。第1回目は、フィリップさんの創作に日本文化が与えた影響について伺います。

表現したい子供時代の感情

ー絵本作家を志したきっかけは何ですか?

物心ついた頃にはすでに絵を描き始めていて、それからずっと描き続けてきました。描くことは、自分にとってとても自然なことです。IED(ヨーロッパ・デザイン学院)を卒業する頃には、本を作ることで自分を表現していきたいと考えるようになっていました。きっかけとなったのは、ボローニャブックフェア*です。学校の先生が、ブックフェアにはじめて連れて行ってくれたのですが、その時に、豊かな子どもの本の世界があることを知りました。とても新鮮な経験でしたね。自分も子供の本を作りたいという思いがその時に芽生えました。

ボローニャブックフェア Bologna Children's Book Fair
イタリア・エミリアロマーニャ州のボローニャ市で毎年春に開催される児童書専門の国際見本市。見本市期間中に同会場では、児童書のイラストレーションを対象にした国際コンクール「ボローニャ国際絵本原画展」が開催され、新人作家の登竜門としても知られる。

それから、私自身にとっても子供時代は特別なものでした。子供時代の記憶がたくさんあるだけでなく、それらを今でも鮮明に覚えていて、一つ一つが大切なものです。その頃に経験した感情を表現したいという思いが、子供の本に携わりたいと思ったもう一つのきっかけです。

よく絵本を通して、どんなメッセージを子供達に届けたいのかと聞かれます。ですが正直に言えば、どのようなメッセージを届けたいかということよりも、自分の心の中にあるとても親密な部分から生まれる思いを表現したい、ということが創作の大きな動機になっています。私にとって絵本を作ることは、自己表現そのものなんです。

「風の谷のナウシカ」の衝撃 

ー子供時代とは、どのような意味で特別なのでしょうか?

どんな子供たちも、マジックワールドの中で生きていると思っています。そして、そうした世界には、想像上の生き物が登場しますね。
私が長年関心を寄せているテーマに“妖怪”があります。今もリサーチしていますが、日本には様々な妖怪がいますよね。でも日本の妖怪だけでなく、ヨーロッパにも妖精はいますし、ムーミンはある種の妖怪とも言えるでしょう。アジアであっても、ヨーロッパであっても、文化圏は関係なく、想像的な生き物はすべての子供たちにとって共通の友達だと思います。

ただ、日本からの影響ということを言えば、私は宮崎駿の大ファンですが、宮崎駿が手がける作品には、動物とも人間とも言えない、妖怪のような想像的な生き物が多く登場します。5歳の時、私はテレビではじめて「風の谷のナウシカ」を見ました。この作品が当時の私に及ぼした影響については、簡単に説明することは出来ません。とにかく、非常に強い影響を受けました。日本のアニメというだけでも新鮮でしたが、ナウシカというヒロイン像は、全く新しいもので、とても衝撃的だったんです。

ナウシカは、自然と人間との世界を仲介するという意味でのヒロインでした。そうしたヒロイン像は、イタリアには当時存在しなかったと思います。私はイタリア・リグーリア州の田舎で、自然に囲まれながら子供時代を過ごしていたのですが、そうした私にとって、とても親近感の湧くヒロインだったんです。自然に親しむナウシカのように、私の周りにもまた様々な植物や動物がいて、それらをスケッチしながら多くの時間を一人で過ごしていました。

日本文化にみる自然への親しみ

ーナウシカの自然との関わり方に共感したのですね。

日本では、人の手が入らない、自然のありのままの姿に美や喜びを見出したりしますね。野花に美を見出すような感覚です。子供時代、私は日本の生花のように、植物を使ってアレンジメントを作ったり、表現することがとても好きでした。おそらく、周りの子供たちには全く理解されていなかったと思いますね(笑)。そうした私の考え方というのは、アジアの文化と近い部分があるのではないかと思います。

時々私は、ヨーロッパの合理的で、理性的なものの見方や考え方に対してうんざりしてしまう時がありました。イタリアは、ご存知のようにルネサンス以降の素晴らしい建造物がたくさんありますが、時にそれらは重厚すぎるように感じることがあります。自然に囲まれて暮らしていた子供時代に感じた喜びを、日本の文化の様々な側面に見つけられる気がするんです。

河野鷹思に見出した日伊の架け橋

ー制作にあたり、日本のアーティストからの影響はありますか?

私は9年近く日本で過ごしました。尊敬する日本のアーティストは何人かいますが、日本で暮らし始めた頃に特に注目して研究したのは、グラフィック・デザイナー河野鷹思(1906-1999)*の仕事でした。

河野鷹思(1906-1999)
日本のグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー。日本におけるエディトリアルデザインの嚆矢とされる雑誌『NIPPON』の制作等携わる。伝統とモダン、日本と西洋を結ぶグラフィックデザインは、「和製モダニズム」を確立したとも言われる。

はっきりとした理由はわかりませんが、河野鷹思のデザインにとても西洋的な雰囲気を感じたんです。芯にあるのは日本の伝統性でありながら、その表現の仕方にヨーロッパ的な要素を強く感じました。その時代の日本のデザイナーは、海外に出て行こうとする強い意識を持っていたのだと感じます。
日本に暮らし始めたばかりの私にとって、彼のデザインは、日本とイタリアをつなぐミディアムのように映りました。それはまるで、日本に来たイタリア人である私のようだったんです。私は、河野の手がけたイメージに助けられながら、イタリアと日本を結ぶ自分自身の表現を模索していきました。ですから、河野鷹思は私にとって師匠のような存在と言えます。

第2回へつづく)

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フィリップ・ジョルダーノ Philip Giordano
1980年、イタリア・リグーリア州生まれ。父はスイス人、母はフィリピン人の一家に育ち、現在はイタリアと東京を拠点に活動する。イラストレーター、絵本作家。多彩かつシンプルでアイコニックな作品は、イタリアはじめ世界各国で紹介され、国際的に高い評価を得ている。これまでにボローニャ国際イラストレーション賞、全米イラストレーター協会銀賞、国際推薦児童図書目録「ホワイト・レイブンズ」選定はじめ受賞歴多数。
日本で紹介された作品に『まっくろくろのおばけちゃんのぼうけん』(岩崎書店)、『ロディとほしたち』(プレビジョン)、『朝ごはんは、お日さまの光!』(徳間書店)など。
https://philip-giordano.com/

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