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AIで採取した、トップ社員の爪の垢。『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』読書感想

(A)はじめに:トップ5%社員って、どんな人?

仕事をしていると、「この人は優秀だなぁ」という人に出会うことがある。同じ職場の上司・同期・後輩や、ビジネスパートナー、その他関係者などなど。彼らは元から特殊な人間で、自分とは基礎から違うと思ってしまいがちだ。けれど、生まれながらにしてエリートだった人間などいない。いわゆる「トップ5%社員」は自己の成長のためにたゆまぬ努力を続けており、その努力の一つ一つはその他の社員でも少しづつ実践することが出来る内容ばかりだ。本書は、トップ5%のエリートとその他の一般社員の違いを、様々なリサーチとAI分析によって浮き彫りにしようとしている。

(B)著者について/あらすじ

著者は越川 慎司(こしかわ しんじ)さん。国内外の通信会社を経て、マイクロソフトへ入社。日本マイクロソフトでは業務執行役員などを務め、Officeビジネスの業務責任者を担った。株式会社クロスリバーを立ち上げ、企業や個人の働き方についてコンサルティング・講演なども行っている。

本書は、働き方改革≠残業時間の削減、という問題提起から出発している。そもそも働き方改革自体はあくまで手段であり、重要なのは限られた時間で大きな成果を上げることであると越川さんは話す。それらを実践している「トップ5%の社員」は、職場ではしばしば変わり者として、再現性に欠けるような扱いを受ける。越川さんは、クロスリバーのクライアントに協力を求め、業種も職種もバラバラな「トップ5%の社員」の働き方に、何か法則めいた、一般化できる要素を抽出しようとする。併せて、残り95%の一般社員のそれも対比することで、より要素を浮き彫りにしていく。そして、抽出された「トップ5%の社員の働き方」を、実際に実証実験することで、再現性のある要素なのかどうか確かめることも行われた。その全てを再現することはできなくても、一つでも取り入れることで意識の変化が起こることを越川さんは願っている。

(C)感想:千里の道も一歩から。

本書では、多くの社員(トップ5%が9,000名、残り95%も9,000名の、計18,000名)を対象としており、また一般的なサーベイでは見落としがちな項目もAI分析によって拾い上げられている。とはいえ、紹介されている気づきそのものは、他の働き方ハックで紹介されているものと比べて、そう特異なものは見当たらない。読む人によっては、新たな発見はないと感じるかもしれない。

しかし、「新たな発見はない」という発見こそ、本書による最大の気づきなのではないだろうか。サーベイ対象も多く、業種・職種が多様であったとしても、優秀な社員の要素というのは大きくは変わらないのだ。そして、全てを一気に実践することは難しくても、一つ一つは明日からでも取り組むことが出来るシンプルな考え・行動ばかりだ。トップ5%は生まれながらにしてそうであったわけでなく、王道を愚直に突き進んだからこそたどり着ける領域なのだ。

そしてこの結果は、トップ5%の社員の振る舞いを早い段階で習得することで、どんな環境でも活躍できる人材になることが出来ることも示唆している。部署が変わったり、職場そのものが変わったとしても、すぐに適応し成果を上げることが出来る人材となるための、いわばベーシックスキルであるといえる。

トップ5%の社員の働き方の前段として、残り95%の一般社員がついついやってしまう働き方も併せて紹介されている。耳の痛い内容ばかりだが、それらを一つずつ改善していくだけでも、脱一般社員を目指すことが出来る。

社内政治や上司へのごますり、空気を読んで摩擦を避けるなどもってのほかだ。トップ5%への近道はない。千里の道も一歩から。地道に一歩一歩自己成長を達成しよう。

(D)ためになる一節

「相手が素直に腹を割って話せば、自分も腹を割って話したいと思うのです」

本書ではしばしば「返報性の原理」が取り上げられる。トップ5%の社員は、「まずは見返りを求めないgiveから」を心がけているようだ。

「現在の無駄な時間を圧縮し、未来に必要になることに投資することが…」

働き方改革の本質は、新しく創出した時間をどのように使うのかだと思う。むやみやたらに時間だけ強引に作り出しても意味はないのだ。

「ビジネスはギャップを埋めることで成り立つ」

多様化した社会においても、2者あるいは複数者間で様々なギャップが生じている。そして、これらを埋めることに価値が生じるのだ。

(E)まとめ:AIで採取した、トップ社員の爪の垢。

AIというバズワードが入ってはいるものの、本書の内容の中心は堅実なサーベイを軸に構成されている。一方で、勤務時間や勤務態度など、アンケートなどでは主観が混ざってしまうような項目もAI分析によって明らかにされている点は他の本と異なる点だろう。

いずれにせよ、AIも活用されて採取された爪の垢を、皆して煎じて飲ませていただこうではないか。


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