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今、この時を、誰とどうやって生きるか。『そして、バトンは渡された』読書感想

(A)はじめに:2019年本屋大賞受賞作

本書『そして、バトンは渡された』は、2019年に本屋大賞を受賞しています。 著者、瀬尾まいこさんのことは、恥ずかしながらこの本で初めて知りました。 「本屋大賞受賞作」というだけで選ぶのは、一見ミーハーなように感じますが、趣味で読書を楽しむ読書家にとっては、非常に良い指標だということを、別の記事でも触れました。


(B)あらすじ

本書の主人公、森宮優子は、17年間で家族形態が7回も変わった、運命に翻弄された女子高校生です。父親が三人、母親が二人と、多くの「親」たちによって育てられました。苦労もありましたが、彼女は決して不幸な人生を歩んでいるわけではありません。多くの「親」たちの愛を受け、成長する優子の物語です…

本書はヒューマンドラマのジャンルに属しています。 あらすじが示すように、複雑な家庭環境がテーマの一つですが、全編にわたって悲壮感や陰鬱な雰囲気はありません。感動的なラストを迎えます。

読了には約4時間かかりました。 物語の基本的な時間軸は、17歳の女子高生である優子の現在に集中していますが、彼女の過去、つまりこれまでの家族形態とそれにまつわるエピソードが頻繁に回想されます。回想シーンが多いですが、物語のテンポは損なわれていないと感じます。

(C)感想:さっぱりと気持ちのいい登場人物たち

本書の魅力の一つは、さっぱりとして気持ちの良い登場人物たちです。

複雑な家庭環境がテーマであるため、不快な人物が登場しても不思議ではありませんが、優子を含む5人の「親」たちは、個性的でありながら憎めないキャラクターばかりです。 特に注目すべきは、主人公の優子と、現在の父親である森宮壮大(以下、森宮さん)です。

優子は、7回もの家族変遷を経験する主体ですが、自分の人生を不幸だとは思わず、悠々とした様子を見せています。これまでの生活や学校での困難も「時間が解決してくれる」と達観して捉えています。もちろん家族が変わるたびに苦しんできましたが、その経験が今の優子を形成しているのでしょう。 しかし、その乗り越え方は、強さよりもむしろ子ども特有の無力さや、不条理への諦観に近いです。そのため、彼女の悠々とした態度や達観が生まれるのだと思います。 彼女は受験や恋を経験し、また森宮さんとの生活を通じて徐々に成長していきます。

一方、森宮さんは東大卒のエリートサラリーマンです。前の妻との結婚を通じて優子の父親になりましたが、世間の常識と少しずれており、良き父親になろうとして過剰に世話を焼いてしまいます。例えば、始業式には1時間の有給を取って優子にカツ丼を用意するなど、料理にも熱心で、父親としての覚悟を見せつつも、時には他人行儀な態度をとることもあります。血縁関係に関係なく、変わった父親としての彼の振る舞いは興味深いです。 物語はほとんど森宮さんの視点で語られませんが、彼の父親としての一途な姿勢が、諦観を基本にしていた優子の考え方を少しずつ変えていく過程も見どころの一つです。

全体を通じて、物語は簡潔でありながら、一部の読者には少し物足りなさを感じさせるかもしれません。また、作品全体の雰囲気は、上記のような一風変わった登場人物たちによって大きく影響されています。そのため、これらの登場人物たちを応援する内容ではなく、よい意味でも悪い意味でも、ハートフルな家族小説として捉えるべきです。

(D)素敵な一節

「今より大事にすべき過去など一つもない」

過去があっての現在であるため、過去を軽視する必要はありません。しかし、それを理由に現在を犠牲にするほどの過去も存在しません。 個人的には、「もしも…」という後悔は、できる限りしないように心がけています。

「親になるって、未来が二倍以上になることだよって」

自分の明日よりも可能性に満ちた明日と共に過ごすことができます。誰かのために頑張れることが、きっと見つかるはずです。親になることは、そのように素晴らしいものだと教えられました。誰かのために頑張れることが、きっと見つかるはずです。

(E)まとめ:今この時を、誰とどうやって生きるか。

多くの〈親〉たちとの生活を通じて、バトンを渡されてきた優子は、
これからどんなバトンを繋いでいくのか。身近な人たちを大切にしたくなる一冊です。



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