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四則計算でステップアップ。『組織にいながら、自由に働く。』読書感想

(A)はじめに:自由≒選り好みできるという事

一般的に、組織に所属することが、自由を手放すことと同義だと考えられているのは疑いがないと思う。起業や独立をする人の動機の一つとして、自由を手にしたいということは至極まっとうなように思えるからだ。しかし、組織に所属しながら、自由に働くことが出来れば、それは夢のようなことではないだろうか。人やカネといったリソースを組織の持つものでカバーしながら、やりたいことを選り好みできるのだから。本書は、今でこそニューノーマルとなりつつある自由な組織人を早くから実践していた筆者の、実体験に即した実践本である。

(B)筆者について/あらすじ

筆者は仲山 進也(なかやま しんや)さん。創業フェースの楽天に転職し、楽天市場の最古参スタッフとして出店者向けのコンテンツ開発やコンサルティングを行っていた。2000年に出店者向けの学びの場である「楽天大学」を設立し、学長としてEコマースのみならず様々なコンテンツを提供している。自身でも企業を経営する傍ら、2016年には横浜F・マリノスとスタッフとしてプロ契約を結ぶなど、およそサラリーマンとは思えない自由な働き方が注目されている。

本書は、仲山さんが組織にいながらにして自由な働き方を手に入れるまでのステップが解説されている。仲山さん曰く、自由までのステージは「四則計算」で考えることが出来るという。

【働き方の4つのステージ】
加(+)ステージ
できることを増やす、苦手なことをやる、量稽古。仕事の報酬は仕事
減(-)ステージ
好みでない作業を減らして、強みに集中する。仕事の報酬は強み
乗(×)ステージ
磨き上げた強みに、別の強みを掛け合わせる。仕事の報酬は仲間
除(÷)ステージ
因数分解して、ひとつの作業をしていると複数の仕事が進むようにする。仕事の報酬は自由

ステージにあった働き方をすることで、少しずつ加→減→乗→除へとステージを上げていくことが出来る。除ステージの報酬にも書いてある通り、これらのステージを全て経た後に手に入るのが「自由」というわけだ。

(C)感想:巷に蔓延るハウツー、あなたには合っていますか?

前述の通り、本書の核となる考え方は働き方を四則計算的に考えてみることだ。

始めの加ステージでは、とにかく手当たり次第に業務に取り組んで、地力をつけることが求められる。働きながらその意味を考えたり、苦手な分野は因数分解して、苦手の原因を探ったりしていく。顧客のほうを向いて仕事をし、苦労は買ってでもする、などなど。このステージは若手の人の役割であるとか、ベテランは卒業しているとか、そういった勤続年数の問題ではないように思う。強みを磨く「減のステージ」に行くための準備として、考え方や姿勢が身につくまでは、加のステージで量稽古が必要なのだ。

一方で、減のステージでは、加のステージで積み上げてきたものを積み減らしていく。「安定」や「レール」を外れ、「評価」や「多忙」から解放される。そうしてしがらみから解き放たれることで、自身の強みを磨き上げていく様は、禅の姿勢にすら通ずるものがある。

ステージが上がっていく、ステージ毎に重要なポイントが変わるという点で、本書は他の働き方ハウツーと一線を画しているように感じる。他の本で紹介されているハウツーは、一見、どんな人でも意識し取り組むべき内容に思えるが、実は減のステージや乗・除のステージで取り組むべき内容なのであって、人によっては逆効果になる可能性もあるということだ。本来であれば、加のステージで量稽古に取り組むべきフェーズの人達が、いきなり減や乗、除のステージのノウハウをかじったところで、効果がないどころか、かえって逆効果になることもあるだろう。(積まなきゃいけないところでどんどんと断捨離しているわけだからわけだから)そういった気づきを与え、まずは自身がどのステージに居て、今後どのステージを目指していくのかを探すきっかけを与えている点で、本書は他のハウツー本と一線を画す。他の本を読んだ際に、「言いたいことは分かるけど、実際にはそんなことできないよ」や「試してみたけど上手くいかない。それどころか、悪い方向に転んでしまった」という人には特に、本書を読んで自身の現在のステージを見直すところからお勧めしたい。

(D)ためになる一節

「組織に属するメリットを享受しながら、組織にしばられず自由になりたい」

自由を手にするために、必ずしも組織を手放す必要はない。むしろ、大きな組織の中にいて自由であるということは、いいとこどりの働き方なのだ。

「展開型にとっては、「今ここ」を夢中で過ごすことが、流れをよくする何よりの方法です」

いわゆる「やりたいこと問題」について、仲山さんは大層な夢や使命は誰にでも必ずしも必要なものではないという。「今ここ」を生きていながら、上手く流れに身を委ねることが自由への道なのだ。

「自分が正しいときは相手も正しいのです」

ダイバーシティや多様な価値観を重要視する社会にとって、シンプルながら真理である言葉。誰かが間違っているというのは安直な判断なのだ。

(E)まとめ:四則計算でステップアップ。

仲山さんの経歴や働き方は一見特殊なように見えるし、実際に当時はかなり色物として扱われただろう。しかし、組織に居ながらにして複数の立場を駆使し、自由に自分のミッションと向かい合う働き方は、むしろ今の時代の要請に適っているといえる。時代を先取りした仲山さんの着実なステップアップ法を学んでいきたい。





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