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ソムニウム(44)玄関


父の大きなサンダルを履いて
玄関の登り口を
跨いで外へ
道の向こうに夕日が沈む
オレンジに染まる小さな自分
記憶がそのまま写真になる
待ち受けにする
チャイムが鳴る
玄関を開けると
外は闇
見えないけれど祖父がいる
登り口を跨いで外へ
建て替える前の
古い玄関
祖父が引き戸の前にいる
引き戸と一緒に外へ倒れる
慌てて起こすとまた倒れる
ばたーん、ばたーん
何してんの、じいちゃん
抱きしめると犬になる
じゃーっとおしっこ
嬉しそうに逃げる
川原まで追いかけ見失う
途方に暮れて座りこむ
上流から
小舟のように
古い玄関が流れてくる
犬と祖父と幼い自分が
スローモーションで
登り口を跨ぐ
海へ向かって流れていく
見送りながら涙を流す
スマホが鳴って電話に出る
おかえりなさい、
と母が言う


(終わり)


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