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木葉功一
2022年6月12日 07:09
翌朝国刀からメッセージが届いた。ブラックハッカーの女の子が見つかった。馬のところで保護している。 バイクを飛ばして飛頭蛮へ向かった。VIPルームのソファに座っていたのは昨日の男の子だった。この子だったのか、と驚いた。 短い黒髪、黒縁のメガネ、荒んだ目つきと固い表情、ダウンジャケットとカーゴパンツ。女の子には見えなかった。 虎白露、十二才だ、と国刀が紹介した。 虎は顔を上げなかった。
2022年6月1日 22:25
マリオは首都医大を退院した。自宅にもミカリの部屋にも戻れなかった。国が用意したマンションで監視されて暮らす生活が始まった。 アンナベルにすべてのことを話した。彼女は動揺しなかった。逆に父親やウリエルや紅い拳銃の話を知っていたことを打ち明けた。 日南に口止めされていたの。ごめんなさい。 母さんはどこ? アンナベルは答えなかった。 どうして僕と母さんは離れ離れで暮らしているの?ユタの居留地
2020年10月28日 23:24
スティールのテーブルの上にマリオの体が置かれていた。 首都医大病院の病室だった。 放熱が収まり耐熱服なしで近づけるようになるまで五日かかった。体の裏の皮膚組織がSRVのボディと癒着していた。レスキュー隊員が電動カッターで切り出さなければなからなかった。 眠りながらマリオは生きていた。全身が微かに光っていた。筋肉や内臓が透けて見えた。顔の奥に実体化しかけたルカの顔も見えていた。どんな医者も科
2020年10月12日 19:32
北の大陸の砂漠にある宗教団体の街でウリエルは生まれた。 七才で教育施設に入れられて洗脳された。 今日からみなさんは血縁を切り、神と教祖様の子供となって、人類に平和と豊かさをもたらすために生きるのです。みなさんの使命は、違いを作り出すこと。違いが増えれば増えるほど、世界は調和し安定します。男と女、大人と子供、先生と生徒、上司と部下、経営者と従業員、金持ちと貧乏人、司令官と兵士、権力者と国民、さ
2020年10月4日 22:57
ミカリのマンションのリビングで馬瞬豪と国刀一郎が並んでソファに座っていた。殺し合いになってもおかしくない二人が親しげな雰囲気で話していた。すごいことだな、とマリオは思った。 すごいのは君だよ、 と頭の中でルカが言った。 彼らに敵意も嫉妬も抱かず、この場で一番リラックスしてる。 そういう気持ちは普通にあるけど、湧き上がってすぐ流れちゃうんだ。 それだけ君が大きいんだ、どんどん星になってる
2020年9月22日 08:01
国刀一郎が「陰陽魚宗近」という打刀を父親から見せられたのは高校一年のときだった。首都大学を卒業して官僚になれという命令に抗って家出し連れ戻された夜だった。 国刀家代々の長男の体には刀傷がある、 と屋敷の庭で父親が言った。一郎もそれは知っていた。父親は背中に祖父は肩に古くて長い切り傷があった。打刀で親に斬られるからだ。 父親が持っていた「陰陽魚」を抜いた。刀身が墨のように真っ黒だった。 言
2020年9月15日 20:54
叫びながらマリオは目を覚ました。 自分のベッドの上のだった。時計は正午を回っていた。ミカリのマンションからどうやって帰ったか、まったく覚えていなかった。頭も体も重かった。バスルームへ行ってシャワーを浴びた。 外国で母親と暮らしていた、スキンヘッドのテロリストが父親だった、キャンプした森で死にかけた、ルカの聖地に住んでいた、荒野で数万人の魂と同化した状態で生きていた、紅い拳銃の炎に焼かれた──
2020年9月5日 13:30
誰もいないところへ行こう、そして思いきり星になろう─────真夜中に目覚めた三歳のマリオはそう考えてテントを出た。明るい星空に胸が踊った。湖のほとりをしばらく歩いた。道を見つけて森へ入った。体から自分がはみ出すのを感じた。 ああ、もう星になりはじめてる、いそがなくちゃ、もっと奥へ。 急に開けた場所に出た。杉の巨木が立っていた。根に大きな岩を抱いていた。深い裂け目が開いていた。闇がマリオを呼ん
2020年8月5日 07:28
草薙日南がその男に会ったのは西海岸の都市で画家になって二年目のことだった。 ふらりと個展会場に入ってきた。とても大きな男だった。暴力的な雰囲気を全身から発散していた。鷲のような顔つきで瞳が水晶のようだった。 ひと目で心を鷲掴みにされた。 男はアタリという名前だった。オートバイで旅をしていた。自分のことを話さなかった。一か所に長く居られないと言った。犯罪者かもしれない、と思った。 報酬を払
2020年7月24日 08:09
絵が完成した、見てほしい、というメッセージがミカリから届いた。夏休みの前日だった。始業式が終わってマリオは走った。最後に会った日から二週間が経っていた。 美術クラブに現れずメッセージしても返事がなく電話をしても出なかった。学校に来ている様子がなかった。何度もマンションへ行こうと思った。とにかく顔を見たかった。 校門の外で待っていたのはリムジンではなくランボルギーニだった。運転席から若い男が下
2020年7月4日 21:03
星の話は祖父から聞いた。ミカリが八才のときだった。 神道の宮司から企業家に転身した男だった。一代で周グループの基礎を築いた。リムジンの中で祖父は語った。 人は星の力を下ろすための管だが、生まれてすぐにそれを忘れて、哺乳動物へ堕ちてしまう。お前は違う、星とつながっている。だからみんなをお前につなげて動物から人へ引き上げやれ。 よくわからない、どういうこと? お腹の中へ入れてやるんだ。 食
2020年5月18日 07:02
マリオは目醒めた。 まだ夜だった。今度こそ現実の世界だった。 星になった。星になれた。夢だけど夢ではなかった。現実よりもリアルな場所で体験した出来事だった。自分が新しくなっているのが分かった。深呼吸して右手を見た。紅い拳銃が消えていた。 一日休んで学校へ行った。すれ違う全員がマリオを見た。体から何かを発散していた。本人だけが気づいてなかった。自分の変化に夢中だった。絵に興味が失くなっていた
2020年4月26日 23:51
紅い荒野でルカは生まれた。 父親は白人の兵士だった。母親は部族の女だった。ルカの肌は褐色で瞳が青くて金髪だった。それでみんなに憎まれた。白人が起こした戦争のせいで部族の半分が殺されていた。 母親は村を離れて聖地の岩穴に住み着いた。たった一人でルカを育てた。九才の時に通りがかった騎兵隊に撃たれて死んだ。ルカは何日か死体と暮らした。母親は死んだままだった。墓を作って彼女を埋めた。 一人で荒れ地
2020年4月25日 16:26
草薙マリオには十才までの記憶がない。父も母もいなかった。家族がひとりもいなかった。家政婦のアンナベルに世話されていた。寂しいとは思わなかった。マリオはひとりで満ち足りていた。 母親は画家だった。アンナベルが画集を見せてくれた。スケッチブックと油絵の道具とペンタブレットが居間に置いてあった。それでマリオは絵を描き始めた。食事を忘れてのめり込んだ。ペンや絵筆を握って眠った。アンナベルが家庭教師を雇