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闇に堕ちたリーダー🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第27話

🇰🇭コンの離脱

ここで、ケンの事務所の主な収入源をご紹介しましょう!

他人のお家の収入って、気になるでしょ。
私、犬だし、関係ないからバラしちゃう!

・ケンの日本の企業から請け負っているリモートワーク(結構な頻度で海外出張あり)

・大手携帯電話キャリア会社からの契約金(1年で3回に分かれてドーンと入る予定)

・テレビ局からの契約金(毎月、テレビに出演する度にもらえるヨ)

・ポラリックス開催・毎週のダンス教室(カンボジア人の若者にポラリックスがダンスを毎週教えます。お一人、2.5ドルでした!)

上記の収入以外に、ケンが他のアーティストのミュージック・ビデオ制作の依頼を受けたり、ポラリックスがイベント出演に呼ばれたり、時にはラジオ収録なんかもありました。

けっこう収入があるように見えると思うけど、大所帯だからすぐお金なくなっちゃうのよね。

とある時期は、リンがソロでCM撮影に呼ばれていたことも。

リンはCM撮影期間は、契約で他のパフォーマンスに出ることが出来ず、ポラリックスはリンがいない状態で大きなチャリティーコンサートに出演しました。

そこで張り切ったのが、コン。

全てにおいてリンには勝てないと諦めていたコンですが、リンがいなきゃ自分が一番だと、心のどこかで思っていたのでしょう。

チャリティーコンサートでのパフォーマンスを、全部、自分が踊りたい曲、やりたい振り付けを詰め込んで、作り上げました。

一通りパフォーマンスが完成すると、必ず私とケンがチェックするのが習慣。

毎回、ケンは結構厳しめのチェックをするんだけど、このパフォーマンスを見て、やはりブチ切れました。

「これ、見ているお客さんのことを考えているのか?なんでコンだけが中心で踊っているんだ?」

リーダーのノリが、こっそりケンに報告に来ます。

「実は、コンが今回のパフォーマンスを作ったんだ。」

コンは例によって強い口調でみんなに指示を出し、無理くり、自分のやりたい放題をこのパフォーマンスに詰め込んだのです。

ティーなんかは明らかに不満顔で、全くやる気のないパフォーマンスをしているのが犬の私にだってわかっちゃった。

ケンは、みんなの前で指示を出しました。

「もう一回、パフォーマンスを作り直しなさい。で、ノリ。君が中心になって作ってごらん。」

ノリは「はい」と頷き、その傍でコンが冷たい目で遠くを見ていました。

ノリがまとめたパフォーマンスは、コンがやりたかったことをちょっとだけ残しつつも、メンバー全員の魅せどころを作り、他のチームには出来ないような、自分たちが今まで身につけてきたもの・・・例えば、コンテンポラリーダンスの要素なんかも取り入れて、素晴らしい完成度!

ケンもこのパフォーマンスに納得し、ポラリックスは無事に、エースのリンがいない状態でもしっかりチャリティーコンサートを乗り切りました。

ノリは本当に頼もしいリーダーになっていたんです!

でも、これをきっかけに、コンはどんどん練習をサボるようになっていきました。

「また来年も待っていますよ」

初めてタイのダンスバトルにポラリックスが参加したとき、司会のおじさんがそう言ってくれて以来、ポラリックスは毎年、タイにのダンスバトルに遠征に行っています。

もちろん、子どもの頃からダンスの練習に明け暮れている世界のダンサーさんたちにはちっとも及ばないんだけど、毎年、世界のレベルを肌で感じられるように。

ポラリックスが「お山の大将」「井の中の蛙」にならないように、ケンは財政状況が苦しくてもポラリックスをタイへ行かせていました。

しかし、この年は、タイのダンスバトルがいくら迫ってきても、コンは「体調が悪い」と練習に参加しないで部屋でゴロゴロしているのです。

たまに練習に参加しても、途中で倒れてみたり、気持ち悪いとトイレに駆け込んでみたり・・・

その時、レナは私だけにこう言ったわ、「コンが“演技”をしているようにしか見えない」って。

それに、レナは見ちゃったの。

夜、コンがキョロキョロまわりを見渡して、事務所の前から女の子のバイクにまたがって、出ていく姿を。

家政婦は、見た!!こわーい!

ずっと練習に参加しないコンをタイのダンスバトルに参加させるわけにもいかず、ケンは、コンにこう指示を出しました。

「今回、君をダンスバトルには出せない。
今の君の練習状態では、クオリティを追求できない。
体調が悪いのは仕方がないから、他のポラリックスのサポートをしなさい。」

ケンもレナも、てっきりコンはこう言ってくるだろうと思っていました。

「俺、練習頑張ってみんなに追いつくから、タイのダンスバトルに出場させてほしい」

って。

でも違った。

「わかった。」って、あっさり承諾して、なぜかその日から体調が良くなったのです。

なぜ?コンの心内が全く読めない。

タイのダンスバトルが終わってからもコンは、

朝、寝坊して起きられないことが何度もあり
夜、遊びに出掛けては朝帰りのことが何度もあり
事務所のルールを守れないことが何度もあり
頼まれた仕事をやらないことが何度もあり

誰かがケンに頼まれた仕事を一生懸命にこなしていると邪魔をしたり

自分が怠けたい時に他のメンバーを巻き込もうとしたり

他のポラリックスがどんどん成長していく中で、なぜか自ら階段を転げ落ちていきました。

「レナ、聞いてよ。最近、コンの彼女から俺にめっちゃ苦情が来るんだ。」

「なんで?なんでコンの彼女からノリに苦情がいくわけ?」

「コン、浮気してるんだ。
俺たちのダンス教室に習いに来てる、プノンペンの女の子と。
こないだ、チャリティーコンサートがあったでしょ。
それを、コンの彼女がシェムリアップから観に来たんだよ。
その時にバレたみたい。」

「・・・やっぱり・・・。それで、なんでノリに苦情が?」

「なんで、コンの浮気を止めてくれなかったんだ!って。俺だって知らないよーーー」

「あんたも苦労するねぇ・・・」

ケンもレナも、何度もコンを叱って「頼もしいリーダー」だったコンの復活を信じていました。

でもコンは、練習をサボるどころか、
ニタやレナを「本当の家政婦」のように扱うまでに成り下がって行きました。

「オレが欲しいものを、今すぐ買って来い」

ニタは戸惑い
レナはブチ切れ

いよいよコンはもうダメだと感じました。

このままここに居ては、コンはお山の大将だ。
オレたちが、コンをこんな風にしてしまったのだろうか。

「もう何回言わせるんだ、なんで今のコンは、こんな風なんだよ。」

そんな責任を感じながら、ケンはコンを部屋に呼びます。

ケンがコンを呼び出すのは、何度目だろう。

そして、説教を受けるコンは、毎回、こう言います。

「シェムリアップの家族のことが心配で、元気が出ないから。」

なぜか毎回、こうして怒られる度に「家族のこと」を言い訳にするコン。

今までは、「みんなに、ゴメンと謝って、また頑張りなさい」と繋いできたけど

今日はもう逃さない。

腹を括って、コンを詰めます。

「家族のことが心配なのと寝坊して練習をサボるのは、何の関係があるんだ?家族のことが心配なのに、夜はなぜ、毎日遊びに行けるんだ?答えなさい!」

するとコンは怒り狂って、
「わからねぇよ!そんなことしらねぇよ!」
と怒鳴り始めました。

レナには、コンが小さな子どもに見えました。
そりゃ、わからないよね。
だって、家族のことは関係ないんだから。
夜遊びが楽しくて、練習に起きられないだけなんだから。

「俺は、もう話すことなんかねぇよ!ポラリックスを辞めて、家族の元へ帰る!」

ヘアンの時の痛手が頭をよぎるけど、これ以上、コンをここに止めるのはそれ以上にポラリックスのストレスになる。

ケンは覚悟を決めて、こう伝えました。

「シェムリアップの家族の元へ帰りなさい。
ただし、今、君は契約期間中だ。
この期間が終わるまでは、他の会社でのパフォーマンスは禁止。
それだけは守ってくれ。
その期間は、家族のこと、自分の体調のこと、君の問題を解決する時間に使って、ポラリックスを応援してくれ。」

コンは、他のポラリックスの前で別れの挨拶をすることになりました。

「本当にごめんなさい、何年もここでやってきたのに・・・」

コンは初めて涙を流しました。
きっと、本当に寂しい気持ちもあったでしょう。

ノリやリンは、
「コンは素晴らしいリーダーだった、俺たちはずっとそう思ってるよ」
とコンを励ましていました。

でも・・・またもレナは見てしまったのです。

コンは事務所を発つ直前、キンを呼び寄せて、何やら耳打ちしている姿を。

キンは曇った顔で、それを聞いているのを。

何か企んでるな。

・・・家政婦は見た、その②!こわーい!

「コンが体調不良で田舎に帰ったって、言い訳するしかないなー」

数日後、ケンが契約している会社への謝罪方法を考えていると、ボリャから入電。

「ケン!私、今、偶然、コンに会いました・・・」

「え?だってアイツはシェムリアップに帰ったんじゃ・・・」

「コン、帰ってない!プノンペンにいる!A社のイベントのバックダンサーで踊ってる!」

A社は、契約している大手携帯キャリア会社のライバル社!!

つまり、docomoと契約しているタレントが、ソフトバンクのイベントに出演してるって感じね。

「コンに声かけた。コンは、ケンには言うなと言った。でも、私、ケンに言います!」

「ボリャ、ありがとう」

怒りに震えながら、ケンはコンをショッピングモールのカフェに呼び出しました。

他のポラリックスに心の傷を負わせないように、外で会うことにしたのです。

コンは怖かったし、逃げきれないと悟っていたのでしょう、チンピラ風な子どもを二人連れて、カフェにやって来ました。

「コン、なぜ約束を破ったんだ!」

「俺はポラリックスを辞めたくなかったのに、ケンが無理矢理やめさせるからだ!」

「俺は君に何度もチャンスをあげただろ!
でも君が、家族のことが心配だから辞めると言ったんじゃないか!」

「俺は、約束を守らない!プノンペンのいろんな場所でダンスを踊って金をもらう!」

「君は、ヘアンが辞めた後、どれだけ事務所のみんなが苦労したか知ってるだろ?
今まで一緒にやってきた仲間が、また大変な思いをしてもいいのか?」

「俺は、みんなのことなんかどうだっていい!俺の好きにやってやる!!」

「あんた・・・何だと思ってるの!
今まで、みんながコンのためにしてくれたこと、何だと思ってるの!!」

レナとボリャもカフェに同行しましたが、またもレナは泣いていました。

悔しくて、悲しくて。

「俺は、誰からの愛も受けたことなんか無いね!
ケンも、レナも、ポラリックスも、みんなの愛なんか偽物だよ!あはははは!!!」

そうやって笑うコンに、ケンは最後にこう言いました。

「いいか、お前がやったことは、全部お前に返るからな。それまでせいぜい、頑張れよ。」

2017年10月。

コンが事務所に在籍した日数分のお給料だけ叩きつけて、ケン、レナ、ボリャは帰路につきました。

あとは、前回の繰り返しです。

予定日になっても、契約会社からお金が入金されない。

ケンとボリャで交渉に行く。

コンの契約違反を理由に契約解除または減額が検討される。

「そこはどうにか、俺の技術で他には負けない作品を作るから」と懇願する。

契約会社、検討タイム。

家賃滞納、電気ストップ、やがて始まる食糧難。

それでもなぜか、ヘアンの時よりは前向きに、
「第2回・ケンの芸能事務所、大飢饉の巻!」
を迎え討てたみんなでした。

その後、コンはSNSに
「ポラリックスに大きな問題があるから辞めてやった」
という投稿を繰り返しました。

レナは怒りに震えてたけど、コンのSNSを見ないようにしたら、何事もなく前に進むことが出来ました。

大丈夫よ、レナ。一生懸命頑張っているポラリックスは、私が守ってあげるからね。

ケンの芸能事務所 発足時
頼もしいリーダーだったコンは
上がって来た階段を、自ら転げ落ちていきました

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