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みんなの「いい」というポイントはちょっとずつ違う。それを尊重したい|tofubeats #2

tofubeatsさんが2014年に出したメジャーデビューアルバム「First Album」には、豪華なゲストボーカルが多数参加していました。2作目、3作目と変化を続け、今年の10月に発表された4作目の「RUN」は、tofubeatsさんのボーカル曲がメインとなっていました。「人の考えていることはわからない」とはっきり言うtofubeatsさんがたどり着いた、諦めとは違う、自分の足で走るという覚悟。それは、ひとりの静かな創作の時間に根付いたものでした。

tofubeats
1990年生まれ神戸在住。中学時代から音楽活動を開始し、高校3年生の時に国内最大のテクノイベントWIREに史上最年少で出演する。その後、「水星 feat. オノマトペ大臣」がiTunes Storeシングル総合チャートで1位を獲得。メジャーデビュー以降は、森高千里、の子(神聖かまってちゃん)、藤井隆ら人気アーティストと数々のコラボを行い注目を集め、3枚のアルバムをリリース。2018年は、テレビ東京系ドラマ「電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-」や、映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ、10月に4thアルバム「RUN」をリリースした。

知識を学べばできるようになる。そういうものがいい

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――インターネットや本、雑誌などから情報を得て、独学で音源を作るようになったtofubeatsさん。昔から、すごく音楽に対するモチベーションが高かったんですね。

ひとりでやりたいときにできて、やりたくないときはやらなくていい。それが、めちゃめちゃよかったんです。楽器ってそうじゃないでしょう。

――楽器もひとりで練習できるのでは?

あ、えーと、楽器って基本的には練習して、本番でちゃんと弾けなきゃだめですよね。ここぞというときにパフォーマンスを発揮できないと意味がないっていうか。でもDTM(デスクトップミュージック)って、パソコンで好きなときに作れて、ダメなときは別のことやってもいい。そして作ったものは、そのまま成果になる。ペースをコントロールできる感じが、僕の気ままな性格にものすごく合ってたんですよね。

――自分のペースで作りたい。

そうですね。ゲームとか映画も作り手が時間の流れをコントロールしているから、少しやらされてる感がある。その点、曲作りはいつでも自分で進めることができますからね。

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――別のインタビューで「音楽はノウハウの蓄積だ」とおっしゃっていて、その考え方はおもしろいな、と思いました。

DTMの曲作りに関しては、ということですよ。僕がやっていることは、半分エンジニアリングなんです。音のバランスを整えるとか、シンセサイザーで音を作るとか。それはやっぱり、ノウハウの蓄積なんですよね。そして、たくさんの方法を知っていればいるほど、選べる幅も広がる。何を選べばいいのかもわかるようになる。

――知識と経験の蓄積で、より良いものが作れるようになるんですね。

それはすごくいいと思っています。万人に開かれている感じがする。楽器演奏や歌唱は、もともとの資質を問われるところが大きいですよね。僕が最初に作り始めた音楽ジャンルのヒップホップにおけるラップもそうなんですよ。声質がいい人が有利。そういうのが僕、昔からしっくりこなかったんです。

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――勉強すればできるようになる、というものが好きなんですね。

そうそう、いろんな人が、やったらできるようになるものが好きです。

――人が聞いて感動したり高揚したりする音楽も、ノウハウの蓄積で作れるようになるんですか?

うーん、感動させたり高揚させたりしよう、と思って作るのは難しいですよね。人の考えていることなんか、マジでわからないので。だから、結局は自分がいいと思ったものを、人がいいと思ってくれるという「仮定」のもとに進めるしかないんだと思います。

作ったあとで人の反応を見て、「これでいいんだな」「これはそうじゃないんだな」ということを学んだりはします。評判がいい曲は、自分では意外だったりしますよ。映画『寝ても覚めても』の主題歌として作った「RIVER」という曲は、できたときに「これでいいのかな」とすごい不安でしたね。

俺たちはこのまま、負け続けるのか

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――「これでいいのかな」とは?

監督からこれでOKが出るかな、とか。でも、発表したあとはみんながいいと言ってくれたので、これでよかったんだなと思いました。
とはいえ、人が「いい」って言ってくれることも、全面的には信用できないですよね。ライブでお客さんが自分の曲で盛り上がっていても、みんなが同じようにいいと思ってるわけじゃない。一体感を信用してないんですよ。

――一体感を信用していない。

本当にいいと思っていても、そのポイントは一緒じゃない可能性が高い。みんなが「いい」と思っているところは、たぶんちょっとずつ違っています。それを尊重したいんです。
だから、クラブが好きなんですよね。あそこは、みんな音楽が好きで来るけれども、踊りたくなるポイントとかはちょっとずつ違っていて、思い思いに楽しんでる。そういうのがすごくいいぞ、と初めて行ったときに思いました。

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――「人の考えていることがわからない」というと、『寝ても覚めても』で唐田えりかさんが演じたヒロイン・朝子のことが本当にわからない、とインタビューでおっしゃっていましたね。朝子はミステリアスで、そして自分に正直すぎる行動を取ってしまう女の人ですが……。

いやあ、あの人、自分の思うままに行動しすぎじゃないですか。僕はけっこう、忠誠心みたいなものを大事にしてるんですよ。義理とか温情とか、人からかけてもらった優しさとか、忘れたらあかんって思ってて。そういう気持ちとは相容れないなと。

しかも、彼女が結局は本能的に強い方に惹かれる、みたいな演出も気になりました。俺たちはこのまま、足が速いやつに負けながら死ぬしかないのか、と。でもいろいろ考えたら、朝子のことを責められないなと思ったんです。

――それで、映画を観終わった人が朝子のことを嫌いにならないように、という思いで「RIVER」を作られた。歌詞は、講談社ブルーバックスの『川はどうしてできるのか』からヒントを得て書いたと、アルバムの製作日誌に書かれていました。作詞もノウハウが役に立ちますか?

作詞は、一生懸命やるだけですね。同じ言葉を不用意に使わないとか、今まで誰も使ったことがない言葉をできれば入れたいとか、気をつけていることはいくつかありますが。
あと、とにかく量を書いて絞っていく。藤子不二雄A先生が書いた『まんが道』という自伝的な漫画に、手塚治虫先生は10描いてその中の6しか採用しない、というくだりがあるんですよ。それにめっちゃ影響受けてます。

歌詞はとにかく、たくさん書いて厳選していく

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――手塚先生の教えを作詞に活かされているんですね。

自分には才能がないと思っているので、サボらないで量をたくさん書くようにしてます。それが質を上げる一番の方法かなと。
人の曲の歌詞を書くときは、その人の情報をとにかく集めます。例えばアイドルが歌う歌詞だったら、その子のブログ、SNSはよく読みますし、投稿についているファンからのコメントもすごく見ます。そこから得た情報をEvernoteにまとめていくんです。

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――おお、手書きのメモが。

これは「ふめつのこころ」の歌詞のメモですね。「ふめつのこころ」は、ドラマ『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』の主題歌として、主演の西野七瀬さんが歌うという前提で作りました。だから、原作の漫画の内容やアイドルなどについて考えていたんですよね。
しかも書いていたとき、國分功一郎さんの『中動態の世界』を読んでいて、わりと精神的な方向に入り込んじゃってよくわからないメモになっている(笑)。

――メモに「自我がない存在」とありますね。

そう、自我がないのがアイドルだ、ということを考えて、そこから「心」を中心にしようと決めた。それで、「ふめつのこころ」に到達したんです。

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――「ふめつのこころ」は、最新作のバージョンでtofubeatsさん自身が歌われていますね。

今回、歌ありの曲は自分で歌ってるんです。メジャーデビューする時に、自分ひとりの力では世の中の人に受け入れられるような作品が作れないんじゃないか、と思いました。それで、最初に森高千里さんをゲストボーカルにお呼びして、そのあともいろいろな方に僕が作った曲を歌ってもらいました。それは本当に楽しくて、素敵な経験でした。

人と一緒にやりたい気持ちはあるんですけど、今回は同じような気持ちを持っていそうなミュージシャンが見つからなかったんです。だったら、ひとりでやってみようかなと。曲制作はひとりでしたが、もちろん、リリースして広げていく過程ではたくさんの人と協力しています。

本が創作の幅を広げてくれる

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――映画のサウンドトラックやドラマの主題歌を制作するなど、今までにないチャレンジもされています。

それによって、自分の知らない自分が引き出されました。歌い出しから「愛」という言葉を使うなんて、これまでの自分では考えられなかったですし。外から与えられたお題や制約をもとに楽曲を作る、というのはなかなかいいものですね。これもある種の共創なのかもしれません。すごく勉強になりました。

あとは本ですね。本からヒントやテーマとなりうるものを引き出す、というのは前作くらいからやっています。

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――机にも、本がたくさん積んでありますね。

カバーがかかっているのは、まだ読んでない本なんです。読んだらけっこうすぐ人にあげちゃうので、家にはあんまり本がありません。
音楽と本の距離感もちょうどいいんですよね。読みながら聞けるし。だから普段何をしてるかって聞かれたら、本読んだり、音楽聞いたり、散歩したり、仕事したりしてる、という答えになりますね。平日は基本的にひとりで作業をして、週末はイベントなどでいろいろな人に会う。そういうサイクルができています。

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――先程お話に出てきた『中動態の世界』も、今回のアルバム制作の端緒になったという『ニュータウンの社会史』も、わりと本に慣れてないと読み通せない感じの本ですよね。

あぁ、でも僕は小説のほうがむしろ、あまり読まないですね。普通に感動しちゃうから(笑)。小説などの物語は、自分の感情を見るのに使えないんです。ブルーバックスなどの科学の本や実用書は感情を動かすために書かれてないから、読んで自分がどう思うのかがわかりやすい。

あと単純に科学や哲学の入門書って、おもしろいですよね。僕、岩波新書をよく読むんですけど、どれを選んでも絶対おもしろいじゃないですか。

――質が保証されている新書レーベルですね。

絶対詳しい人が書いているという信頼もあるし。最近、自分がやったことない趣味について、人が語っているのを見るのが好きなんですよ。アマチュア無線のマニアがやってるYouTubeとかすごくおもしろい。趣味があって、それを生きがいにしてるのとかすごくいいなと思います。あと何かに詳しいことは、やっぱりカッコいいですよね。専門家が自分の知識を披露してくれるのって、見ていて気持ちがいい。

「勉強なんか何の役に立つんだ」とかいう人いますけど、僕は絶対、勉強したほうがいいと思っています。いろいろなことを学んできた人は、やっぱり人としておもしろいですよ。


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この記事は、POLAが発信するイノベーティブ体験「WE/」のコンテンツを転載したものです。ぜひ「WE/」のサイトもご覧ください。
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