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人と一緒につくることのおもしろさ。異質なものとの「ミックス」で、新しい音楽が生まれる|tofubeats #4

ポーラ「WE/Meet Up」が主催する、たった一人のための特別な場。今回は、tofubeatsさんがゲストの選んだ曲をつないで、世界に一つのミックステープをつくります。tofubeatsさんとの編集作業は、音楽好きのゲストの心にどんな変化をもたらすのでしょうか。

「tofubeatsさんのおかげで、好きな音楽の幅が広がった」

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今回の会場は、神戸・旧居留地にある音楽スタジオ。阪神・淡路大震災でも壊れなかった歴史あるビルに入っています。このスタジオは、tofubeatsさんが普段レコーディングなどで使用することもあるのだとか。
まずは今回選ばれたゲストの荒井美翔(あらい みしょう)さんが到着しました。そして、余裕を持ってtofubeatsさんをお迎えしようとしていたところ、予定時間よりだいぶ早くtofubeatsさんが登場。自分で車を運転し、何かあったときのための予備機材を持ち込もうと早めに来た、とのこと。
思わぬタイミングでの顔合わせに驚きながらも挨拶をして、Meet Upが始まりました。

荒井さんは、関西の大学に通う大学生。小学校までは中国におり、中学2年生から日本に住んでいるそうです。父親が日本人で、母親が中国人という「ミックス」である荒井さん。「美翔」という名前は、中国語の意味があるわけではなく、中国でも日本でも珍しい名前なのだといいます。

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荒井さんがtofubeatsさんを知ったのは、ヒップホップ好きの友人に連れて行ってもらったイベントでのことでした。

「それまではバンドのライブしかほとんど行ったことがなくて。ヒップホップとか、ちょっとこわいイメージがあったんです。でもそのイベントで、tofubeatsさんのライブを観て『うわー、めっちゃいい! 楽しすぎる!』と一気に好きになりました」(荒井さん)

幼い頃からキーボードやピアノ、社交ダンスを習い、音楽に親しんできた荒井さん。勉強している時とアルバイトをしている時以外は、ずっと何かしらの音楽を聴いているそうです。今回選んできた曲も、邦楽洋楽、そして中国の楽曲が入り混じり、スタンダードナンバーから最近のヒットソング、通好みのマニアックな曲まで幅広く網羅されています。もちろん、tofubeatsさんの楽曲も。

75分間のストーリーをつくっていく

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今日はこの場でtofubeatsさんが、荒井さんの選曲した22曲をつないでいきます。つないでいくためには、曲順を決める必要があります。そこで、tofubeatsさんは「まず最後の曲を決めてほしい」と伝えました。

「曲を作るときは、1曲5分ほどの間に山があって谷があってと、何が起こるかを組み立てていきます。それと同じようにミックステープは、今回だと1枚のCDに収まる75分ほどの時間の中でどういう展開にしたいかを考えるんです。曲順は意思みたいなものなんですよね。だから、最後の曲は特に大事です。そこをゴールとして進んでいきたいんです」(tofubeatsさん)

それに対して、荒井さんは一つの洋楽を挙げました。それは、荒井さんが中国から日本に来た直後、うまく日本語が喋れず葛藤していた時に聴いていた曲でした。

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「本当に日本に来てよかったのかな、とわからなくなってしまって。そういう時はいつもこの曲を聴いて、自分を励ましていました。歌詞がすごく勇気づけられるんです」(荒井さん)

日本に来るまで、まったく日本語が喋れなかったという荒井さん。まずは電子辞書を買ってもらい、ひたすら単語を覚えていきました。

「最初は、友達とも単語でしか喋れなかったんです。でも、心で通じ合ってるって感じで、なんとかなりました(笑)。意外と単語だけでも会話できるんですよ」(荒井さん)

「すごいですね! 今お話ししているのを聞いたら、中学生で一から日本語を学んだなんて、わからないぐらいに流暢ですね」(tofubeatsさん)

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今は明るく話す荒井さんも、初心者の頃は間違った日本語を使って周りの人に笑われてしまい、友達と話すことにためらいを感じるときもあったとか。そんな時に荒井さんを救ったのも、やはり音楽でした。

「歌にすれば、日本語もすらすら口から出てくる。音楽の授業でも、歌は褒めてもらえるからうれしくて。歌うことで日本語の勉強をしていったんです」(荒井さん)

そうして中学校、高校は軽音楽部に入り、バンドやユニットのボーカルを務めていたそうです。学校の文化祭で友達と弾き語りした思い出の曲も、今回の選曲に入っています。

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ゴールの曲を決めたら、いよいよミックスがスタートです。
「じゃあ、その曲の前にはどんな曲が来る感じですか?」とtofubeatsさんが聞き、アウトロとイントロを試しにつないでみます。1曲目から順番につないでいくのではなく、うまくつながりそうな曲同士で数曲のブロックを作っていくのです。
その間にも、「これはどんなイメージの曲?」「どんな思い出がある?」とtofubeatsさんが荒井さんの想いを尋ねていきます。

就職活動の苦労と、音楽が仕事になった戸惑い

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「この日本のアーティストは、中国にいたときから知っていました。CMで使われていた曲がすごく好きで。その曲は初めて日本語で全部歌えた曲なんです」「この中国語の歌は、お母さんが家でずっと流していたんです。最初はメロディがいいと思ったんですけど、歌詞をじっくり聴いてみるとまたすごくよくて」「このバンドの曲は、tofubeatsさんのインスタで知りました。調べて聞いてみたらめっちゃいい曲! と思って」と、曲ごとのエピソードを話していく荒井さん。
それに対しtofubeatsさんは、作業をしながら「わあ、超いい話。歌が得意なのうらやましいなあ」「この曲は意外やったけど、なるほど、お母さんが聴いてたんや」「え、そうなの! びっくりした(笑)。これ本当にかっこいい曲ですよね」と合いの手を入れて話を広げ、荒井さんからさらなるエピソードを引き出していきます。

それぞれの曲はテンポが違うため、そのままつなごうとすると違和感が出てしまいます。そこで、テンポを調整したり、アウトロとイントロを重ねたり、あえてスパッといったん音をなくしたり、エフェクトを入れて次の曲の歌い出しから始めたりと、さまざまなテクニックをtofubeatsさんが試していきます。

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作業の邪魔をしないように、と話しかけるのを控えがちな荒井さんに対して、「なんでも聞いてください、就活の秘訣とか」とフランクに話題を振るtofubeatsさん。そう、荒井さんは現在、就職活動の最中なのです。tofubeatsさんも、大学4年の時にアーティストとしてデビューするのを諦め、就活をしていたそう。誰もが知る大手広告代理店にエントリーシートを送ったこともあるとか。

「でも、面接まではまったく行けず、エントリーシートで落とされてました。大学4年の夏に東京のDJイベントで『就職決まってないんです!』ってステージで叫んだら、あるWeb関係の会社の方に『うち手伝う?』って声かけてもらって。それでしばらく神戸からリモートで仕事をして、その会社から内定もらいました。そうしているうちにデビューが決まったんです。そのときにはもうめちゃめちゃ就職したい気持ちになっていて、東京に行ってプログラマになるもんやと思っていたのに。人生何があるかわからないですね」(tofubeatsさん)

共同作業でミックスが完成。いつもの曲が新鮮に聴こえる

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荒井さんは今回、tofubeatsさんに会って尋ねてみたいことがありました。それは、「tofubeatsさんにとって音楽とは?」という質問です。その問いを振られたtofubeatsさんは「いやあ、この質問むずいですよね」と苦笑いをしたあと、「僕が思うのは『音楽は大事な趣味だ』ということ。『生きがい』まで言うと、ちょっと重たいんですよね」と答えました。

「『あると人生楽しくなる』くらいの趣味かな。だから人にもお勧めします。その趣味が本業になってしまったことには、今でもけっこう戸惑いがあります。大学生の時は、1日中音楽を作りたいなあと思っていたんです。それが叶ってしまった今、1日中音楽を作るのは、1日中仕事してるってことなんですよね。それはそれで、生活のバランスをとるのが難しい。でも、音楽を仕事にできているのは幸せなことだと思います」(tofubeatsさん)

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大学生活やアルバイトの話、今日の朝食の話など、tofubeatsさんがお土産として買ってきた神戸の老舗洋菓子屋のバームクーヘンを食べながら、いろいろおしゃべりをする二人。その間にも、着々と作業が進められていきます。
「ちょっと違うな、というところがあったらちゃんと言ってくださいね。自分が聴くためのミックステープなんだから」と言うtofubeatsさん。その言葉を聞いて荒井さんは少しずつ、「ここの入りはもう少し早いほうがいいかもしれません」「次はこの曲が合うと思います」と自分の意見を提案します。

二人の共同作業により、約2時間半をかけてすべての曲がつながりました。最終チェックをして、CD-Rに焼き、ミックステープの完成です。
tofubeatsさんが「mixed by misho&tofubeats」とディスクに書き入れ、自宅から持ってきた今や貴重な『水星』のステッカーと一緒に荒井さんに手渡しました。

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「大興奮です……! 今日は本当に夢みたいな時間でした。tofubeatsさんとこんなにたくさんお話しして、間近で作業を見ることができるなんて。楽曲を作っている人は、こんなことを考えているのかと、未知の世界に触れることができました。これからの音楽の聴き方も変わりそうです」(荒井さん)

異質な曲が、ミックスを盛り上げてくれる

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普段からDJとして曲をミックスしているtofubeatsさん。でも、誰かと一緒に曲順をゼロから考えてミックステープを作るのは初めての経験だったそう。この日、二人が出会って、異質なものを取り込んでいくことにより、世界にたったひとつの新しい音楽体験が生まれました。

「ミックスするときは、『これはアゲ曲』『これはまったりする曲』など曲のテンションでまとめていったりするんですけど、僕がテンション低めかなと思った曲が、荒井さんにとってはアゲ曲だったりして、人によって曲の捉え方がぜんぜん違う。人と一緒にやるとそういうおもしろさがあるんだな、と思いました。選んでいただいた曲も、とてもよかったです。ゴリゴリのラップと中国語の歌謡曲が並んでいたりして。飛び道具というか、異質なテイストの曲が入るとミックスがおもしろくなるんですよね」(tofubeatsさん)

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荒井さんに「自分でもミックステープやトラックを作ってみたいと思いましたか?」と聞くと、「もう、就職活動が終わったらすぐやります!」という答えが。周りにも音楽制作をしている人が多く、「作ってみない?」と誘われることもあったのだそうです。

「しかも荒井さんは楽器が弾けるし、歌も歌える。そうしたら曲作りなんてほんま簡単ですよ」(tofubeatsさん)

tofubeatsさんが制作している、予算内で調達できる中古機材だけで楽曲を作る動画シリーズ「THREE THE HARDWARE」も、荒井さんの音楽作りのモチベーションアップに一役買っているそうです。
「すごくおもしろくて、あれを見たら自分もできるんじゃないかって思える」と笑う荒井さんに、「狙い通りです」とtofubeatsさん。近い内に、荒井さんの作った楽曲をネット上で聴ける日が来るかもしれません。

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後日、ミックステープについての感想を、改めて荒井さんにうかがいました。

「通して聴いてみると、自分自身が想いを込めて選んだ楽曲がさらにパワーアップしたように感じます。さまざまなジャンル、そして中国語、日本語、英語の楽曲が入っていますが、不思議なことに馴染んで一体化している。何度聴いても、心が動かされます。このミックステープを作ったこと、そしてtofubeatsさんと雑談から深い話までいろいろなお話をしたこと。今でも夢みたいです。この体験から、より多様性を理解することを心掛けるようになりました。それは音楽だけでなく、普段の生活でもそうです。あとはこれまで以上にいろいろなアーティストの楽曲を聴くようになりました。また、リスナーとしてただ曲を聴くのではなく、作曲をしている人はどのように作っていたのか、そんな背景を自分なりに考えたりもします。本当に、私にとってかけがえのない、世界に一つのミックステープになりました」(荒井さん)

さて、次回はどんな出会い、そして対話の化学反応が起きるのでしょうか。

※本企画で制作したミックステープは個人使用に限定しております


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この記事は、POLAが発信するイノベーティブ体験「WE/」のコンテンツを転載したものです。ぜひ「WE/」のサイトもご覧ください。
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