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年月を経ても「好き」をピンとさせておく秘密〜森美術館 STARS展 奈良美智《作家の部屋の中から》インスタレーションを観て(前編)

森美術館で開催中のSTARS展へ行ってきた。草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司と世界的に活躍中の現代アーティストが勢揃いしている。同時代に生きているという共通性とそれぞれの作家の方法論や世界観の多様性が世の中の縮図を見るようでもあり興味深い。様々な価値と魅力が一堂に会しているので、現代アートをざっと俯瞰しつつ、自分は何に心惹かれるのかを見つけることができる展覧会だと思う。私にとっては奈良美智の作品に心惹かれてその理由を見つけた気がするのでそれについて書いていきたい。

奈良ブースは大きくは2部屋ある。《作家の部屋の中から》というインスタレーションのある部屋と《Voyage of the Moon (Resting Moon) / Voyage of the Moon》などがある夜空にお月様のある部屋だ。今日は前編として《作家の部屋の中から》について書いていく。

タイトルの通りまさに作家の家に招かれ、部屋を見せてもらっているかのような心地になる作品だ。ここには丸腰で入るのがいい。丸腰だから見えてくる感情がある。そうでなくても丸腰にさせられてしまうのが奈良作品の価値であり魅力であるのではないかと思うが。何も構えずまるで子供ように無防備になって対峙すると、そこに見えてくるのは自分自身だったりする。

1.CD群

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まずは圧巻のCD群で通過儀礼。奈良氏お気に入りの私物のCDだろう。どれもちょっと古め。The Velvet Underground and Nico、Lou Reed、Bob Dylan、Suicide、David Bowie、Nirvana、Neutral Milk Hotel、Vampire Weekend、Mary Hopkin、Nick Drake、、私にとっても懐かしく大好きなCDジャケットに目移りしつつ、奈良氏のお気に入りに想いを馳せつつ、、ロックやパンク、フォークとジャンルを問わず独創的かつ画期的で、そこはかとなくセンチメンタルな憂いのある音楽が多い気がする。Nick Drakeの「Pink Moon」が頭の中に流れてきた。大好きな音楽とミュージシャンは思い出すだけで断然カッコいい気分にさせられる。

2.レコードジャケット群と小物たち、小さな作品

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次にレコードジャケットが並んだコーナーがある。紙ジャケットのペコンとした質感や大きさがいい。木板に描かれた《HELP》という絵にも作家の部屋の温もりを感じる。少しザラッとした木目感、星みたいな形、黄色、ビートルズの「ヘルプ!」だろうか。ちょっぴり心細いけどワイルドに行きたい感じがしてくる。

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ケースに入った小物達を凝視してしまう。まるで宝箱の中身だ。いずれも大事に使い続けている風合いで、経年変化してるけどピンとしてる。白黒写真は母上と一緒に写った奈良氏の子供の頃だろう。ハケもマイワールド。アトリエで作業する様子は20年前だろうか。ご自身の佇まいも大事にされている。

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村上隆氏とぴったり並んでる若い頃の写真もある。よく見ると、2000年10月とあるので長いドイツ生活から日本に帰国した頃だろうか。Ramonesの缶バッチ。奈良氏が描いた少年ナイフやnoodlesなどバンドCDジャケットの数々。子供ファンから絵の便りだろうか。友たちとの交流の温もりが充満している。

3.こけしや人形、本やDVDが配置された棚

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うっすら茶色になった物達。こけしや人形、単行本や文庫本、漫画本、絵本、DVDなど。吉本隆明全著作集や永山則夫『無知の涙』、高野文子『棒がいっぽん』を見つけてはうれしくなる。自分が好きなものに目が留まってしまうものだ。知らないものはパッと見ただけでは覚えてなかったりする。本棚から手にとって読んだり、見たりすれば違うだろうけど、手を伸ばして触るわけにはいかない。でも、全体の配置をぼんやり眺めているだけでも見応えがある。何をどう並べるかにもこだわっているのだろう。自分の棚も整理したくなってきた。マイナーチェンジさせながら並べ続ける。きっと誰にとってもそれが必要だし、心の健康につながるのだろう。

4.初期作品群

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1980年代、1990年代の作品が多数並んでいる。封筒や紙袋や小さな紙に無造作に描かれている。描きたいなと思った時にそこにあった紙を使ったという感じだろうか。溢れてきたイメージを急いで留めておくライブ感や試行錯誤する日常感を垣間見るようだ。焦燥と葛藤、閃き、凄まじい原動力、自分自身も見たことのなかった自らが描いた絵を見た興奮と希望。そんな過去は未来の憧れでもある。

5.《作家の部屋の中から》を観て感じたこと

《作家の部屋の中から》に並んでいたもの達は奈良氏が好きなもの達なのだろう。年月を経てもピンとしていた。年月を感じさせる風合いが美しかった。奈良氏は棚や壁に好きなものを配置することで清め続けているのではないだろうか。作家の部屋には創造の神様が祀られているように見えた。

子供の頃、友達に宝物の中身を見せてもらった時の気持ちを覚えているだろうか?
気恥ずかしいような、ドキドキするような、本心しかない、疑いのないような気持ち………。自分のそんな気持ちが好きだったのをふと思い出した。

年月を経ても自分の「好き」をピンとさせておきたい。奈良氏を習って好きな気持ちを配置してみようと思う。どうやって並べようかな。

後編では《Voyage of the Moon (Resting Moon) / Voyage of the Moon》が展示されている夜空にお月様のある部屋については書いていきたい。

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