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13歳、夏。愛の行進【ショートショート】

あの時は、美容に関心が出てきた頃だった。

親友がついに美容整形で二重瞼を手に入れて、ちょっと羨ましくなってたところ。

その子はずっとアイプチをしていたんだけど、瞼がかぶれるし、プールでも取れちゃうから、やって良かったみたい。プールの時期に間に合って良かったって言ってた。

でも私は心配だったの。だって「整形 失敗」で画像検索すれば、物凄いのが沢山出てきたから。

でも医学は進歩しているらしい。画像検索して出てきた様な手術後の画像とは違って、大して腫れてもないし、赤くもなってない。私は幅の狭い二重だったけど、幅を広げよっかな?って思ったくらい。


ところでさ、その時友達といつも言ってたのが、プールは良いけど、もう、プール以外の外でやるスポーツ、やめようよ。って事。

36℃だよ。帽子被ればいいってもんじゃない。誰かが死んだりしないかぎり、辞めないのかな?って。

いくら透明の日焼け止めを顔や手足に塗っても、40分も外にいると汗で取れちゃう。

特にサッカーは最悪。待機してる時なんて、ジリジリ焼けて赤くなる。

焼きたくなかったから、それが1番ストレスだったかな。


今日はさっさとシャワーを浴びたい。そう思って帰った。それが12歳の夏。

何故か覚えてる。あの日は、眩しくて、花も咲いてて、蝶々も飛んでて、赤ちゃんとお母さんが散歩してて、雑草すら綺麗な緑に見えちゃうくらい、キラキラした夏の日だった。


家に帰ると、リビングにあるソファにに男の人が1人で座ってた。泥棒か、犯罪者だと思って、咄嗟に叫んでしまったの。

「ごめんね」姉が寄ってきた。姉の彼氏だった。姉は18歳、彼は20歳。

彼の顔を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。身体中の血流が止まったかの様に、全身の感覚をフワッと失った。

『こんなにカッコいい人、人生で見た事ない』


それから毎週、彼が遊びに来るときに、挨拶する事だけが楽しみになったんだ。

もどかしいのが、彼が姉と外でデートする時。ヤキモチを妬いているなんて言えないし、丸一日デートしている時は、2人が仲良くしているところを想像して部屋で泣いていた。

彼にはあいさつをする時の目線で好意を伝えていたんだけど、全く相手にされてなかった。

姉に飽きて、私に乗り換えてくれないかなー、で、16歳になったら結婚したいなー。

なんて考えてた。

でもね。1ヶ月ほどすると、やっと諦めがついてきた。一応、熱しやすく冷めやすいタイプみたい。


諦めるとスッキリして、意外とすぐ忘れたの。姉が一人暮らしを始めたから、彼を見なくなったのも良かったのよね。で、彼氏はいなかったんだけど、男友達が多かったからしょっちゅう男の子と遊んでたし。

でも、ある日ゲームセンターで男友達といた時に、その彼とバッタリ会ったの。

バカだって笑ってほしいんだけど、運命を感じたのよね。

連絡先を交換したい連絡先を交換したいって思ってたら、彼から聞いてきた。

私が悪い男に捕まらないようにって。


初めてLINEした時は、4時間。その後も、起きてから学校まで、夕食の後寝るまで、ずっとLINEしてた。で、その時点で、5人くらいに聞いたんだけどね。彼が私の事を好きで、絶対狙ってるよって皆が言うもんだから、姉の事は質問せずに、私から彼に

「私達って付き合ってるの?」って聞いたの。

そしたら、姉と付き合ってるけど別れるつもりだって言われた。だから彼を信じた。

疑ってばかりだと、幸せになれないでしょ?愛してるなら、信じなきゃね。


初デートは映画と喫茶店。

次は遊園地とレストラン。

その次は、もっと一緒に居たいってしつこいから、彼の家に泊まった。

姉とも付き合ってたから、デートは月に一回。

私、早熟だったのかな。愛人向きだったのかな。分かんないけど、姉と付き合ってる彼を責めた事は無かった。LINEの内容的にも、会った時の優しさを考えても、大切にされてると思ってたしね。


翌年の春。彼と正式ではないお付き合いを始めて、約半年。

学校にボランティアでバトミントンを教えに来てた26歳の女の人と仲良くなったの。

その人と喫茶店に行った時に、恋バナっていうか、彼との事を全部話しちゃったんだよね。

そしたらその人別人になった様に怒り出して、彼じゃなくて警察に連絡するって言い出したの。

だから全部作り話だって嘘ついた。でも勿論、嘘じゃない事はバレバレだった。

彼女の説得は終わらなかった。私は帰りたかった。

彼女は彼を否定し続けてた。私がいかに可哀想で哀れな少女か、彼がいかに嘘つきで私を利用してるだけの最低男なのかっていう事をずっと話してきた。

意外と怒りは沸き起こらなかったし、涙も出なかった。長いな、めんどくさいなと感じたくらい。なんなんだろうね。全部自分で分かってたことなのかな。


終わらなかったから、泣いてあげないと帰れないなと思って、とりあえず泣いて、

「別れます」

と約束した。まぁまぁ泣いたから、彼女も私を帰してくれたよ。


6月。私は13歳になってた。友達と

「うちらもうおばさんだよね」

「早く結婚しなきゃね」

なんて話してた時期。


その日は夜なのに涼しくなくて、生ぬるい風を感じながら、自転車で友達の家から自宅に帰っていた。コンビニに寄って帰るつもりがいつも寄ってるコンビニが潰れてたの。だからいつも使わない、駅の近くのコンビニに行く事にした。

そこで見てしまった。両目とも視力が1.5あるせいで、遠くを歩いてる彼と、姉ではない、ミニスカートを履いた、ギャル系の10代の女。2人は手を繋いで歩いてた。

私の心臓、一旦爆発したんじゃないかな。そして、その勢いで血の温度が100℃くらいまで上がったんじゃないかな。頭もクラクラで、全く事態が飲み込めなかった。


最後に彼に会った時に聞いたんだけど、姉とは去年の秋頃別れてたらしい。

別れてたのに、彼女が居るって嘘をついたんだ。

普通、彼女が居るのに、相手の女に「彼女居ない」って言って浮気したりするじゃない?それの逆バージョン。

フリーなのに、「彼女が居る」って言われてた。そんな事もあるんだね。

でもさ、人生で一番、『生きてる』って実感してたのは、後にも先にも、その時だけ。

何年経とうと、誰と付き合おうと、それは変わらない。


今でも、カンカン照りの日、喫茶店、コンビニ、駅、姉・・・。

何を見ても彼を思い出しちゃうよ。
連絡は二度と取らないけど、人生で一番好きだったって事には変わりないからね。

もう本物のおばさんになったけどね。

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