メメント・モリとメディアスクラム

先日、新型コロナウイルスの院内感染が発覚した墨田区の墨東病院は、僕が約10年前にインドでもらった腸チフスで約1ヶ月入院していた病院でもある。

墨東病院は都内でも珍しい感染症科がある病院で、僕は隔離病棟で過ごすことになった。面白かったのは、感染症科の先生は、みんな変わり者バックパッカーだったということだ。僕がガンジス川に入ったと言ったら、「ああ、それはやっちゃダメですね、僕はワクチン持っていったから大丈夫だったけど」とか言っちゃう先生だった。まあ、そんな先生でないと、わざわざ感染症科を選ばないよなと、妙に納得したのだけど。

腸チフスは死ぬ病気だ。僕も先生に死ぬとしたら死因はなんですかと聞いたら、敗血症っていう症状になって死ぬと言われたのを覚えている。実際、本当に辛く、病院での記憶がほとんどない。僕はこのとき、初めて、死というものを意識した。

そして。もうひとつ事件が起こった。僕が入院しているときに、妊婦たらい回し事件というのが起こったのだ。妊婦が墨東病院に運ばれたが、病院側が受け入れを拒否、結果、死亡してしまった。文春で大きく報道され、病院の周りには、マスコミが取り囲み、当時の厚生大臣、舛添要一が視察に来る事態となった。

僕はそれを内側から見る機会に恵まれた。先生は、僕が記者ということを知っていたので、僕は「これって神田さんは病院が悪いと思いますか、何がいけないと思いますか」と突っ込まれ、うまく回答できなかった。
先生や看護師さんに、とてもよくしてもらい、現場の努力を知っているだけに、この状況がとてもつらかった。だから、誰かが一方的に批判されているとき、僕はいつもあのときのことを思い出してしまう。

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