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だから私はショートヘアになれない

この先ないのではないかと思うほどに恋い焦がれた恋愛をした2016年、春。

彼のことは高校生の頃から大好きで、やっとのことで告白をしたけれど、やんわりとフラれてから2年が経っていたが、それでも仲のいい先輩・後輩の関係を続けていた。

私はちょうど就活の真っ只中で、リクルートスーツを身にまとっていた。面接の帰りに新宿で彼と落ち合い、お酒を一緒に飲んで、彼の手に引かれながら歌舞伎町の夜に沈んでいった。ずっと大好きで憧れていた彼と一線を越えられたことが、ただただ嬉しかった。

このまま付き合う、なんていう展開になればよったのだが、彼は「過去の恋愛のトラウマのせいで、人と付き合うことができない。でも、七海ちゃんのことは大切だよ」と言って、【彼女】という肩書きを私から遠くへ追いやった。それでも、私は何度も彼と夜を重ねた。どうしようもない恋愛だったけれど、私にとっては間違いなく大恋愛だった。

そんな恋も、あっけなく終わりを告げた2019年、春。

「七海ちゃんのロングヘア、好きだよ」

彼の言葉に縛られた2年間、自分ではとっくのとうに飽きてしまっていたロングヘアを切り落としてしまおうと思っていた、そんな矢先だった。

気分転換に癒されにいったホストクラブの初回で、あるホストに出会った。貫禄のある格好いい人だった。結局私は初回しかお店には行かなかったが、彼は何度も私をデートに誘ってくれた。私は一銭も払うことなかったが、彼は私にずっと「好き」と言った。

彼はホストだし、と私はその言葉を真に受けることはなかったが、彼はいつの間にかホストを辞めた。真剣に私と付き合いたいと、そう言った。「付き合う」という言葉がよくわからなくなっていた私だったが、失うものなどなかった私はその言葉に身を委ねた。

彼は本当にホストを辞めたし、たぶん私のことが好きだと思う。これが、騙されていたのだとしても、愛されることに枯渇していた私を救ってくれた彼に、私は感謝するのだろう。

そんな彼が言った。

「七海のロングヘア、好きだよ」

私は思わず、その言葉を聞いて吹き出してしまった。彼は少し驚いた顔をして、つられて笑っていた。

こうして私は、別の誰かによって「ショートヘアになれない呪い」にかかった。一生、この呪いが解けなければいいのに。そう思いながら、私は美容院の予約をキャンセルした。

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