見出し画像

電話一つとっても

「ちょっと電話してきますね」
「あ、はい」

「電話終わりました、これを直しておいてください」
「あ、はい」

クライエントとのやり取りで、どうやら私の提案はこのままでOKというわけではなかったようだ。直してほしいところはわかったけれど、直せばいいのかな。直すだけでいいんだよね、たぶん。

「直してみましたが、これで大丈夫でしょうか」
「うん、いいと思う。電話しておきますね」

「はい、終わりました。これでOKです」
「あ、はい」

でもどこかでスッキリしない。クライエントは本当にこれで納得していただけたのだろうか。


以上のエピソードは、大手企業に勤めているろう者からの実話。聴者のクライエントと契約し複数の案件を抱えて仕事をしているけれどいつも不安な気持ちが付き纏っているとのこと。
一方で、他の大手企業に勤めているろう者からは「聴者が代わりに電話してくれるわけだから、言われた通りにやっていれば問題ない」。
両者とも仕事の内容は似ていて、聴者のスタッフたちともそれなりに頑張ってコミュニケーションが取れているそうです。

どうして不安が付き纏うのだろうという話になったのでちょっと話しながら考えてみました。

・電話の内容がどういうものなのかを知らされていない(知る方法がない)
・クライエントの反応を直接的に知ることができない

ろう者と聴者が働く職場、私のところでも似たようなことがあります。
ろう者の抱えていた仕事で、どうしても電話しなければいけないことがありました。聴者は「電話しておきますね」とクライエントに対応。ろう者も安心して「ではお願いします」。


A「電話終わりました、大丈夫でしたよ。ではよろしくね」

B「電話しておきました。最初はちょっとここが気になってて直してほしいって言ってました。でもそういう目的であればと納得されてて、このままでも全然問題ないですよって言ってましたよ」。

AとBのどちらかが、ろう者にとっては安心できるのでしょう。
結果は同じでも、プロセスを共有するかしないかの違いがありました。

結果が同じであれば、プロセスを知る必要はないという意見もあるかもしれません。でも、ろう者は「どうしてそういう結果になったのか」を知る術がなく結果だけを知らされることに慣れてしまっています。結果オーライ!というわけにはいかず、仕事はクライエントがいてこそ成り立っているのだぞ、と言われてもなぁ。

プロセスをどうやって共有できたらいいのか、という方法論さえも大手企業の中ではなかなか理解してもらえないこともあるようです。

ああ、もう!プロセスを知っている聴者に任せればええんちゃうか。マジョリティと一緒に働くってしんどいわ。もうお給料だけもらえばいいんだよ。

そうは問屋が卸さないぞ!

とは言いにくい世の中、少しずつ変わりつつあるけれど、ろう者自身が責任を持ってキャリアを積んでいける環境を作るためには、それぞれの企業風土がある中で、ろう者だけでなく聴者も一緒になって考えていくことに尽きるのでしょう。

私の職場でも、ろう者だけが働きやすい環境というのは求めていなく、両者にとって歩み寄りという言葉で美化してしまわないために、どういう環境がお互いにとってベストなのだろうと考えて試行錯誤しています。
また何かの機会に事例をまとめていけたら。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?