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【イベレポ】詩から見えてくる「わたし」を楽しむ/㈱LITALICO様出張ワークショップ

こんにちは、めぐ@詩のソムリエです。

さて、6月5日(日)、障害と共に生きる方の就労移行支援をおこなうLITALICOワークス北九州事業所にて、利用者さんと詩を楽しみました。

詩を研究しはじめてから10年たちますが、ワークショップの帰り道、《詩って、すごいなぁ》と何度も胸の中で反芻しました。

詩は社会に何ができるんだろう?

ところで、1960年代なかばのこと。サルトルが「飢えている世界において文学は何を意味するか」と発言し、フランスのみならずアメリカや日本でも議論を巻き起こしたことがありました。

文学の博士号取得をめざしていたわたしにも半世紀前のこの問いは胸にグサリと突き刺さり、今でもなんだかんだ、「詩は社会に何ができるのか」と問い続けています。

頭でっかちで考えていた頃とちがって、今回のように「就労移行支援」というかたちで社会にかかわらせてもらうことで、「やっぱり、詩はすごいぞ」「詩にしかできないことがある」と詩の力を実感しています。

前置きが長くなりました!ワークショップの中で実感できた「詩の力」をご紹介します。

詩の力その1:「わたし」がにじみでてくる

今回のテーマは、《詩から見えてくる「わたし」をたのしむ》。対象は、就職活動をおこなっている利用者さんたち。

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就職活動中、「私はこういう者で、これこれが強みで…」という話を、どうしても求められるシーンがあります。「わたし」を切り取ってよく見せることで、疲れてしまったり、そもそも強みなんてないし…と悲しくなっちゃったり。かつての自分のエントリーシートを見ると、「私は課題解決能力があり…」「粘り強さには自信があり…」など、まったくもって私らしくない言葉が並んでいて。当時は必死だったけど、今見るとかなり滑稽です(苦笑)

今回は「わたし」を無理に切り取るのではなく、詩を読んだり書いたりを通じて、ふとにじみ出てきてしまう「わたし」を楽しんでみよう!という趣旨でワークショップを組み立てました。

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アイスブレイクでは、いつものひらがなワーク。ある人は「『た』が好き。時代演劇が好きだから、剣と盾のように見えた」またある人は「『し』が、書道をしていたので好き」など、その人らしさがさっそくにじみ出ます。

16名の参加者さんとワイワイ盛り上がったあとは、新川和江(しんかわ・かずえ)の「わたしを束ねないで」を朗読し、対話型鑑賞をしました。

「わたしを束ねないで」

わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

(中略)

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
コンマやピリオド いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

みなさんからは、いろんな声が。

・地元に田んぼがあったから、稲穂の風景がバッと思い浮かんだ
・『羽撃き』など漢字にしてあるところが気になる
・自分の名前に『陽』が入っているから、明るくいなきゃいけないというプレッシャーを感じている

などなど、自分と重ね合わせて出てきた風景や気づきをシェア。みんなで読むことで、詩の味わいは多角的になりました。鑑賞もまたクリエイティブな作業です。

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詩の力その②:「わたし」の輪郭を、何度もとらえなおせる

新川和江さんの詩になぞらえて、「わたしは◯◯」と例え、詩を書きました。まずは個人で「わたしは◯◯(例:カピバラ、新幹線…)」書き出し、ペアワークで聞きあってもらったところ、印象的なやり取りがあちこちで生まれていました。

ペア1
「わたしは、『水たまり』。子どもの時はピチャピチャみんな遊んだのに、大人は通り過ぎてしまう」(悲しそう)
「わたしはときどき水たまりを部屋から眺めていて、癒されてるよ」
ペア2
「わたしは、『壊れたラジオ』。最近、好きなこともわからなくなって…」
「『わたしはしいたけ』というのもありますね。」
「椎茸が好きなんです」
「椎茸ってどう料理したら美味しいですか?」
「…パスタとか」
「へー、パスタ!?料理が上手なんですね」
ペア3
「動物のたとえが多いですね。トガリネズミってどんな生き物?」
「トガリネズミは、起きているあいだじゅうご飯を食べているんです。食いしん坊なので」
動物の知識がすごい!子どもたちが喜びそう」
「子ども、すきです」(にこにこ)

こうして「詩のことば」を間において聞きあうことで、その人のよさや「好き」に(その人自身も)気づくきっかけに。そして、詩はネガティブな気持ちを否定してしまうことなしに、寄り添ってくれます

たとえば、「周りと馴染めない」かなしみを、「ワカメ」にたとえる。「みんなにかまってもらえない」のを、「水たまり」にたとえる。でも、ワカメも水たまりもいいよね、と気づくきっかけになります。

言葉は、自己認識に大きな影響を与えます。そして、人からもらった言葉は、いまの「わたし」の輪郭をとらえなおすことにつながります。

詩の力その③自分さえも知らなかった「わたし」を表現できる

できた詩も、それぞれすばらしく、日頃接している職員さんも「全く知らなかった」と驚く内面がたくさん出てきていました。

わたしはかめ
今はのんびり
最終的にかつ

という詩を書いてくれたTさん。ペアの方からも「前向きになれている」と励ましがありました。職員さんたちは「あの方が熱い気持ちになっているんだ!」と驚いたそうです。

また「詩のよさだなぁ」と思ったのは、詩の中で矛盾がおきるところ。たとえば、「私は新幹線/途中なんかどうでも良い/早く早く目的地」といったすぐあとに、「私は牛/のんびりで良いじゃない/なんでも早いと味気ない」と続く。就職活動ってやたら「首尾一貫性」(ストーリー)が求められるけど、人間って、矛盾する気まぐれな生きものだよなぁ…とわたしもホッとしました。

そんな素敵な詩を書いてくれたMさん。ワークショップ中もすごく積極的に参加してくださっていましたが、普段は「わたしはいいんです」と遠慮される方だとか。


詩がほんのすこし、世界を変えてくれる

このワークショップで生まれた詩のことばを少しだけご紹介。

「わたしは透明 相手も透明 そのまま そのまま」
など自分や相手のありかたを許容することばや、「わたしは紙 切っても破いても自由」「私はとんぼ どこまでも飛んでいける」など、心の自由さが吹き抜けていることばもたくさん見られました。それぞれすてきですね。

16名の参加者さんは、それぞれ顔と名前は知っている程度だったそうで、最初はみなさん緊張気味。でしたが、ワークショップ中はかなり盛り上がり、互いにいいところをほめあったり、趣味の話が出てきたりと、和気あいあいのムードに。

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ワークショップが終わった後にも、私に「詩の投稿サイトに投稿してみたいと思う」「また来てね」と何人かが話しかけてくれました。

詩は、まわりも(自分さえも)知らない「わたし」を引き出してくれる。後ろ向きな気分にもよりそってくれる。「わたし」の輪郭を何度もとらえなおせる。矛盾を包み込んでくれる。

そして、詩のことばをまんなかにした対話の、なんと豊かで楽しいこと!

「詩ってすごいぞー!!!」と大声で叫びたくなる、梅雨前の青空でした。

すてきな詩のことばを生み出してくれた参加者のみなさま、サポートしてくださった職員のみなさま、ありがとうございました。

《うれしい後日談》
 後日、職員さんへのインタビューでは、「利用者さんの思わぬ一面をたくさん見て、彼らのいいところをもっと出せるようにしたいと思った」とのこと。そして、ワークショップ後もうれしい効果が続いているようです。
 多動性のある方が、「あ、今《りす》の性質が出ちゃいましたね」「どうしましょうかね」など、詩のことばが日常の会話でも出てきているんだとか。日常のコミュニケーションが豊かにやわらかくなったらうれしいです。

おわりに

冒頭にでてきたサルトル。「飢えている世界において文学は何を意味するか」という発言が、「文学は現実に対して無力だ」という意味だととらえられ批判されましたが、それは曲解だったのではと思います(彼自身、批判に対し再反論しています)。

彼は「書く」という行為は状況を変えることであり、アンガージュマン(engagement/社会問題に参加すること)だという考えをもっているからです。

現実を生きる「わたし」の問題は、社会の問題につながっています。左脳偏重で首尾一貫したストーリーを求められる就職活動において、「束ねられ」「名付けられ」「座らせられる」「わたし」。

その虚像のとらえ直しを「詩を書く」という行為で行うこともまた、わたしなりのアンガージュマンなのかもしれないなぁ…とボンヤリ思いました。


「文化芸術と社会包摂(社会的弱者とよばれる人たちを排除せず、共に生きるありかた)」が言われるいま、詩での社会包摂(ソーシャル・インクルージョン)をもっと探究していきたいなと思います。

「ここでこんなワークショップやってほしい!」というご要望は、お気軽にご相談ください。コロナ禍ですが、オンラインでもいろいろできます。

ご連絡先
megwatanabe7@gmail.com(ことばの舟代表・渡邊)
もしくはtwitter(@amarlka) のDMへお気軽にご連絡ください。

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