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#20 夏草のちぎれば匂う(細見綾子)/クレソンと豚バラの焼きしゃぶ

夏になって、いよいよ庭の(植えた覚えのない)草が元気だ。
日の翳りをねらって、さすがに目に余る部分を抜いた。

ほんとに、なんでこんなに元気なんだろう・・・とじゃんじゃん抜きながら、まちがえてクレソンを抜いた途端にあざやかな香りが鼻を抜ける。

ピリッとした、濃厚な香り。

クレソンは、春に種をどっせーい!と植えたら思いのほかモッサモッサと元気に生えてきて、うちの小さな庭のかなりの面積を占めている。

夏草のちぎれば匂う生きに生きん 細見綾子

まっさきに歌が脳裏をかすめた。

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夏草は生命力のみなぎり

細見綾子さん(1907−1997)は「そら豆はまことに青き味したり」「チューリップ喜びだけを持つてゐる」など、暮らしのなかでふっと思い出す秀句をたくさん詠んだ俳人。それだけ生活感情に寄りそう歌を生み出していて、ふんわり幸せな気分を際立たせてくれる。「朝顔やつるべ取られてもらひ水」の千代女さんの系譜。あるいは、みつはしちかこさんの『小さな恋のものがたり』のチッチ的な「ちいさな喜び」を楽しんでいる人のイメージ。

そのイメージからすると「夏草の…」は生きる力づよさにみなぎっていて「おっ」となった。

たしか、この句との出会いは、山本健吉先生の季語五〇〇選だったと思う。「夏草」の項目にとりあげられた句のなかでも一際生命力が香っていた。

まことに草の生命力は勁(つよ)い。
※「勁い」…しなやかで丈夫。「強い」はハードで固い感じがあるけれど、生命のしなやかさはこちらの字があっている気がします。

高見順さん『われは草なり』でも、

ああ 生きる日の
美しき
ああ 生きる日の
楽しさよ
われは草なり
生きんとす
草のいのちを
生きんとす

という生命謳歌のイメージが詠まれている。

青空の下で土にかがみこみ、草の香りをかぐ時、「生きに生きん」というパワーがみなぎってくる気がする。

さて、この7月で、わたしの従姉が亡くなってちょうど5年がたった。
まだ若かった。

生い茂る草と、せわしなく行き来する虫たち。遠くでじわじわ鳴く蝉の声。
今日も「生きよう」と思う。

決意でもなく、でも、勁く。

生命の「つよさ」をいただく。クレソンと豚の焼きしゃぶの作りかた

せっせと庭の手入れをしていたら、お向かいさんからトマトをいただいた。
しばし立ち話をしたのち、庭からクレソンと獅子唐を収穫してキッチンへ。

クレソンはすこし前だったらサラダにしたけれど、今は花も咲きはじめてとうが立ち、そのぶん香りも濃厚さも増している。まさに「ちぎれば匂う」「生きに生きん」の生命力。そこで、しゃぶしゃぶ用の豚バラを使って「クレソンと豚の焼きしゃぶ」を作った。細見綾子さんの句を味わうなら青いもりもりのサラダもイメージとしてはあるけれど、「生きに生きん」というパワー、これはやはり豚肉だろう。実際、夏バテ防止に豚肉はよいです。

「焼きしゃぶ」は、しゃぶしゃぶ用の肉とお野菜をさっと焼いて、じゅわっと酒と醤油のうまみを絡ませ、柑橘をきゅっと絞っていただく食べ方。最後にひとかけら入れるバターと醤油の風味が食をすすめます。

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【材料】2人分
・だし50cc(あご出汁がおすすめ)
・オリーブオイル 適量
・濃口しょうゆ 小さじ2
・日本酒 大さじ2
・バター小さじ1/2(お好みで)
・ライム(かぼすやレモンでも)半個
・豚バラ(しゃぶしゃぶ用)200gほど
・クレソン あるいはセルバチコ
・トマト(あれば)
ほか獅子唐、おくら、ズッキーニなどの夏野菜もあいます。

この料理は「つよさ」のかけあわせが命。豚ロースではなく、豚バラがおすすめ。クレソンは野性味のつよいものを。セルバチコ(クレソンの野生)があればそれでも◎トマトも同じく、さっと焼いて。じゅわ〜っとおいしいのです。

【作りかた】
①トマトは半分に切る。
②オリーブオイルをフライパンに引き、豚バラ、トマトを入れてじゅうじゅう炒める。クレソンを投入。(獅子唐などのつけあわせ野菜は火の通り加減を見て入れるタイミングを調節してください)
③豚バラとトマトにいい焼き色がつき、クレソンが鮮やかな色になったら日本酒、醤油、だしを加え、さっと煮る。
④さいごにバターをお好みで加え、柑橘をしぼる。

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もりもり食べて、夏をのりきるレシピ。
豚バラの濃厚な甘み、クレソンのピリッとした苦味、醤油とバター…香ばしいうまみが渾然とからまりあって、箸が止まらぬ。

ラガー系のビールもあいます。あとはとうもろこしご飯なんかあると夏の食卓として最&高では。

作者とおすすめの本


作者についての私的解説
細見綾子(ほそみ・あやこ 1907-1997 )兵庫生まれ。
名門細見家に生まれるも13歳のとき父が亡くなる。日本女子大国文科に進み、20歳の時東大医学部助手だった太田庄一と結婚し日本女子大の図書館に勤務。その2年後夫が病気で急死、同じ年には母が亡くなり、度重なる不幸からか秋に肋膜炎を患う。医師で倦鳥派の俳人だった田村菁斎(たむら・せいさい)のすすめで俳句を始め、その後ホトトギス派の松瀬青々(まつせ・せいせい)に師事して俳句の道へ。戦後すぐの昭和21年、沢木欣一主宰の「風」が創刊され、その同人となり翌年の秋に沢木欣一と結婚。NHK教育テレビで趣味講座「俳句入門」の講師など活躍。 

このプロフィールを知るまでは細見綾子さんに対して「『チューリップ喜びだけを持つてゐる』(代表歌)…かわいい人だな〜ほっこり〜」と思っていたけど、日々のちいさな喜びを慈しめるのは、大切なひとの喪失や病があったからなのかもしれない。治療にあたった医師がたまたま俳人でもあったというのはなんとも人生の不思議。グッジョブ、田村菁斎。彼女に俳句という「生きるよすが」があってよかったし、わたしたち読者にとってもよかった。
田村菁斎は「細見綾子を励まし俳句をすすめた」という文脈で書かれがちではあるけど、今も地元で愛されている感じがあります→(http://www.eonet.ne.jp/~zarigani/kilp/kilp37.htm

おすすめの本






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