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#24 頭の中で白い夏野となつてゐる(窓秋)/白いガスパチョ

朝は7時に起きて、庭の水やりをする。ねぼけ眼で外に一歩出ると、目をあけられないほど白い夏の光。今日も晴れ。

頭の中で白い夏野となつてゐる    高屋窓秋(「馬酔木」昭和7年)

ふしぎと惹きつけられる句だ。
はじめて高屋窓秋(たかや・そうしゅう)のこの句にふれたとき、強烈に印象に残った。「頭の中で」と7文字も使ってわざわざ言うのはなぜなんだろう。夏野と「なつてゐる」ってなんだろう、そもそも夏野って?

わかるようで、わからない。わからないようで、わかる気もする。カッと射す真夏の太陽のようでもあり、幻想のようでもあり。

それでも唱えやすい語感とリズムから、特に夏はよく思い出す。

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俳句の常識をサラリとくつがえす

これは昭和はじめの句だけど、いま詠んでも鮮やかで斬新な感じがする。では、なにが斬新なのかといえば、「頭の中で」がキーになる。この句が発表された昭和初期の俳壇は、視覚的に自然の風景をそのままなぞるのが主流だった(高浜虚子/ホトトギス派)。そこで「頭の中で」という完全に型破りなことをやってのけたのがこの句。しかも、心象風景を詠んでいるのに「白い夏野なり」or「白い夏野かな」と幻想的に詠嘆するのではなく、「なつてゐる」とアッサリ言ってのけている。
無造作でかっこいい。ROCKだ。

「駄作」という声もある一方で「現代俳句の嚆矢」と評する人も多いのは、俳句の常識を何気なく、シャツをひるがえすように返しているところだと思う。なんか、色気さえ感じる。

白い夏野と白いガスパチョ

ガツンとパンチがきいていて、プレーンなようで奥深い…
この句を味わうレシピは、白いガスパチョ《アホ・ブランコ ajo blanco》。スペイン・アンダルシアの冷たいスープです。

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アホ(ajo)はにんにく。ブランコ(blanco)は白。こちらもまた、レシピを見てもわかるようなわからないような感覚があって、窓秋の句と通じるところがある。

アホ・ブランコのレシピをいろいろ見ていると、ますます謎だ。
材料はどのレシピも同じ。アーモンド、固くなったバゲット、シェリービネガー、にんにく、オリーブオイル。トッピングはマスカットまたはメロンが多いようだ。いや、ぜんぜん味が想像できない。

というわけで、作りました!アホ・ブランコ。

材料とミキサーさえそろえばかんたんに作れる夏のスープ。火を使わないのもうれしいポイント。


【材料】
・アーモンドプードル 35g
※レシピはアーモンドと書いてあることが多かったけど、「どうせ砕くんだったらアーモンドプードルでよくない?」ということで。粒でもスライスでもよいと思われます。本場では生アーモンドを使うんだとか。
・バゲット ひときれ
・シェリービネガーまたは白ワインビネガー 大さじ1
・水 200ml
・塩 ひとつまみ
・牛乳(バゲットふやかす)60mlくらい
・にんにく(すりおろし) 1かけ
・ディルまたはフェンネル(あれば)、マスカットやメロン、レーズン

【作りかた】
①バゲットを牛乳(水でも可)でふやかす。にんにくはすりおろす。
②①のバゲット、にんにく、アーモンドをミキサーでなめらかにする。
③水、塩、オリーブオイル、ビネガーを加え、撹拌する。冷やす。
④器に盛り、オリーブオイル(分量外)とハーブや果物を散らす。

器に盛り付けて食べてみると、トマトのガスパチョよりもったりとしていて食事っぽいスープ。にんにくがガツンときいてアーモンドが香ばしく、窓秋の句のインパクトにも似ている。ビネガーの酸味が心地よく味をまとめてくれる。冷たい白ワインもあう。

このスープは、ふしぎなことに、食べた時は「ふーん」「こんな味かぁ」と思ったのだけど、なぜか中毒性があって、この記事を起こしているあいだもちょっと恋しくなるのである。わたしアンダルシア出身だったっけ。

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目をとじれば、思い出す光景。思い出す味。それは「頭の中」でありながらリアルだ。なんども反芻される。この俳句が、観念の世界を描き出すチャレンジ作だとしても、幻想的になりすぎず、目の前の自然を詠んでいるのようにも感じられるのはこの点だ。そして読者を惹きつけるのは、それぞれの頭にそれぞれの白い夏野があるからだと思う。わたしのなかで、庭に出るときの白い光、窓秋の句、そしてアホ・ブランコがわかちがたく結びついた夏だった。

作者とおすすめの本

作者についての私的解説
高屋窓秋(たかや・そうしゅう)1910−1999 愛知県生まれ。
水原秋櫻子(みずはら・しゅうおうし)の門人。窓秋を語るには師・秋櫻子はかかせない人物。秋櫻子はたんに自然を写生するのではなく、想像力を養い、頭脳を働かせたうえで『文芸上の真』をとらえることをよしとした。窓秋はそのような「主観写生」の考えのもとに心象を描く句風を突き詰め、1937年には代表句「頭の中で白い夏野となつている」を発表。昭和初期の新興俳句運動に大きな影響を与えた。「ちるさくら海あをければ海へちる」「海原の 海べの 酒は こぼれけり」など、ファンタジーと現実のギリギリあいだを行って「そう言われてみればそうなんかも…」と思わせるアッサリした書きぶり、わたしはけっこう好き。映像的な俳句を詠む人でもある。

おすすめ本


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