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REPORT|世界初?永瀬清子の詩を「紡ぐ」ワークショップ―夜あけの色彩は、わたしだけの色

こんにちは。詩の楽しみを広げる「詩のソムリエ」です。
溢れんばかりの新緑と、小さな花々がそよぐこの季節、詩を「紡ぐ」というおそらく世界初のワークショップを共催しました。
その様子をレポートします。

和気あいあいと詩を紡ぐ

詩人・永瀬清子の家へ

現代詩人の母と呼ばれる永瀬清子ながせきよこ(1906−95)を知っていますか?
「諸国の天女」「だまして下さい言葉やさしく」などが有名な詩人で、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の発見者でもあります。

戦後に、生まれの岡山県赤磐市に戻り、農作業、家事、4人の子の育児をしながら詩を書き続けました。

「お百姓をしたら詩はかけないと覚悟をきめていたが、百姓をすることでかえってイメージが湧いてきた。肉体は疲れても、頭は動いた。小川のふちでも、アゼ豆の蔭でも、いつでも小さなノートに書きつけ、夜中に再び起きてまとめるので、寝不足で、目をつぶって歩くので、天秤棒をかついだり、猫車を押しながら田圃にしょっちゅう落ちたネ」と清子から聞いている。

藤原菜穂子『永瀬清子とともに』

清子さんは、午前二時に起きて詩を書き、午前四時には台所仕事をはじめていたそう(すごい体力!)。赤磐市にある永瀬清子生家には、清子さんが煮炊きしたかまどや、水をくんだ井戸が残されており、生活の気配が濃密に漂っています。

詩を「紡ぐ」?

そんな生家で、4月16日に「詩を紡ぐ」ワークショップをしました。きっかけは、以前開催した「詩を食べる」ワークショップ。清子さんの詩を読んで、和菓子をイメージしました。そのとき参加者さんだったのが、ニュージーランドやモンゴルで糸紡ぎに出会ったKakara Woolworksの青島由佳さん。「詩を食べられるなら、紡ぐこともできるはず!」と提案してくださいました(うれしい!)。

愛らしい、糸紡ぎの道具たち

今回、「春に、詩を紡ぐなら…」とセレクトさせてもらったのは、「夜あけ」「早春」「夜に燈ともし」。

生家に集まった8名の参加者さんと、まずは詩を読みます。「早春」という詩の冒頭。

あけ方に ふと目がさめると
空気が なんとなく にぎやかだ。
春が来ている。

「早春」『永瀬清子詩集』(思潮社)所収

この詩の「にぎやかだ」について、鳥の声や空気の粒の感じ、冬との違い…などワイワイ。アメリカの方もいたので、「にぎやか」(noisyではない…)という日本語の意味合いについてもより深く考えることができました。

「夜に燈ともし」という詩は、夜にひとり起きだして、かいこがまゆを作るように言葉を紡ぐ行為がつづられた作。

さびしい一人だけの世界のうちに
苔や蛍のひかるように私はひかる。
よい生涯を生きたいと願い
美しいものを慕う心を深くし
ひるま汚した指で
しずかな数行を編む。

「夜に燈ともし」『永瀬清子詩集』(思潮社)所収

Kakara Woolworks青島さんは、糸を紡ぐのは孤独な行為だといいます。このあとの糸紡ぎで、それを実感できるでしょうか?

参加者さんたちに人気だったのは「夜あけ」。

ただひとり あの樅の木が
だんだん輝いてくるのを待っているように
新しい朝の光を待ちこがれている私には―

「夜あけ」『永瀬清子詩集』(思潮社)所収

これを朗読すると、永瀬清子生家保存会の理事長・横田都志子さんが「詩に出てくる樅の木はあれですよ。あそこから日が昇るんです」と家のすぐそばにそびえる木をヒョイと指差しました。流しからこの風景を見ていたそう。まさに詩が生まれた場所で詩を味わう喜びを感じる瞬間でした。

ままならない、魔法のような糸紡ぎ。

そしていよいよ、糸を紡ぎます!
「『言葉を紡ぐ』とかいいますけど、本当に糸紡いだことあります?って思うんです」と青島さん。彼女自身、詩人でもあります。たしかに…「紡ぐ」ってメタファとして使うけど、現代において、実際に手を動かしたことのある人がどのくらいいるものでしょう(わたしももちろん経験がありません)。

見て・さわって

カラフルに染められた羊毛をテーブルに並べると、みんなの顔が輝き、「これ、キラキラしてる!」「同じ白でも雰囲気が違うね」など言いながら手に。そして選んだ詩と向き合いながら、色彩をデザイン。

ブレンディングボードで羊毛を整えて
くるくる巻き取る
スピンドルでよりをかけていく

青島さんが手本にやるとシュルシュル〜ッと糸ができていくのですが、これがどうして、やってみると難しくって、全員が苦戦…!

「詩を紡ぐのと、糸を紡ぐのは似ていますかね?」と青島さんに尋ねると、「頭で考えすぎないことです」と言いながらくるくるスピンドルをまわしていました。まるで魔法のよう。

なるほど…。慣れないうちは、途中で切れてしまったりしてうまくいかないけど、だんだん頭だけじゃなくて体全体で紡ぎ出せるようになるのかな。「上達すると均一な細い糸しか紡げなくなるので、でこぼこの糸は今だけで、それはそれでかわいいです」とのこと。ふむ。詩もそういうものなのかも??

Kakara Woolworksの青島由佳さん(右)

助け合いながら、できあがった糸たち。同じ詩からインスパイアされていても本当に人それぞれ!あえて、よくわからなかった詩を選んで、紡ぎながら意味に向かい合う人も。
(「夜あけ」という詩を選んだ参加者さんが、糸がなかなか紡げず「これじゃ夜があけないわ…」と困ったように言っていたのがキュートでした。)

プレゼンタイム

「この詩のこの部分をイメージして…」というプレゼンも個性があって楽しかったです。みなさん、素敵でした!

終わりに

詩人であり、そしてせわしなく手を動かし生活をつくる人でもあった、永瀬清子というひと。それは、こう書く以上に厳しいものがあったと思います。

正直であること

女性がものを考え、学び、自立することがよしとされない時代に詩を書きはじめ、第二次世界大戦をくぐり抜け。戦後になっても、村では「詩を書くのはおやめなさい」と面と向かって罵られることもあったそう。

そんな彼女が、詩を書くために夜あけ前に起き出し、感じた春の空気、見た世界の色は、どれも繊細で優しくて。その美しさをかみしめた時間となりました。

参加者のみなさま、Kakara Woolworks青島由佳さん、そして永瀬清子生家保存会のみなさま。ありがとうございました。

詩を食べる、紡ぐ…今度はなにができるかな?楽しみです。

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megwatanabe7@gmail.com(ことばの舟・渡邊めぐみ)

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▲永瀬清子という詩人だけではなく、戦前〜戦後の時代を知ることのできる本です。おすすめ。

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