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浅くてもいい、深くてもいい。ボードレールの詩を味わおう

ひょんなことから、ボードレールの訳に挑戦することに

こんにちは。詩のソムリエです。
noteを通じてなかよくなった、詩を翻訳しているひよこのるるさん。「フランス語気軽に勉強したいね〜」なんて流れで、わたしのリクエストで「詩を訳してみたい!」ということになりました。(気軽?)

好きな詩でと言っていただいたので、「じゃあボードレールのÀ une passante(通りすがりの女に)でー!」と即答。
フランス語は赤子レベルのわたしですが、これだけは何度も何度も人生のなかで思い出すことがあったので、暗誦できる唯一の詩なのです。

▼どんな詩か知りたい方はこちらもどうぞ!

韻律に恋をしていた

るるさんと約束した第一回の勉強会に向け、久しぶりに紙の辞書で一語一語引き、るるさんの博識にあやかりながら原詩を味わいました。(ゼミのクオリティ!)

そうして見えてきたことはたくさんあります。たとえば、"Une famme passa,"(A woman passed,)という3つの単語の連なりを見ても、

・ここだけ直説法単純過去→「過去」であることの強調?
・ここまでダラダラ文章が長いのに、この文はリズムが短い。通り過ぎるのが一瞬だったことの表現?
・「ある女性」とするか「ある女」とするか?

などなど…原詩に向き合ってはじめて見えてくることがあり、さらにまたそれが謎を呼び…と、どこまでも深く深く入っていけました。

喪服を着たA une passante


そして、わたしの心に10年以上居座り続けているこの3行。

Ailleurs, bien loin d'ici ! trop tard ! jamais peut-être !
Car j'ignore où tu fuis, tu ne sais où je vais,
Ô toi que j'eusse aimée, ô toi qui le savais !

遠いほかのところで!いや、もう遅すぎる!たぶん決して!
ぼくは君の去った場所を知らないし、君はぼくがどこに行くかも知らない。
ああ、ぼくが愛していたはずの君、それを知っていた君!

やけっぱちで書いたようでいて、アレクサンドラン(各行が12音綴おんてつ、6音目で句切る規則)という韻律の形式をキッチリ守っていると、るるさんに教えてもらいました。(授業で習ったかもしれないけど遠い記憶の彼方…)

だから、フランス語赤子レベルのわたしの脳裏にも長年くっきり刻まれていたのか。日本では五七調が「内在律」(体に刻み込まれている自然なリズム)と言われるけど、アレクサンドランもそうかもしれない。

「めぐさんは、アレクサンドランに恋してたんですね」というるるさんの言葉が印象的でした。「すきだ!」と心に刺さっていたのは、こういう理由だったのか、と納得。


詩に向き合うじかんのなかで見えてきた3つのこと

今回、久々にこうして外国詩に向き合って感じたことは、3つ。

1つ目に、何週間も考えるに値するボードレールの詩の魅力。
ここ最近、ずっとボードレールのこの詩のことを考えていて、台風のときですら思いを馳せていました。笑


2つ目に、「世の中にはわからないことが漂う余白がもっとあっていいんじゃないかな」ということ。
さっとコピペしてgoogleで翻訳できる時代に、ひとつひとつ言葉を辞書で引いて読んでいく。そして一つがわかったら、またさらに謎が出てくる。そんな時間を楽しむのは豊かでした。

そして3つ目は、「深く楽しむのも、浅く楽しむのもそれぞれによい」ということでした。

詩の研究をしていたころ、詩を深く分析できる喜びを味わいつつも、詩を読むことのハードルを高くし、読者を狭めているような孤独感もありました。そこで、「もっと詩をフィーリングで気軽に楽しんでいいのでは」という思いで「詩のソムリエ」の活動をしてきました。なので、一語一語を深く読み、当時の文化や注釈を調べ、ディスカッションし…という分析的な読みをここまでしっかりやるのは久しぶりのことでした。(※詩の記事を書くときはある程度やるけれども)

で、やはり、緻密に読むことではじめて見えてくるものは多く、なんともいえない、自分(たち)だけの宝石を磨くような深い喜びを見出しました。

ただ、「詩ってこれくらい勉強しないとやっぱりわからないよね」と思われるのも悲しい。
「うわっこのフレーズ、超心に残る!」「よくわかんないけどすごい好き!」みたいな直感的な読みもまた、詩の楽しみ方の一つ。

わたしが「心に残る」と思ったフレーズには、アレクサンドランという形式が実はあった…みたいに、直感の読みがまちがっているというわけではなく、むしろ一種の真実をつかんでいるような気さえします(おこがましくも)。

一語一語厳密に読むのは、たとえるなら、海に深くもぐるような行為。ぱらぱらっと読んで楽しむのは、浅瀬でぱしゃぱしゃ遊ぶような行為。海を楽しむのに優劣はなく、どちらの読みかたもそこでしか見えない景色があると思うのです。(こんなに厳密にひとつの詩を読んでいたら、ほかの詩にふれる機会が少なくなるしね…)


公開!みんなで悩みながら詩を翻訳してみるよ


というわけで。せっかくなので、いったん作った和訳をこねくりまわす作業をtwitterのスペースで公開してみることにしました。ひよこのるるさん、ぽりeんさん、わたしの3名で、それぞれの詩を見せ合いながらあーだこーだおしゃべりします。「これが正解」とかではなく、「へぇ、一語の解釈でこんなに変わるんだー」とか、「ここの訳は冒険したな」みたいな感じで聞いてもらえると。

木曜の20時からです。(わー、ドキドキ)

https://twitter.com/i/spaces/1RDGlaVjqXDJL

※「À une passante」で検索するといろんな人の和訳・英訳が出てくると思うので、そちらを見ておくといいかもです

À une passante - Charles Baudelaire

La rue assourdissante autour de moi hurlait.
Longue, mince, en grand deuil, douleur majestueuse,
Une femme passa, d'une main fastueuse
Soulevant, balançant le feston et l'ourlet ;

Agile et noble, avec sa jambe de statue.
Moi, je buvais, crispé comme un extravagant,
Dans son oeil, ciel livide où germe l'ouragan,
La douceur qui fascine et le plaisir qui tue.

Un éclair... puis la nuit ! - Fugitive beauté
Dont le regard m'a fait soudainement renaître,
Ne te verrai-je plus que dans l'éternité ?

Ailleurs, bien loin d'ici ! trop tard ! jamais peut-être !
Car j'ignore où tu fuis, tu ne sais où je vais,
Ô toi que j'eusse aimée, ô toi qui le savais !

フランス語の話もちょろっと出てくるかもしれませんが、ほぼほぼ、日本語の話になるかと思います!

ではでは。

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今日もすてきな一日になりますように。
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