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エッセー「寝そべり族は超人か⁉」& ショートショート「雪男」

エッセー 寝そべり族は超人か⁉  日本人ならほとんどの人が、「富国強兵」という言葉を知っている。この言葉は、明治政府が生み出したスローガンで、日本が欧米先進国に追い付くため、国を豊かにし、強い軍隊を作ることを念じて掲げたものだ。しかし最近の物騒な世界情勢を見ると、このスローガンは日本だろうが先進国や発展途上国だろうが、すべての国の国是になっていることを実感し、いまも昔も世界は変わっていないものだとつくづく思い、苦笑している。何となれば、多くの国の人々が自分を貧乏人だと思って

エッセー「天才とは⁉」& ショートショート「アラジンと40人の浮気族」

エッセー 天才とは⁉ ~モーツァルトを考える~   「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」とエジソンは言ったそうだが、後に「1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄になると言ったのだ」と訂正したらしい。教育者は最初の言葉を広めて、「努力が大切だ」と子供たちに諭したいらしいが、その方向性が正しいとすれば、結局我々はダイヤモンド鉱山で働く労働者のようなものだということになる。  仮に天才を夢見る凡人がいたとして、彼は1%のダイヤモンドを見つけるために汗水たらして地

エッセー「どいつもこいつも麻薬中毒」& ショートショート「人類野生化再生プロジェクト」

エッセー どいつもこいつも麻薬中毒 ~ギャンブル依存症を考える~  痛みには「肉体的な痛み」と「精神的な痛み」がある。肉体的な痛みは負傷や炎症などに伴う苦痛で、精神的な痛みは心が傷ついたときに伴う苦痛だ。そのどちらとも、神経の感覚なので、感覚器官の個性によって鈍感であったり敏感であったりする。肉体的痛みの場合、人によっては傷の痛みをあまり気にしない者がいれば、ちょっとの痛みで泣き叫ぶ者もいる。精神的痛みの場合も、大きなショックでもめげない者がいれば、ちょっとのショックでめげ

エッセー「ゴジラ、悲しき道化師」&ショートショート「ブラック・マウンテン」

エッセー ゴジラ、悲しき道化師  大分昔、手に火傷をしたら食用油をかけろというのが医学常識の時代があった。僕が上野の飲み屋で酒を飲んでいたとき、店員が熱い油を手にかけ火傷をした。僕は「早急に患部を冷やせ」という新しい医学常識を知っていたから、直ぐに水をかけろとアドバイスしたが、彼は酒に酔った僕をジロッと見て、「騙されはしないぞ」といった顔付きで薄笑いしながら横の油をかけ始めた。僕は気分を害し、それ以来その店には行っていないし、彼の火傷がどうなったかは知らないが、きっと病院に

エッセー「トロイメライ」& ショートショート「黄金姫」 

エッセー トロイメライ ~I Have a Dream~  シューマンのピアノ曲集『子供の情景』に、『トロイメライ(夢想)』という曲がある。誰でも一度は聞いたことがある名曲だ。『子供の情景』は、恋人であるクララの父親が二人の結婚に猛烈に反対していた時期に、彼女から「時々あなたは子供に思えます」と言われたのをきっかけに作曲した小曲の中から、13曲を選んでまとめたものだ。彼は自分の子供時代を夢想してこの曲集をつくったらしいが、きっと相手の父親と裁判までして結ばれるという骨肉の争

エッセー「小澤征爾の思い出」& ショートショート「亡き囚人のためのパヴァーヌ」

エッセー 小澤征爾の思い出  小澤征爾が亡くなった。偉大な足跡を残した指揮者だったので残念だ。若い頃小澤に入れ込んで、大谷ファンのように海外にまで行って演奏に触れることがあった。日本で小澤の演奏に接するのは当たり前の話だったが、欧米では「東洋人に西洋音楽が分かるか」と思われていた時代だ。そんなときに、東洋人の指揮者が西洋人ばかりで構成される名門オーケストラを指揮し、聴衆もほぼ西洋人だったという現象は、大リーグで日本人選手がホームラン王を獲得するのと同じような快挙だった。ファ

エッセー「東京2030~摩天楼の幻想~」& ショートショート「恋文」

エッセー 東京2030 ~摩天楼の幻想~  以前テレビか何かでブラジルの荒野に林立する大きな蟻塚を見て、万物の創造主が存在するなら、その神様はあらゆる生物が存続するために必要最低限の知恵を与えてくださったのだろうと考えたことがあった。イギリスの国土と同じ面積に、高さ3メートルにもなる蟻塚が連なる。それらの土の量を合わせると、ギザのピラミッドの4000倍に相当するという。蟻塚は土と排泄物で造ったシロアリたちの城で、内部は蟻道や居室空間が張り巡らされ、数十万匹のアリたちが共同生

エッセー「一挙両得、アリの巣防災都市」& ショートショート

エッセー 一挙両得、アリの巣防災都市  東京都は外国からのミサイル攻撃に備え、居住者たちが一定期間滞在できる地下シェルターを都営地下鉄麻布十番駅に造る予定だという。今後は順次増やしていくために、次なる候補地も物色中らしい。民間企業に対しても、ビルの建設時にはシェルターに転用可能な地下空間を造るなどの協力を期待しているという。僕は一昨年『地底人間への誘い』というエッセーで、地下シェルターの必要性に言及したが、始めの一歩が始まったことを嬉しく思っている。半面、ウクライナ戦争が起

エッセー「芸術は爆発だ!」& ショートショート

エッセー 芸術は爆発だ! ~ムリヤリ芸術二元論~  冬になると野原は枯れた植物の死体で満たされ、人々は寒さで体を縮込ませながら、再び訪れる春のことを思い浮かべる。僕は近くの河原に立って荒涼とした景色を眺めながら、最初に色とりどりの花たちに埋め尽くされた春の河原を思い浮かべ、次に色とりどりの観衆に埋め尽くされた大リーグの開幕試合を思い浮かべる。花は花でも。大谷翔平という花形選手の躍動する姿をイメージしたわけだ。春の花と大谷さんでは、少しばかりニュアンスが違っているが、似ていな

エッセー「シンギュラリティ、あるいは人類の敗北」 & ショートショート

エッセー シンギュラリティ、あるいは人類の敗北  2045年にシンギュラリティが来ると予測したレイ・カーツワイルは2014年に、『ハイブリッド思考の世界が来る』というタイトルで講演し、人間の思考は生物学的思考と非生物学的思考のハイブリッド(組み合わせ)になると断言している。生物学的思考は人間が持っている大脳新皮質による思考、非生物学的思考はAIによる思考の意味だ。  彼によると、2億年前のネズミみたいな初期哺乳動物が、最初に切手大の薄い大脳新皮質を獲得したのだという。これ

エッセー「熊戦争とパレスチナ戦争を考える」& ショートショート

エッセー 熊戦争とパレスチナ戦争を考える  今年は異常気象で木の実の出来が悪いらしく、ふだんは人里に下りてこない熊たちが空腹のあまり人家の庭に現れ、人を襲うなどの悪さをしている。これから異常気象は続くし、それが当たり前になれば異常も通常となるだろうから、熊のお宅訪問も日常茶飯事になるに違いない。同じようにウクライナの領土にロシア軍が進軍して居座れば、最初は世界が異常事態と見なしていたのが、そのまま時が経つうちに世界も目を瞑る日常風景になる。それが嫌だというのなら、熊もロシア

エッセー「アガスティアの葉」 & 詩

エッセー アガスティアの葉  古代南インドの仙人(リシ)は、すべての人間の過去、現在、未来を知っていて、これを記したヤシの葉「アガスティアの葉」が各地に残っている。一時日本でもブームになり、多くの観光客が現地のト占所に訪れて占ってもらった。「当たった」と喜ぶ人もいたし、「インチキだ」とがっかりした人もいたらしい。  アガスティアの葉の真偽は分からないが、これが本当だとすれば、人間の運命はあらかじめ決まっているということになる。ならばこれは、ライプニッツが主張した「予定調和

小説「恐るべき詐欺師たち」(全文)& 詩

詩 神の道化師 疫病が猛威を振るって 人々は職を失い 路頭に迷っている 資本主義なんてシステムじゃ 金欠症は菌血症とは反対に 血中に黴菌も栄養も流れず 死に至る病になっちまう 嫌だね山口判事じゃあるまいし、…けれど いったい一文無しになることは絶望か? そいつは資本主義っていう狂ったシステムから染み出た 馬鹿な妄想に過ぎないだろうさ 資本主義の害毒は猫も杓子も金の亡者になることだ ケネディーの父さんは大恐慌の直前に 靴磨きの少年が株を買い込む姿を見て暴落を確信し 株を全部

戯曲「クリスタル・グローブ」(全文)& 詩

精霊劇 クリスタル・グローブ   登場人物 (被爆霊)  校長先生  春子先生  理科教師  太郎  清子  止夫 (迷い霊)  美里  ヤンキー  廉  紀香  ライダー男  ライダー女  男(ストーカー) 悪魔 男の子 女の子 一 南の島の浜に打ちあげられた小さなガラス玉の中 (美しい南国の砂浜が舞台背景に映り、波の音。映像がその白砂の一粒にフォーカスすると原爆の廃墟が広がっている。ブランド・ファッションを身にまとい、ミニプードルを連れた美里は、車に撥ねられたと