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大鴉の喪章

痛苦ばかりが呼び起こされるからだの奥に記憶の扉があり、そこから溢れてくるかなしみはとめどもなく流れ出し、奔流となって私に迫る。歌声を押し殺し、言葉を喉の奥に詰まらせたまま、声にならない叫びを上げて大鴉が斃れる。その羽のひとひらを拾いあげ、黒々とした闇のうちに開かれる扉の前に佇んだまま、閉めることもできずに羽根の喪章を握りしめる。どこか遠い、あの海の果てから飛んできたのだろうおまえを葬ることも叶わず、濡れてゆくからだは冷えて、流されてゆく。たどり着く先に花園があることをおまえは覚えているか。その黒い瞳に花の影がゆらめき宿ることをただ願いつつ、私の痩せ細った身も熱を失って指先に感じるおまえのたましいだけが何よりも高らかにいのちの火を歌うのを感じている。私の胸に呼び覚まされる最後の理性が、ようやくおまえの名を呼ぶ。人々の畏敬の証として書物に綴られた名を。

Hommage:L.E.D.-G/電人、暁に斃れる。

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