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思考する精神の高さ - パスカル『パンセ』(1)

17世紀のフランスを生きた哲学者パスカルの『パンセ』(瞑想録)より、引用します。この本は思考の断片を集めた遺稿集です。

まずは、人間を一本の葦(あし)にたとえた、一番有名な言葉から。葦は水辺の草ですね。

人間は一本の葦にすぎない。自然のうちで最もか弱いもの、しかしそれは考える葦だ。人間を押しつぶすのに宇宙全体が武装する必要はない。

一吹きの蒸気、一滴の水だけで人間を殺すのには十分だ。しかし宇宙に押しつぶされようとも、人間は自分を殺すものよりさらに貴い。なぜなら、人間は自分が死ぬこと、宇宙が自分より優位にあることを知っているのだから。宇宙はそんなことは何も知らない。

人間は、物理的には弱い存在です。また、小さい存在です。しかし、人間は「考える」ことができるとパスカルは説きます。

 こうして私たちの尊厳の根拠はすべて考えることのうちにある。

だからよく考えるように努めよう。ここに道徳の原理がある。

人間は「考える」ことによって、力ある自然よりも、豊かであり、尊厳を持ちうる、とパスカルは言います。考えることによって、より高く生きることができるのです。

しかし、パスカルは「人間は思考できるから、とても偉い。万能だ」と言いたいのではありません。

永遠に沈黙する無限の空間、それを前にして私は戦慄する。

パスカルの根源にあるのはこのおそれでした。それは宗教的な深淵であり、その畏怖から、パスカルは神を求めます。

心慰めるがよい。きみは自分をあてにして、それを待望するべきではない。かえって自分にはなにも期待しないことによって、それを待望すべきなのだ。

「それ」と言われているのは、救いであり神でしょう。
パスカルは、キリスト教のジャンセニスム(カトリックの一宗派)を信仰していました。

つまり、「考える」ことができるからと言って、人間は自然や運命よりも偉い、万物の王だとはパスカルは考えません。

むしろ、人間がいかに弱く、もろく、世界は恐ろしいかを知っていたから、思考を通じての、信仰の重要さを実感していたのです。

事実、パスカルが生きたのは内乱の時代でした。

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