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ショートストーリー 何が見たかったの?

何事もなければ、ここはたくさんの人であふれていた。異なる言葉やいろんな価値観を持つ人たちで、多様性のある活気あるところになっているはずだった。今はひっそりとしている。息をひそめているかのような空港。

昨日は家で過去の韓国ドラマを倍速でところどころスキップしながら30話も見てしまった。今日は太陽を浴びたくて外へ飛び出した。混んでいるところは行きたくない。広々としたところ、遮るものがなく空が見えるところ、そう思って向かったのは羽田空港の近く。

ANAやJALなどの飛行機が駐機しているところをフェンス越しに眺めながら
「いろんな国に行ったな。飛行機に乗る時はいつもワクワクしたなあ。いつまた飛行機に乗れるのかな・・・」そんなことを思いながら、ひとりの世界に浸っていたら、突然背後から男性の声がした
「すみません。ここが一番よく見える場所なんですか? この辺り、初めて来たもんで」
一瞬にして人のいる世界に引き戻された。車の通る音が耳に戻ってきた。
「そうですね、近くには見えますよ。あそこにあるイノベーションセンターの屋上に行けば少し上から見えますよ」

その男性が遠ざかるのを見届けた。
「一番よく見える場所って言ってたけど、何が見たかったんだろう?
飛行機? 飛行機が飛び立つところ?
滑走路? 空港の建物? 滑走路の向こうに見えるスカイツリー?」

こういうことってよくあるんだろうな。
とっさの質問に対して、相手が求めていることを冷静に探る前に、反射的に自分の思い込みや自分の視点で答えてしまうこと。
私にとって「よく見える場所」で見たいのは、駐機している飛行機だったのだけど、あの男性は自分が求めるものを「一番よく見る」ことができただろうか?
求めたものがなんであれ、よく見えたか、あまりよく見えなかったか、彼の出した答えはもう私には関係ないこと。感じ方はそれぞれだから。

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