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夫の育休、実際やってみてどうでした?【臼井隆志さんにインタビュー】後編

前編はこちらから。

後編では、「実際育休とって、どうだった?」「育休で得た気づきを今後どう活かしたい?」というところを具体的に伺っていきます。“赤ちゃんの「げっぷ」は、実は◯◯の練習に…?”など、赤ちゃんの専門家ならではの育休エピソードや、“育休を社員研修として推進したい”というワークショップデザイナーとしての提案も。“実は子どもが苦手だった”という話も登場して……? 臼井さんの多面的なお話を、どうぞごゆるりとお楽しみください。

長いですが、カフェの一角での会話を聞いているような感覚で、お茶でも片手にのんびりとどうぞ。

■ 育休は、「最高だけど、疲れる」

ぽ:育休をとられてみて、実際どうでしたか? まずは、ひとことでいうと。

臼井:うーん。「疲れる」ですかね(笑)。

ぽ:(笑)

臼井:いや、なんかね。それしか出てこないんですよ。だからこそこうやって、第三者に話を聞いてもらいたかったというのもあり。でも、もうすこし正確に言うと、「最高だけど、疲れる」って感じですね。

ぽ:はい、はい。

臼井:毎日娘と遊べるので、それは最高なんですよ。でもね、疲れるんですよね……。行き詰まる、とも言うし。

ぽ:ええ、すっごいわかりますけども。

臼井:つまらないじゃなくて、つまる、つまりまくる(笑)。

ぽ:息もつまってきますよね。永遠にひと息つけないというか、ずーっと、地続きにつづいている感じありますよね……(遠い目)。

臼井:スープ作家の有賀さんが「家事とは、やめることのできないテトリスみたいなものだ」っておっしゃってましたけど、まさにそうで。育児はさらに、高速でブロックが来るから。やってもやっても全然消えない、ブロックが(笑)。

■ 赤ちゃんの発達を、点じゃなく線でとらえられた

↑臼井家の娘さん。日々“筋トレ”にはげんでいるもよう。

ぽ:育休中、「これは育休とったからこそ」と感じたことはありましたか?

臼井:やっぱり、成長を細かく見られることですかね。とくに自分は赤ちゃんのことを学習してきてもいたから。ああ、そうやって学ぶんだねというプロセスを、細かく見られたのはよかったです。

たとえば、これは発達のほうの話ですけど。母乳やミルクを飲み終えたあとに「げっぷ」をさせるじゃないですか、赤ちゃんを肩にかついで。あれって「うつぶせ」の練習なんだな、と思ったんですよ。

ぽ:へえ、あの「げっぷ」体制が。

臼井:赤ちゃんを肩にかついで、胃のあたりが圧迫される体勢って、新生児期にはあの姿勢しか体験しないですよね。もちろん「げっぷ」自体は、(母乳やミルクを飲むときに)飲み込んじゃった空気を抜いてやるためなんですけど、実はそれは「うつぶせ」にむかう伏線になってるんだろうな、と。

あとは、うんちを出すときに「ふんっ!」って腹圧をかけるじゃないですか。あれも実は、「足をあげる」っていうことの練習になっていて。というのも、足がまわらないと最終的に「寝返り」できないんですよ。最初に足が回れば、あとは上半身ついてこさせるだけなので。

……というのを、知識としては知っていたけれど。うんちで気張るときに、「ふっ!」って腹圧をかけて足をあげているのを見て、これ、ただ気張ってるだけじゃないなと。

ぽ:筋力トレーニングですね。

臼井:そう、筋トレなんだなあと。「げっぷ」とか「うんち」が、運動の発達にめっちゃ影響してるな、みたいな細かな気づきは、育休をとっていなかったらわからなかったですね。

ぽ:たしかに。育休をとっていなくても、成長を「点」でみることはできると思うんですけど、行動の因果というか、その解像度では見られないですよね。たぶん、「寝返りできるようになったんだね」で終わる。

臼井:そうそう。どういうプロセスで発達するかはもともと知っていたけれど、何が伏線になってそれが起こっていくのか、高い解像度で観察できるっていうのは、観察オタクとしては最高の幸せです(笑)。

■ 笑いや泣きの感情は「文脈」でとらえる

臼井:育休中にもうひとつおもしろいと思ったのは、赤ちゃんの泣き方のバリエーションがすごく見えること。「本気泣き」と、「適当泣き」みたいなのがあるじゃないですか。要望としての泣き方とか。

眠れなくて泣いているのか、お腹がすいて泣いているのか、何なのかを、その日につけた授乳記録とか見ながら考えてみたりして。「おっぱい飲んだばっかりだから今は少し、ほっといてもよし!」とか、「うーん、これはなんの泣きだろうね、わかんないね」って、あれこれ試してみたりとか。

一方で、笑いが起こるパターンもわかってきますよね。一日の中の「機嫌のいいタイミング」で笑いが起こりやすいとか。そして機嫌をよくするためには、よく寝かせて、授乳をしっかりし、いっぱい遊ぶ。すると、笑顔が出やすくなる。そんな文脈がわかってくる。

ぽ:すごい、母の視点ですね……。

臼井:そう、一般的にもお母さんは、わかるらしいんですよ。それまでの文脈で、いまはきっとこれで泣いているのかなとか。でもほんとうはそこに男女は関係なくて、ただそれまでの文脈を把握していたり、普段のバリエーションをどれだけ把握しているか、ということだけなんですけど。

ぽ:長い時間を地続きで見ているからこそ、わかってくる。

臼井:そうそう。それで文脈がわかっていれば、ある程度は予測できるんですよね。あとは、寝かしつけも文脈づくりの話だなと。

最初の3ヵ月くらいまで、ほんとうに寝かしつけが大変だったんです。もう何やっても寝ないし、すぐ泣くし、「背中スイッチ」とかあるし。(寝たと思ってベッドに置いたら起きちゃって)“ちくしょー!”みたいな(笑)。

ぽ:(笑)

臼井:最初は、寝かせ方のパターンがわからなかったんですよね。でも後日、いわゆる「ネントレ(ねんねトレーニング)」の本を読んで、ああ、これも文脈づくりだと。

機嫌のいいときに思いっきり遊び、寝かせるタイミングを見計らうことと、あとは自分で寝ることを覚えてもらうこと。抱っこじゃないと寝ないのは、抱っこじゃないと寝かせていないからであると。

うちの娘もあるとき、観念したのか、ハイローチェアの上で寝たんです。そこから少しずつ、指しゃぶりをしながら、自分で寝るようになって。情動調律と呼ぶんですけど、彼女の場合は指しゃぶりで感情を調整しながら寝るっていうことを学習したんですよね。

だからまとめてみると、母乳やミルクを飲むのも、排泄も、睡眠も、運動の発達と地続きなんだなということと、それぞれの要素のバランスやタイミングによって「泣き」や「笑い」の変化が生まれていくんだな、と。そういう赤ちゃんの発達の全体像を、よくつかめたというのが大きかったですねー。

ぽ:全体像は確かに、長時間つきそっているからこそわかるものかもしれないですね。そして、臼井さんのもともとの知識と視点があったからこそのお話でした。

臼井:赤ちゃんの仕事していてよかったな、と思いました。

■ 無駄をはぶき、「時間を生む」思考が身についた

ぽ:育休中、予期していなかった意外な収穫ってありましたか?

臼井:それでいうと、洗濯乾燥機を買ったんですよ。あとは炊飯器を、早く炊けるのに替えたとか(笑)。

ぽ:あ、うちも食洗機買いました(笑)。

臼井:あ、食洗機もいまちょっと考えてます。

ぽ:食洗機、革命でした……。

臼井:ですよね。そう、洗濯乾燥機も革命だったんですよ。なんというか、投資の考え方を身につけましたよね。自分の時間をどうやって増やすかという意味で。コスト支払って解決できることはそれで処理する、という。

ぽ:わかります……。

臼井:「何をやらないのかを決める力」が、気づいたらすごく身についていたんです。ことあるごとに、「これ無駄だからやめない?」とか、「もうやめよう!これは」と言うようになって。

何に時間を使いたいかって、そりゃ娘と遊びたいし、散歩に行きたいし、そのほうが親も娘も楽しい。ならば、「ごめんね、いま洗濯物ほしてるから」とか「食器洗ってるからね」って、やらない方法がすでにあるなら、やらなくてもよくない?と。

その時間で娘と遊んだり、昼寝して体調を整えたり、自分の仕事のために使ったりしたほうがよっぽどいい。これは育休とって最初の1ヵ月で、徐々に気づいていきましたね。

ぼく実は、1度育休をとったあとに、1回仕事復帰してるんですよ。娘が生まれてから最初の2ヵ月育休をとって、そのあとの1ヵ月強は職場復帰。でも妻の母乳トラブルなどがあり、やっぱり身近でサポートしたいと思ってまたすぐ育休に戻ったんです。育休って2回にわけてとれるので。

それで、1回目の育休から職場復帰していた期間に、仲間がやってる仕事をみて、びっくりするくらい視点が変わったことに気づいて。「これとこれとこれとこれはもうやめよう、無駄だから。それでここに集中しよう、一番大事なのはこれだから!」みたいなことが、パン!と見抜けるようになっていた。

ぽ:選択と集中。

臼井:そうそう。

ぽ:それはさっきの切り捨て力みたいな、「何をやらないか」見極める目が養われたからと。

臼:そう。自分でもびっくりしました。あれ?!世界が違って見える、と。「無駄を省くことで、時間が生まれる」ということに、実感を伴って気づいたことは、すごい収穫でした。

よく、家族も“経営”するといいますけど、ほんとうにそうだなと。長期的にうまく経営するために、無駄をはぶいてコスパで処理しよう!みたいな。

ぽ:ではこれから離乳食の時期なので、ほんと食洗機はおすすめです……。

臼井:あ、そうですよねー。

ぽ:ちなみに我が家は1歳過ぎてから買ったんですけど、あと半年早く買っておけば家庭内平和がどれだけ保たれたか……と何度思ったことか(笑)。

臼:あ、じゃあ買お(笑)。

■ こんな“夫”には、「育休」いいよ、っておすすめしたい

ぽ:ずばり「夫の育休」、おすすめしたいですか?

臼井:おすすめしたいです。

ぽ:ただ、まだまだ一般的には、男性が育休をとることが「選択肢にすらなかなかあがらない」気がします。迷っているフェーズというより、夫は働き続けるというのを「前提」にしている家庭のほうが、男女とも多い。

臼井:そうだと思いますね。

ぽ:それって、まずどうしてなのかと、そもそも変えるべきなのか、もし変えるべきだとしたらどうしたらいいのか、伺ってみたいです。

臼井:そうですねえ。「絶対とるべき」とは思っていなくて。まず、育休をとらない理由も、何段階かに分かれていると思うんですよ。

そもそも、「育休の制度を知らない」という層。その次に、「必然性を知らない」というか、自分の中でとろうという動機がなくて「べつにとらなくてよくない?」と思っている層。たぶん、これが一番多くて、半分以上なのかなと想像してます。

それから残りの半分弱くらいで、「育休、とったほうがなんとなくよさそう」くらいに思っている層がいるとして、そのうちのほとんどが「でも会社が……」だと思うんですよ。とってみたいけど、とりたいって言い出せないとか。シフトが回らなくなるとかね。

その中でまず「育休の制度を知らない」ひとに対しては、厚生労働省がんばってください、と思いますし。「必然性がない」と思うひとについても、それで奥さんと関係が悪化しない感じなら、それでいいと思います。「ワンオペでいいからあんた稼ぎに行っといで!」みたいな奥さんもいるでしょうし、それは、そういう家族で。全然OKだと思うんです。

でも実は「奥さんは夫に育休をとってほしい。一緒に子育てがしたいと思っている」状態で、かつ夫の会社側も「とりたいなら取ってみれば?」と比較的前向きにもかかわらず、夫自身がいまいち踏ん切りつかずに「でもなあ……」って思っている状況もあるかもしれないから。

そういうひとには、とってほしいって言いたいですね。

■ 子どもへの苦手意識を「ほぐす」役割を担いたい

ぽ:その「でもなあ……」は、前編で話していたような「キャリアが……」のような迷いでしょうか。

臼井:それもありますし、あともうひとつ。「自分は育児ができない」と思っている男性って意外と多いと思うんですよ。ぼくもオムツ替えとか、最初びびってましたたし。「え、うんちついた……」みたいな(笑)。

やっぱり奥さんのほうは、母としての必然性があるというか、やらないと命にかかわるという危機感があるから、「やるしかない!」という感じでやるんですけど。

ぽ:生まれた命を抱えて、「迷う猶予」がない感じです。

臼井:一方で男性は、“(もう、母親が)やってるしなあ……”みたいな、気持ちなんです。

ぽ:ああ、リアル……!

臼井:そう。“やんなくてもいいかなー? 俺、わかんないしなー?”みたいな、感じなんですよ(笑)。

ぽ:なるほど(笑)。

臼井:一方でお母さんは、もう、毎日必死にお世話している。そんなとき、横でただ見てるやつがいる。「なんでやんないの!?」みたいな。

ぽ:(笑)

臼井:でも母親側は疲れていて「なんでやらないの」「やってよ」ということばすら出てこないような状態だと思うんですよね。その一方で、具体的にどうしたらいいのかわからなくて「自分は育児ができない」と思っている男性も多いと感じているんです。

この間noteに、自分が『子どもが苦手だった話』を書いたんですけど。でもぼくはその苦手意識を乗り越えてから子育てがはじまったので、いい状況を与えてもらってるな、と。たぶんかつてのぼくみたいに、子どもに対する苦手意識を抱えたまま、父親や母親になっているひともたくさんいると思っていて。

自分も苦手意識を持っていた身として、そこをどうほぐせるのかなあっていうのが、ぼくの思いですね。『赤ちゃんの気持ち』を書いたのも、まさにそういう動機で。「子どもって、ちょっと見方を変えて理屈っぽくとらえてみたら、おもしろくない?」って。そういう提案はしていきたいです。

ぽ:理屈っぽく。

臼井:一般的には、赤ちゃんは愛情を注ぐべき存在で大事、と言われる。それはそうなんですが、だからといって、じゃあたとえば、必ず抱っこで寝かしつけてあげるのが愛情で、そうするべき……とは限らない。

赤ちゃんは、学習をします。もちろん「抱っこで寝ると気持ちいい」というのを学習していると、いきなりベッドに寝かされたら、最初はぎゃあぎゃあ泣きながら寝る。でも、「寝るってこういうものだ」と思ったら、だんだんと効率よく寝ることを学習していく。親のほうも、赤ちゃんをそういうものとして見ると、ちょっと楽になりません? そういうしくみなんだ、って。

ぽ:わかる気がします。おもしろいですよね。観察してると。

臼:人間の認知のしくみを知るとおもしろい、みたいな感じで。「赤ちゃんのしくみおもしろくない?」と。そういう視点を持てると、すこしほぐれるかなあ、とは思いますね。……ああ、なんか話していて少しずつ、はっきりしてきました、ぼくの中で。

■ 問題にもならない、グレーな何か

ぽ:さっきの「旦那さんの育休を奥さんは望んでいて、会社も許容してくれる雰囲気だけど、でもなあ……(育児とかよくわかんないしなあ)と迷っている夫さんたちに対して、臼井さんならなんて声をかけますか?

臼:それはすごく、自分の中で大きな問題意識としてあって。実際、子どもと疎遠になっても暮らせるじゃないですか、全然。子どもってなんとなく苦手だなと思っているおとなはたくさんいますし……僕もそうだったから。でも自分の子どもはほしい、みたいな。

そういう、「子どもはほしいけど、子どもが苦手で不安」という漠然とした気持ちを、しっかりほぐしてから子育てしたほうがいいんじゃないかなと。

気づいたら子どもが「わからないもの」になってしまっていて、それで自分を責めているひともいると思うんですよ。それでなんとなく「育児参加しないでいいや」「こんなもんでいいや」と距離をとってしまうケースは、意外とあると思っていて。

だからその回復、みたいなのがテーマかもしれない。そこを、ぼく自身いますごく探っている感じです。明るみに出ない問題というか、“問題にもならないグレーな何か”なんです。

ぽ:ご自身も苦手意識を抱えていたからこそ。

臼井:はい。“子どもって、かわいいよね”と、反射的にはみな言うけれど。その中にはたぶん、閉じ込めたいろんな感情――子ども自体や、自分が子育てすることに対する、怯えや怖さや不安がたくさんあるうえで、見て見ぬふりをしているひともいるような気がして。

でも子育てしようと決めたなら、そこを見ないふりしなくても大丈夫だよ、と言いたいんです。しっかり見ても、「こういう解きほぐし方あるよ」って、言ってあげられるようになりたいですね。

ぽ:育休が、その「解きほぐし」のための期間にもなる……?

臼井:たぶん「育休をとればいい」のではなくて、「育休の中でどう過ごすか」なんですよね、大事なのは。

だからきっと、赤ちゃんを観察する目とか、自分のやっている家事を合理化する手段とか、育児を楽しくやれるような世界観があるんだ、と知ってもらうだけでも、いいのかもしれません。

■ 正解はない。でも夫婦の「最適解」はあるかもしれない

ぽ:子育てって、正解がないですよね。だから今回の取材に向かおうと決めたときもひとつだけ、「世の男性よ、育休をとれ!それが正義だ!」というまとめ方はしないようにしたいな、と思っていて。

結局は、夫婦の関係性というか、「パートナーと話し合って決めたらいいよね」っていうところに行き着くのかなあとは思いつつ、わたしもまだ見えていなくて。……どこへ行き着くのでしょうか(笑)?

臼:いや、わかります。正解がない。でも「自分たちにとっての最適解」はあるかもしれないから、自分たちなりに探っているんですよね、もうみなさんも。でも、「これでいいのかな」という不安が常につきまとう。

だからやっぱり、子育てについての悩みとか、家事育児の悩み、パートナーシップ問題に関する悩みをシェアするというのがすごく大事なことだと思うんです。そういう各家庭の悩みに対して、ここで回答はできないですし。

だけど、「探り方」のひとつは、提示できるかもね?と。ぼくの家庭もそうだし、ぽこねんさんの家庭でもこういうふうに探っている、というような話は、言えるのかもしれないですよね。

ぽ:こんな事例もある、こんな事例もある…みたいな事例提示を、どんどん増やしていきたいですね。それが「じゃあ我が家はどうする?」と話すきっかけになって、みんな我が家なりの最適解を探っていける、みたいなのが理想なのかな……と、いまお話していて思いました。

臼:そうそう、そう思います。うちのモデルと、ぽこねんさんちのモデルは、違うモデルだけど、それぞれ、「ワンオペ」とはちがう。

もちろん、母親側に負荷が高くかかってしまうということもあるが、夫が育児を担ったり家事を分担したりして、いかに母親の工数をさげるかということはやっているから。スタイルは違うけれど。それは、お互いの家族の最適解を探りつつやっていることだから。それでいいと思うんですよね。

会社にしばりつけるということ自体が、もう、ガタガタきてる時代でもあるから。そういう新しい事例をどんどんシェアしていきたいですよね。

ぽ:そうですね。きっとほかにも斬新な「最適解」を実践してる方、たくさんいらっしゃるんだろうな、と思います。

■ 育休を“社員研修”ととらえて推進したい

ぽ:そういえばnote書き初め(『2019年にやりたい10のこと』)で、育休環境の仕事をつくる、という話を書かれていたと思うんですけど。

そこに書かれていた“育休を「学習機会」であると定義して、社員研修として育休を斡旋する”という話もちょっとお聞きしてみたくて。

臼:そうそう。さっきお話したとおり、ぼくは育休で、人間がどのように学習していくのかというプロセスを学ぶことができると思っているんですね。人間の感情・運動という両方の面を、地続きに全体像としてつかむことができる、と。

つまり育休を通して、「観察し、知る、考える、言語化する」というサイクルがどんどん、自分の中に蓄積されていくんです。それがまず学びのひとつ。

それから、もうひとつの学びが「合理化」。無駄をなくし、選択と集中をするっていう練習になるんですよ。

ぽ:「切り捨て力」の話ですね。

臼井:一般的な会社員の場合、自分の権限だけである範囲をさばいていく経験はあまりないと思うんです。最終的には上司の決定にしたがってやることがほとんどだと思うので。

でも家は、自分たちがCEOなわけです。だから経営者目線を家で学び、仕事に復帰すると、むしろ「社長が何を考えているか」を考えながら働くというスケール感も身につくかもしれない。そういった考え方のもと、社長が、「育休とっておいで」と背中を押してほしいですよね。

ほら、企業って他の組織に出向に出したりするじゃないですか。育休も、自宅に出向なんです。実際、ぼくも1回目の育休を1ヵ月半終えて職場復帰したとき、別の会社にインターンしてたような感覚でした。あれ?インターン先で学んだことが、我が社では全然いかされてないじゃないかって(笑)。

ぽ:たしかに、学びの連続ですよね……。

臼:ほんとうに、学習そのものですよね。だからそこで、学習する意欲や気持ちがくじけないように、同時期に育休をとっているひとたちを集めて、お互いのことをシェアするしくみもつくりたくて。ピアメンタリングと呼ぶんですけど。

そんなしくみを、育休を推奨する社長がいる、複数の企業で取り入れて、「同時期に育休をとったひとと会社を越えてコミュニケーションがとれる」という設計がしてみたいですね。

ぽ:おもしろそう……!

臼:よくないですか? あ、そっちの会社ではそんな雰囲気なんだ、とお互いにわかるし。社長は他のひとから聞かれたときに「あ、あのひとは自宅に出向行ってるだけだから」と言うような企業文化。

ぽ:そうなると「楽しい」ですね。

臼:そう。赤ちゃんのことについてはぼくもワークショップをできますし、必要に応じて専門家を呼ぶこともできます。一方で実用的な、たとえばオムツ交換にまつわる知識あれこれなどは、従来よりも楽しいコンテンツで「充実した母親学級・両親学級」を用意したりして。

育休を企業側が斡旋し、「(育児という現場に)出向してパワーアップして帰ってくる」っていうストーリーを想像させたうえで、男性も育休に送り出してあげる。育休期間は、半年以内でもいいと思うんです。半年以上になると給付金が減額する背景もあるので。

そういうサポート体制をつくれると、会社への信頼も増す。だから育休中に育児や副業でスキルアップしたうえでも、またそこで働こうと思える。これ、絶対やったほうがいいんだけどなあ、と思っているんです。

ぽ:スキルアップした上でもその会社に戻りたい、という信頼関係を築けるのは最高ですね。

臼:そうそう。いまは、転職か窓際族か、みたいな悲しい二択だから、それじゃどちらにとってもメリットがない。それを、どちらにもメリットのある形に変えていきたいですよね。こういう体制づくりは、もう、話がきたらすぐいけますよ!

ぽ:募集中、ってさらっと書いておきましょうか。

<「男性の育休推進に楽しく取り組みたい!」企業を募集中>
上記のような内容をもとに、「企業側・社員側の双方にメリットのある育休推進プロジェクト」を臼井さんと設計してみたい!とご興味をもたれた企業の方がいらっしゃいましたら、臼井さんのtwitterDMまで。

■ noteで生まれるつながりも、育児の「ケア」になる

ぽ:さきほど、悩みをシェアするピアメンタリングの話がありましたね。そういうプレパパ・プレママ向けのコミュニティは、どこかでもう企画されているのですか?

臼井:まだですが、それこそnoteでもやりたいですよね。やっぱり「書く」とか「語る」は、自分の中のもやもやしたものを明らかにする作業だと思うので。それをみんなでやるって、ケアだと思うんですよ。

たとえば「育児系まとめ」マガジンの記事をみんなで読み合ったり、自分のモヤモヤを文章で書きあったりするのも、すごくケアだと思うので。そういう取り組みはやってみたいですね。

ぽ:ケア……ほんとうにそうですよね。わたし、もしnoteがなかったら、育児で鬱になっていたような気がします。noteがあることで気持ちが救われているというか。

臼:ああ、ぼくもけっこうそれは思っていて。去年の12月に開催されたnote酒場で、ぼくは子どもが遊べる『エクストリームお米砂場』をつくっていたんですけど。そこで、ママたちがすごく楽しそうに話してて。

子どもたちが夢中になって遊んでくれるから、あの場では(子どもについてだけではなく)自分たちの話ができていたんだと思うんですよ。その場でnoteやtwitterのアカウントを交換していたりして。

そうするとお互いにスキしたりするようになる。スキやいいねの数って少しケアになったりもするから。「こういう場じゃない?」と思いました。社会のボトムアップの、ひとつの図としては。noteのやさしい世界観が、そういう場をつくるなと思ったので、“合うー!”と思いました(笑)。

ぽ:なんというか、リアルの場でもそうですけど、子どもとふたりきりだと全然笑えなくてしんどいことが、そこに誰かいるだけで笑えることってあるじゃないですか。例えばうんち漏らしたりとか。ひとりだと「もう、イヤ!!」って爆発してしまうところ、誰かいるだけで、爆笑して終わり、になるとか。

それをたぶん、noteでも感じていて。たとえば食事のたびに食器投げ飛ばされていた時期とか、残飯掃除にうんざりしてましたけど。そういうときも「ああもうやだ」って床ごしごし拭きながら、同時に「でもネタになる」って脳内で唱えられるようになったのが、すごく救いになっているというか。

オンラインだけれど「ひとりじゃない感」があると、何が起きてもコンテンツになるから、そういう意味ですごく、育児中にnoteに救われているなあと。

臼井:なるほど。それ、『#noteが書きたくなるワークショップ』でも近い話をしているんですけど、noteを書くようになると自分の暮らしの中でネタを探すようになるじゃないですか。

それは「俯瞰してみる」ことだし、「自分自身の編集者になる」ことだと思う。自分が著者だとして、このひとに何を書かせたらおもしろいかなって、編集者目線で考えている自分がいて。ちょっと守護霊みたいな、俯瞰している自分がいると、「この状況、笑いともとれるんじゃない?」と思えたり。

ぽ:そうそう。俯瞰してみると笑えるんですよね……。

臼井:そういう人格をインターネットが作ってくれるのは、使い方によって、すごくひとを救うと思う。もちろん、中毒になると怖いからそこは気をつけたいですけれど。でもnoteは、バズの中毒性みたいなものに陥らずに、淡々と続けていくひとを増やしているから、そこがさらに好き、みたいな。……いや、「noteいいな」って話で終わりましたね(笑)。

ぽ:あ、ほんとですね。そこで終わっちゃいました(笑)。

臼:でも、ほんと、そういうのやりたいです。プレパパ・プレママ向けに、形のない不安を書く、みたいなワークショップ。

ぽ:それでそのワークショップを機に、プレパパ・プレママの状態から、ゆるくコミュニティがあって……その後もnoteを介してつながって。それってもう全然、育児に向かう気持ちが違いますよね。

臼:違いますよね。インターネットのいいところ。いまはオンラインのほうが、趣味嗜好があうひととつながりやすいから。趣味縁でつながっている人格をきちんと持てるのは大切だし、あとはオンラインだとそんなに距離が近すぎないというのも、いいですよね。

ぽ:ですね。ぜひ企画してください。

臼:やってみたいですね。

■ おわりに

興味本位でお話を伺いに行ったわたしの質問に、臼井さんはとても気さくに、そしてていねいに答えてくださった。

そもそも育児中とはいえ、会社員として育休を取得した経験のないわたし。制度について十分な下調べもせず、いま思えば恥ずかしいほどの情報量であの場にのぞんだものだ。

だから自分の「育休」に対する理解は世の中の「育児中当事者」の一般レベルにはまったく達していなかったと思うけれど、逆にいえば、当事者ではない方々の感覚にはある程度近かったのではないか、と思ってもいる。

会社に育休の制度がなくとも、申し出れば男性も育休を取得することができる。それは法律で定められた事実なのだけれど、自ら興味をもって調べた先にひっそりとある事実で、一般的にはまだまだ認知されていない。法律のとおりに動けば「ずるい」「やる気がない」と後ろ指がさされる環境が、少なくとも一部では事実として、ある。

家族のかたちはそれぞれだ。「夫の育休取得」が万人への正解だとは思わない。けれど「夫の育休をとろう」という選択をした家族が、その選択をストレスなく、できれば楽しく、実行できる体制があるといい。そんな魅力的な体制をつくる会社自体の発展にもつながるといい。そして育児の当事者ではない社員も、その恩恵を受けられるようになるといい。

臼井さんの「育児は社員研修」構想を伺いながら、ぼんやりとそんなことを思っていた。

もちろん臼井さんも言っていたとおり、「育休をとればいい」という話ではないのだろう。もっとも大切なのは「育休中にどう過ごすか」。育休取得の制度がハードなら、その過ごし方はソフトだ。そしてその「ソフト面」を形づくる活動に、これから臼井さんはチャレンジしてゆくのだと思う。

おそらく、「ソフト面」で扱われる内容はきっとどれもが、育休の取得有無にかかわらず、産後の夫婦のパートナーシップを支えるたいせつな手がかりになるのではないだろうか。「育休」というのはわかりやすいキーワードだけれど、たぶんもっとも大切なことは、そこではないような気がした。

まだまだ我が家も、日々衝突を繰り返しながら「我が家なりの最適解」を模索しつづけている。臼井さんのこれから発信してゆく夫婦のパートナーシップのあり方にとても興味があるし、とても楽しみだ。きっとnoteのなかにも、それを待っているひとがたくさんいる。

profile:
臼井隆志(うすい・たかし)
1987年東京都生まれ。質的調査およびワークショップ・デザインを専門とし、0歳から18歳までの子ども・親子を対象としたサービスの開発に携わっている。noteでは、発達心理学や認知科学をベースにした「赤ちゃんの探索」マガジンを連載中。その他、子育て家庭のライフスタイルと住宅の間取りについての調査を実施している。2018年7月より、1児の父。

▼ 臼井さんのnoteやtwitterアカウント、執筆書籍はこちらから。

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インタビューは以上です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!もし読めてよかった、コーヒー1杯くらいおごってやるか〜、なんて思ってくださった方がいらしたら、サポート&おすすめで応援いただけるととても嬉しいです。いただいたサポートは今回の取材の航空券代に充当させていただきます。

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