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人材採用エピソードと組織のその後 1 試験とジャンケン

「人は城」と信玄は言った。
採用に関わる姿勢から、組織の将来の盛衰が予見できる──とはいえ、多くは後から振り返って初めて、《そういえば、こんなことが》、とうなずくのだが。

日本の大学の多くではかつて、企業から工学部卒業者への求人は、学科事務室を介して行われていた。
以下は、私が学部4年の時のエピソードである。

ある業界で、当時常に売り上げトップを争っていた2社から、学科にそれぞれ3人ずつの求人依頼が来て、掲示板に張り出された。
本社や工場が首都圏にあるA社には、そこそこ優秀な学生が4人、手を挙げた。一方、就職で「都落ち」しなくてはならないB社には、あまり出来の良くない学生が3人応募した。

A社からは、応募者数を知らせてきた学科に対し、
そちらで3人に絞ってください
と言ってきた。
もちろん、この時点では、志望学生に会っていないし、おそらく名前すら聞いていない。
事務長はA社志望の4人を呼んで、《ジャンケン》で決めるように言った。
私は、たまたまその現場に居合わせ、事務室前廊下でのジャンケン光景を目撃している。
3/4の確率で人気企業に入社できる、人生の岐路である──どの顔も真剣だった。
勝った3人は小躍りして喜び、事務長に報告に行った。廊下に残されたひとりは、がっくり肩を落としていた。

B社への志望は3人なので、これで決まり、のはずだった
しかし、彼らは本社に呼ばれ、面接と筆記試験を受けさせられた。
《型通り》の試験、と余裕で臨んだ3人のうち、1人が落とされ、入社は2人に減った
「B社はけしからん! 3人の枠に3人応募したのに、どうして落とすんだ!」
事務長が顔を真っ赤にして怒った、との噂が学科を駆け巡った。


それから年月が流れた。
高い技術力を誇っていたA社は、経営と組合との対立や販売不振で経営危機に陥り、長期低迷が続いている。
一方のB社は堅実経営で右肩上がりの成長を続けている。


もちろん、これは、巨大な「全体」に対して、個人的にたまたま見聞した、一部の「切り取り」に過ぎない。
しかし、わずかな血液から、血糖値や中性脂肪、肝臓の調子などがわかるように、「一部」とはいえ、人材採用に関わる姿勢には、組織の「体質」が表れるのだろう


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