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肩こり持ちの14歳が28歳で整体師になって開業するまでの話。#5

2016年。28歳になる年の2月のことでした。

私は約5年勤めた調剤薬局を辞め、転職することを決意します。

内定のないまま大学を卒業してしまった何の取り柄もない私を、雇ってくれた会社でした。

経営者だけは苦手だったけど、他の事務スタッフはみんな、仕事のできるいい人たちばかりでした。

1番長く一緒に仕事をした薬剤師のWさんはかなりクセの強い人でしたが、仕事の早さと正確さはダントツで、薬剤の知識から仕事のやり方、考え方に至るまで、たくさんのことを教えてくれました。

人員不足の中で、毎日毎日休憩時間を削って、みんなギリギリで仕事をしていました。

……今私が辞めたら、この人たちにとんでもない迷惑をかけてしまう。

それでも、もう限界でした。



「転職、しようと思うんです。」


その日最後の配達から戻る車の中で、薬剤師のWさんに話しました。

あー。そうですかー。

反応は、いつもの飄々とした物言いでした。
2月の夕暮れ時もすぎて、辺りはすでに真っ暗になっていました。

いつ頃辞めたら、迷惑にならないですかね。
そう呟いて、信号が青に変わって車が動き出すと、Wさんが話し始めました。


……私も転職してるクチなので言うんですけどね。


「あのー、いつ辞めても迷惑がかかるんで。だから、いつ辞めてもいいんですよ。」

辞めた後のことは、あとの人がなんとかするんで。だから、

「あのー、大丈夫なんです。(笑)」


自分本位に生きていいんですよ。



この時の言葉に救われました。

『整体師だったらやっていけるかもしれない』と思った14歳の時の気持ちを、もう一度追いかけてみようと思ったこと。

手に職を持って、生きていきたいと思ったこと。

学ぶことが楽しいと思えたこと。

泣きそうになるのを必死で隠してぽつぽつと伝えると、Wさんは自分の高校時代にお世話になったカナイ先生の話をしてくれました。


カナイ先生は、定年間近のおじいちゃん先生だけど、とても面白い人だったこと。

クラスメートの誰かが『先生、頭、ハゲてます』とふざけて言うと、自分の頭を触って
『そうだがなー!!』と笑い飛ばす人だったそうで。

生徒は面白がっていつもからかっていたけれど、カナイ先生は、定年退職と同時に大学に入り直すことを決めていたそうです。
それは、Wさんたちが卒業するのと同じ年だったそうです。

来月からお前らと同級生だなぁ。と笑う先生には、一生かなわないと思ったとWさんは言いました。



……いつもは「月刊 ムー」のことと、「新興宗教を立ち上げるならどうやってお布施を稼ぐか」という話しかしないくせに。

こういう時にちゃんと励ましてくれるのは卑怯だ!と思いながら、カナイ先生の『そうだがなー!!』の口調を真似するWさんに笑い泣きしながら帰りました。


それから2ヶ月後。
私は高崎の整体サロンで働けることになったのでした。

次回へ続きます。

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