読書感想文①:『書額堂奇譚』 宮田 秩早さん著
すごく、面白かった…!
宮田さんの作品で今まで読んだ事があるのがコメディ色のあるものばかりだったので(フリペとかフリペの再録集とか)、そういう作風の人だと思ってました。
が、私は断然シリアス路線の本作の方が好きでした!
間に挟まるちょっとした笑いのシーンも、シリアスな展開に対してちょうど良い塩梅になっていたと思います。
1話が6ページほどと短いので、隙間時間にも読みやすい作品でした。
本作は中華風吸血鬼の短編集といった感じです。
でも出てくる主要人物は毎度同じで、時系列がバラバラに配置されていて、一人称視点で昔と近代を行ったり来たりして話が進んでいきます。
主人公は書額堂という、王朝の歴史を書き記している部署で、書史として働いている人外(吸血鬼)の男性です。
不老不死の体で、いくつもの王朝の歴史を淡々と記していくお話なので、どこか達観していてお話も淡々と進んでいくのかな~と最初は思っていました。
ですが、初めはすらりと読んでいた歴史の一幕が、話が進むにつれて徐々にその裏側が分かるようになり、キャラ達への思い入れが深くなっていきます。
私の印象では、作者はキャラクター個人への愛というよりかは、そのキャラを形作った境遇や生い立ち含めての知識を語るのが好きな方なんだろうか?というふうに感じました。
ファンタジージャンルでは、結構珍しい傾向な気がしています。
というのも、キャラに思い入れが深い作品は展開をドラマチックにしたり、インパクトのある台詞をそのキャラに言わせようとする人が多いのじゃないかと思っていて、特にファンタジージャンルは生死がかかった話を書きやすいので、なおさらそういう所に力を入れて表現しようとする作者が多いのじゃないかと思っています。
が、本作ではその色は薄く感じられました。(時系列バラバラというのもドラマチックに見せたい人はあまりしないと思うし)
ただ、ドラマチックな盛り上がりの起伏が少ない=感動が薄い、ではないと本作で思いました。
実際、作者が自分の作品を客観的に見るってとても難しいので、達観した印象を受ける作品ってそれだけ書くのが難しいのではとも思います。
特に本作は、一人称視点で語っているにも関わらず達観した印象を受けるので、作者として結構ハイレベルな事をしているのじゃないかと。
語り手の語らない余白を想像したくなるような、深みを感じる作品でした。
主要キャラ達の生い立ちはなかなかに複雑で、そんなつらい立場に置かれていて何も感じない筈はないと思うけど、過去を懐古している語り口なのもあり、感情の動きが小さく見えるせいかもしれません。
その雰囲気が、歴史を黙々と書き記している書額堂という舞台と相まって、とても合っていたように感じます。
また心に残っているシーンとして、自分も吸血鬼にしてくれと主人公に頼むキャラがいます。その者に対して、主人公が言う台詞が以下です。
「あなたは人を喰って生き続ける自分を赦してゆかねばならない。人に裁かれるのではない。自分で自分を赦し続けなければならないのだ。それがどんなことなのか、お分かりか?」
自分の身の上について淡々と語っていた主人公が、上記のような事を言うんです。
達観した話だなと思って読んでいたのに、登場人物がただの人形ではないと知れるところが好きでした。
心情については多くを語っていなくとも、人外となって生きていく事が何の苦痛も伴わない訳ではないと分かるシーンで胸にきます。
「吸血鬼」というと西洋ファンタジーのイメージが付きまとうので、その単語を使わずに「鬼魅(きみ)」と表現しているのも良いなぁと思いました。
世界観を壊さないよう言葉の使い方にも工夫がされています。
参考文献について最終ページに記載されているのですが、案の定すごい量でした。勉強しないと書けない話だろうなと感じます。
参考文献を読み漁ってないと書けない空気感ってあると思うんですよ。
その差を実感するのにも、良い作品であったと思います。
「吸血鬼」というと、イケメン侯爵が邸宅に美人を誘い込んで夜な夜な…みたいな勝手なイメージを持っていましたが、この題材って色んな世界観とストーリーで応用が効くものなんだなぁ、という学びになりました。
そこに生きていた人々の強い意志と、静かな感動を得たいという方にオススメの作品です!
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