発売から3年で45万本を売り上げた「366 バースデーフレグランス」 366SKUという異常性の裏にある、絶妙なマーケティング戦略とは
誕生日や記念日などの「日付」から選べる366種のフレグランスを展開するブランド「366(サンロクロク)」。コロナ禍という圧倒的にビハインドなタイミングのデビューにもかかわらず、366種類が並ぶ圧倒的な売り場を作り出しSNSでも話題に。発売わずか3年で45万本を売り上げた。化粧品OEMを展開する会社だからこそできるブランドづくりについて、ブランド統括マネージャーの原田さんに聞きました。ブランドオーナーやマーケッターはもちろん、OEMからの脱却を目指す企業にも注目のインタビューです。
原田亜未/株式会社フランネル ブランド事業統括マネージャー
化粧品OEM会社である株式会社フランネルが展開する3つの自社ブランドすべてを統括。
モノを贈るのではなく「日付を贈る」
- まずはブランドのコンセプトや開発のきっかけなどを教えてください。
誕生日でも記念日でも誰かに物を贈るタイミングってあると思います。そんな時に誰でも1度は経験したことがある「何をプレゼントすればいいかわからない」という悩みを出発点に開発しました。
その中で、何かモノをあげることが果たして大事なことなのか?みたいな議論があり、モノ自体よりも、誕生日なり、記念日なり、ちゃんとその人の大切な日を覚えてるっていうことの方が大事なんじゃないかという考えに至りました。
日本人って、ありがとうやおめでとうって、恥ずかしくて素直に言えなかったりしますが、自分の誕生日の0時ピッタリに「誕生日おめでとう」ってラインが来たら誰でも嬉しいじゃないですか。反対に忘れられていたら、やっぱり悲しい。
なので、その日付っていうところにフィーチャーして、日付を贈るという文化を広げていきたい、モノを贈るのではなく、日付を贈るというのを開発のコンセプトにしました。
- とてもいい話ですね。日付を贈るための商材としてなぜフレグランスになったんですか?
香りって記憶にすごいリンクすると言われていて、香りによって、あの時を思い出すとか、あの人を思い出すとかあるじゃないですか。なので、もらった時の自分の誕生日の香りで、そのシーンが思い浮かぶというか。 そういう記憶のリンクみたいなことから香りがいいよねとなりました。
もう1つは、366種類異なるものを作るのって、なかなか難しい。元々OEMをやっていた自社の強みを活かしてたくさんのバリエーションをつくるとなったときに候補になったのが香りということもありました。
OEM会社ならではの366SKU
- 366種作るって、どうなっているんですか。普通おかしいじゃないですか、366種類って・・・。
香りの構成が366個全く違うというよりは、月のオイル12種類と31種のフレグランスそれぞれを掛け合わせて作ることで366種作れる工夫をしています。
ただそれでも同じことは他社さんでは、多分できないと思います。化粧品って1個とか2個とかいった単位で作るっていうものじゃないんですよ。基本は少なくても1,000個単位とか2,000個単位とか。うちはOEMを手掛けている会社なので、独自のやり方で製造を可能にしているという感じです。在庫に関してもそこまでたくさん持っていなく、ある程度減ったら生産するという形でやっていますし、お店側も1個単位から仕入れられるようにしています。なので他社さんが、これと同じ366種類の違う化粧品を作るっていうのは、なかなか難しいと思います。
コロナ禍で掴んだ「推し活」潮流
- ちなみに、どんなお店に置かれているのですか。
ギフト商材を扱っているところを中心に商品を展開しています。また、一部では、バラエティーショップや、男性にとっては少し分かりにくいかもしれませんがセミセルフのコスメショップなどでも扱ってもらっています。ちなみに自社店舗は持っていません。
※セミセルフコスメショップ:展示されている商品を自由に手に取って試すことができる、コスメのセレクトショップ。必要であればブランドに関わらず接客を受けることができるため、より気軽に自分に合った商品を探すことができる。
- お客さんはどういう方が多いんですか。
お客さんは2パターンで、 1つはギフト。友達や恋人にあげるとか、家族もそうですし、プチギフトの需要。
もう1つは「推し活」している方たち。推しの誕生日を自分で祝うとか、推し活友達へ推しの誕生日をプレゼントしたり。アニメのキャラクターの誕生日も人気があります。推し活って、コロナ禍で一気に盛り上がった感じがします。おしゃれなメディアでも普通に推し活を特集するようになったのがコロナ禍というイメージですね。
- 店頭什器がすごいいいなと思ったんですね。存在感もあるし、足を止めて見たくなる。ただこれだけの場所を確保するのは大変そうだなと。店舗との交渉は苦労されましたか。
最初は、すごい導入ハードルは高かったかなと思います。でも、他にはない商品だったっていうのと、プレスリリースを出した後に某有名WEBメディアさんが取り上げてくださってX(Twitter)でものすごくバズったんですよね。それで知ってもらって、一般の方がツイートしたのがまたバズってという感じで、推し活アイテムとして一気に広がりました。やっぱり推し活需要に最初は助けられました。
その流れを一般の方が作ってくださったことで、ブランド認知が一気に広がって店舗様の、坪効率(売場1坪あたりの売上高。 店舗の生産性を評価する指標のひとつ)を上げていくことが出来たと思います。その数字を持って、また次の導入先にっていって。という感じで広げていくことができました。
売り場インサイトをついた絶妙な価格とデザイン
- プロダクト作りの中で1番こだわられたところはどこですか?
まずはコンセプトである日付が目立つということです。自分の誕生日とか、誰かの記念日をすぐ探せる、すぐ選べる。店頭で366種類を1番見やすくするにはどうすればいいか、というところから全て発想しました。なのでフレグランスにも関わらず香りを確認して買うことができないようにしています。 香りで選ぶのではなくて、あくまで日付で選んでいただくというところがコンセプトなので。
またプロダクトのモチーフには円(エン)を使い「366ブランドのアイテムを通じて、大切な人との縁(エン)を深めてほしい」という願いを込めています。それ以外にも細かいパッケージのデザインもいろんなパターンから検討して決めて行きましたが、まずは、この圧倒的な店頭での見栄えというところを大事にしました。
- 実際に作っていく中で苦労したこと、しんどかったことはありますか。
1番はやっぱり、2,000円という価格にどうやって366SKUを収めるかというところです。どの資材を共通に使うことでコストを下げつつ、何を366種類として見せるのか。 限りなく少ない資材の中でも圧倒的な見栄えを作るところが大変でしたね。
- この2,000円っていう価格設定は大事だったんですか。
そうですね。お客さんは、これ単品でプレゼントはしないという考えで価格を設定しています。これだけというよりも、「お花+366バースデーフレグランス」など何かと一緒に買っていかれることを想定した時に、この価格は重要でした。
一般的にギフトの価格帯って3,000円、5,000円、1万円とよく言われてるんですけど、例えば、他のメインのものを3,000円で既に選んでいて、あともう1個プラスしたいよねっていう時に、2,000円だとプラスオンしても5,000円という価格帯にハマってくる。
また、店頭でバースデーフレグランスが可愛いってなった時にも、あともう1個1,000円くらいの物を合わせて3,000円にするという使い方もしてもらえる。
何より、そうすることで店頭スタッフさんがプラス1点っていう、顧客単価を上げるポイントで売りやすくなると思うんですよね。これって香りがこうですよって説明するんじゃなくて、お友達のお誕生日いつですか、それだったらとか。そうやって売りやすい商品になることを目指しました。
- 確かに2000円、すごい絶妙な価格設定ですね。併売を前提として、お客さんが選びやすい価格とサイズ感、お店も売りやすいコンセプトと価格・・・面白いですね。最後に今後の展望を聞かせてください。
去年までコロナだったので、この秋冬のギフトシーズンが366としてはリアルが盛り上がる初めてのシーズンになります。なのでまずは買える場所を1店舗でも増やしていきたいです。また、国内に限らず、中長期的には海外への展開もしていきたいなと思っています。
あと、母の日や父の日に、自分が生まれた日をプレゼントするような使い方だったり。結婚記念日に普段何にもしてくれない旦那さんが、日付を忘れてないよって買っていくとか。今は366をバースデーフレグランスって言ってるんですけど、誕生日以外のさまざまなタイミングでの使い方を増やしていきたいと思っています。
編集後記
「日付を贈る」というコンセプトを真ん中に、OEM会社だからこそできる366SKUという商品開発、ギフト市場や売り場の店員のインサイトをついた什器・購買体験の設計、2000円という値付け。コンセプトに絶対的にこだわり続けたことで、どこにもないユニークな商品が誕生し、だからこそ推し活という潮流にも支持されたんだなと始終感心しながらお話を伺いました。コンセプトドリブンのお手本のようなブランド開発でさまざまなブランドや企業さんにとって、とても参考になるのではと思いました。
[366]
“366通り、大切な日と人に贈るギフト”366 バースデーフレグランスは『月ごとのオイル12 種』×『日ごとのフレグランス31 種』で構成されている366種類の香水です。1日として同じ香りはなく、記念日や好きなアーティストの誕生日など、特別”が生まれた日の贈り物にピッタリです。
https://366-birthday.com/
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