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ヒーローはやってこない

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第1話 静かな夜

第1話 静かな夜

静かな暗い夜に
鈍く高い音が響く。

何かが破裂したような
何かが落ちたような

そういう音。

静かな夜から一変
あたりは騒然とし、
家々に明かりが灯った。

誰かが通報したのか、
パトカーや救急車のサイレンが
町中に響き渡る。

赤く点滅する街並み。

人が群れるのは時間の問題。

隣で横になる君を見つめる。

目を見開き、一点を見ている。

静かで、全く動こうともしない。

静かな君に言いた

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第2話 嫌いな物

第2話 嫌いな物

眩しい太陽がアスファルトに跳ね返る。

体感では40℃くらいあるだろう。

蝉の声が耳を刺す。

「うるさいなぁ」

僕は夏が嫌いだ。

蒸し暑い屋外
騒々しい虫ども

不快すぎて寝れやしない。

夏という季節で好きなのは
夏休みがあることくらいだ。

学校の面々と顔を合わせなくていい。

アイツらの目は
夏よりも嫌いなんだ。

冷たく、蔑んだ目。

僕がサイコパスなら
1人ずつ目玉をほじくり出し

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第3話 夏休み

第3話 夏休み

(ピンポーン)

夏休み初日。
家のチャイムが鳴った。

家には僕しかいない。

(ピンポーン)

時計を見るとまだ朝の9時だ。

誰だよ。
こんな朝っぱらから。

気持ちよく寝ていた僕は
居留守をかまそうと
もう一度布団に潜る。

(ピンポーン ピンポーン)

「しつこいなぁ」

部屋の窓から玄関を除く。

女の人だ。
しかもよく見た覚えのある女子。

(ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポ

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第4話 眠い

第4話 眠い

夏休み初日。

僕は思わぬ来客に戸惑っていた。

同じクラスの佐藤さんだ。

突然家に来て、
宿題を見せろと家に上がり込んできた。

僕の夏休み引きこもり計画は
たった1日で、たった1人の女子によって
簡単に崩された。

何が目的だ?

友達との罰ゲームか?

佐藤さんはクラスでも人気の女の子だ。

元気で
優しくて
男女隔てなく話す。

男子の中には勘違いしている
人間もいるみたいだ。

でも分

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第5話 非日常

第5話 非日常

夏休みが始まって1週間くらい経った。

僕の平穏な夏休みは
1人の女の子によって崩された。

同じクラスの佐藤さんだ。

夏休みが始まって
1週間が経つというのに
ほぼ毎日僕の家に来る。

毎日朝の9時に家に来て
17時に「また明日」と言って
帰っていく。

1週間も続けていたら日常になるんだな。

いるのが当たり前となっていた中で
今日は9時を過ぎたというのに
なかなか家のチャイムが鳴らない。

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第6話 光

第6話 光

クラスの男子と
同じ状態に成り果てた僕は

君を忘れられないでいた。

昨日も「また明日」と言って帰っていったのに。

実は事故にでも合ってるんじゃないか。

こんな事なら連絡先
交換しておけば良かった。

この気持ちに気づいた僕にとって
佐藤さんは光そのものだった。

頭に生えている物で

バカにされ
いじめられ
距離を置かれてきた。

そんな僕に

学校では声をかけてくれて
休みなのに家まで来

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第7話 今夜空いてる?

第7話 今夜空いてる?

次の日。
君はいつも通りにやって来た。

朝の九時。
チャイムを連続で鳴らして。

いつも通り。

「宿題見せて!!」

と元気に
明るい笑顔でやってきた。

昨日の事はなかったかのように。

いつも通り。

僕がダラダラと過ごす横で
君は宿題をしている。

いつもと違うことといえば
僕が一方的に意識してしまっている。

時折、
じっと見つめてしまう。

頭の中では
連絡先を交換する方法を
考えて

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第8話 天使と悪魔

第8話 天使と悪魔

夜の12時。

君との約束の場所。

指定された場所は
ただの公園だった。

何も無い。
ごく普通の公園。

真っ暗な公園の中、
街灯に照らされている光がいる。

真っ白なワンピースを着ている。

着替えてきたのか。

「あ、こっちこっち!」

笑顔が眩しい。

天使ってこういう人のために
ある言葉なんだと理解した。

集まった2人の男女は
他愛もない雑談をしながら移動した。

「見せたい物がある

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最終話 ヒーローはやってこない

最終話 ヒーローはやってこない

「一緒に来ない?」

華奢な右手を差し出し
君が言った。

戸惑っていた僕は
口を開くことが出来なかった。

僕の前に立っている女の子は
天使なのか悪魔なのか。

夢を見て僕を誘った。

僕を救おうとしてくれているのか。

救う?

一体何から。

あの子も体感した
冷たく、蔑んだ目からだろう。

断る理由がなかった。

僕にとっての光が
手を差し伸べてくれている。

僕は佐藤さんの右手を掴んだ。

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