見出し画像

目指すのは未来の当たり前。川崎からジェンダー観を変える挑戦|PLAYER's File #004

こんにちは!「一緒になってワクワクし、世の中の問題に立ち向かう」プロトタイピングチーム・PLAYERSです。

この連載では、世の中の問題に対して傍観せず、解決に向けて自ら取り組む「PLAYER」が集まった「PLAYERだらけの世界」を目指すわたしたちが、いま活躍中のPLAYERをご紹介していきます。

第4回のPLAYERは、ジェンクロス・カワサキの代表として活動している岡田恵利子さんです。岡田さんは、世代を超えてジェンダー平等や人権について考える場づくりを、神奈川県川崎市から地域密着で取り組んでいます。

今回は、ジェンクロス・カワサキが制作した、カードゲームを通じてジェンダー平等について考える「ジェンダーもやもや発見カード」を使ったワークショップをPLAYERSと共同開催。カードを体験した後に、PLAYERSメンバーの平岡が、岡田さんに貴重なお話をうかがいました。

岡田恵利子(おかだ えりこ)
大学で情報デザインを専攻したのちキヤノンに入社、カメラなどの精密機器や写真関連アプリなどのデザインリサーチ・UI/UXデザインに14年従事し、2018年退社。2019年よりデンマークITUに子連れで交換留学。現在は世代を超えてジェンダー平等や人権について考える場づくりを、川崎から地域密着で取り組む「ジェンクロス・カワサキ」の代表として活動している他、ソーシャルデザインスタジオ・ニアカリの代表として様々なデザインプロジェクトに参画


ジェンクロス・カワサキのはじまり

中央で岡田さんが話し、その右側で平岡が耳を傾けている

平岡:ジェンダーに関する取り組みを始めようと思ったきっかけを教えてください。

岡田:元々ジェンダー平等についてはすごく疎い人生を送っていたんです。
元来働くのが好きな方で、結婚してからも男女平等といったワードには無頓着で、すでに平等な社会だと思い込んでワーカホリックに働いてました。元々、大学も情報系で男性が多い環境でしたし、卒業後も社員の8~9割が男性というメーカーで働いていたので、今思えば「そういうもの」だと思っていたんです。
立ち止まって考えるきっかけになったのは、子どもを産んでから、自分が思い描いていたキャリアとなんか違うぞと気付いた時でした。産休育休を取って職場復帰した際に、今まではプライベートの時間でも積極的にデザイン仕事に関係する勉強をしていたのがそうできなくなってしまったんです。「絶対このプロジェクトは関わりたい」と意気込んでいても、保育園お迎えのためにシフト勤務にしていたので、打合せやディスカッションに100%参加できなくなったり、なかなかアサインしてもらえなくなってきました。
そこで、転職も考えたのですがまた違う視点でデザインを学び直したいと、大学院進学という道を選び、そこから交換留学でデンマークに行く機会を得ました。

平岡:海外に出て衝撃を受けたことは何でしたか?

岡田:一番の衝撃は、周りの声のかけ方が全然違ったことです。
日本では、子連れで留学に行くことを周囲に伝えると、私ではなく夫の方を褒めてくれるんですよね。もちろんその発言に悪気がないのは分かるのですが、私より夫のことを「そんなこと許してくれてすごいね」など褒めたり心配してくれる感じでした。もちろん応援してくれる人の方が多かったですが「そんな無茶なことを」と、ネガティブに言われたこともありました。
それが留学先のデンマークでは全く反応が違いました。「お互いのキャリアを考えて行動できる素敵な関係性だね」とポジティブな反応が大多数で、子連れで留学した経験のある既婚女性の前例をたくさん耳にしましたし、特別なこととして受け止められなかったのが衝撃的でした。
そのとき、日本でキャリアの伸び悩みで苦しんでいたのは「ママだから」という理由ではなく、社会構造のせいだったんだなっていうのに気づいたんです。

平岡:海外に出て、改めてジェンダー格差について意識されたんですね。日本だとジェンダー間の格差は身近すぎて、逆に見えないことが多いですよね。

岡田:もうひとつは名字のことでもジェンダーギャップを感じました。オカダという名字は旧姓なんですが、元々メーカーにいた頃から結婚後もずっとこの名字で仕事をしてきました。オカダ名義でいくつかデザイン賞も頂いていましたし、会社員時代は旧姓の通称利用にそこまで不便を感じていなかったんです。。
しかし、デンマークでは行政のデジタル化が進んでいたこともあり、パスポートのICチップに記録された名義と異なる旧姓は、住民登録も大学のITシステム上も受け入れてもらえなかったのです。「旧姓を通称で利用する」という概念を何度説明しても、理解してもらえませんでした。というのも、結婚をする際に夫婦のどちらかが必ず姓を変えないといけないのは、現状世界で日本だけだということを、デンマークに来てはじめて知り愕然としました。
例えばデンマークだともう40年以上前から、結婚時に「同じ姓で結婚する」「別々の姓のまま結婚する」「新しい姓を作る(創姓)」という三択から選べるような制度になっています。
日本の研究者は、パスポートを取るときなどに毎回ペーパー離婚をして姓を戻すことを繰り返したり、婚姻届を出さないで不安定な事実婚のまま過ごす、という苦労をされてることを知りました。これって本当に日本のジェンダーギャップ指数が低い事がそのまま表れてる事象だなと、衝撃を受けて帰ってきました。
私が日本のメーカーで働いてたときは、旧姓で働くことに不便なこともありましたが、なんとかやりくりできていたんです。でも、そのやりくりできてしまっていたこと自体も実はジェンダーギャップで、本来であればしなくてもいいタスクの積み重ねを改姓する側(※)が強いられているということなんだと気づきました。

※日本では95%は女性側が改姓するそうです

岡田:実は日本社会の色々なところに、なんとかやれているけど、ジェンダーの視点で改めて見渡してみると、些細なことから大変なことまで様々な苦労が日常の中に埋め込まれていて、それに何とか対応するという何気ない自然な行動が身についてしまっているんだと思います。日々の負担は僅かなので一見そこに不平等があることに気付けない。しかし積み重なると無視できない壁になっている。そういう状況が、今の日本はすごく多いんだなと思います。
デンマークというフィルターを通して、日本のジェンダーの現在地を見直すことができました。

ジェンクロス・カワサキの活動について


平岡:ジェンクロス・カワサキはどんな経緯で立ち上げられたのでしょうか

岡田:ジェンクロス・カワサキは「ジェンダー」と「ジェネレーション」がクロスして対話できる場を作りたいという造語なのですが、この活動を始めたいと思ったのは、デンマークから帰国したタイミングがちょうどコロナ禍で、自分の研究も仕事も落ち込んでいたときに、そんなタイミングでも自分のデザインの知見を使って何か社会に還元できることはないかと思ったからでした。
帰国後、日本のジェンダー不平等の現状に関して同じようなモヤモヤを抱えてる川崎在住のメンバーとSNSで知り合って立ち上げました。

平岡:ジェンダーもやもや発見カードが生まれたきっかけは?

岡田:メンバーとジェンダーにまつわる日常のもやもやについて話すうちに、実物として手で触れるものを何か作りたいね、と最初は冊子にまとめようというアイディアも出ました。ただ、冊子だと作ったことに満足してしまい、読んでもらえない可能性が高いと感じたんです。そこで、ジェンダーに関する「もやもや」を集めたカードゲームにしてみたら老若男女に楽しんでもらえて面白いのでは、というアイデアにたどり着きました。

机に並んだカードを手に取る女性の手
女性と男性がカードに書かれた説明文を読んでいる

平岡:「ジェンダーもやもや発見カード」は今後どんな人に体験してもらいたいですか?

岡田:現在はジェンダー問題に興味がある女性がワークショップに参加してくださることが多い印象ですが、男性社員が多い企業での研修や、ジェンダーについてあまり興味を持っていない人たちとこそ、このカードを使って対話する機会を増やしたいです。特に、企業の経営層など管理職以上の方に、ぜひ一度体験してみてほしいなと思います。
本業であるデザインに関するワークショップは何度も受託経験があるのですが、ジェンダーに関するワークショップは興味を持ってもらえたとしても、いざ実施するという流れになると予算がない、ということで実現しにくいことを痛感しています。これもある意味ジェンダーギャップだと思っていて、ジェンダー問題は事業運営や環境問題に比べると些細なことで、企業がお金を払ってまで取り組むものではないと心の奥底では思っている企業人がまだまだ多いのではないかと感じます。ですので、決して些細な問題や女性だけの問題ではなく、性別関係なく全ての人の人権に関わることで、社員の働くモチベーションにも通ずることなんだと、経営層や管理職の方に理解して頂ける時間を作れたら嬉しいなと思っています。

それこそ、前職のメーカーでは育休から復帰した社員とその上司を対象にした「育休復帰後研修」というのがあって、復帰後はただでさえ時間が限られているのに「なぜ私がこの研修に時間を割かなければいけないのか」と疑問に感じていました。実際、研修内容は「家事育児を効率的にまわす工夫」や「周囲に感謝を伝える工夫」、「キャリアが一時的に止まっても悲観的にならないメンタルの持ち方」など、既に試行錯誤して自分なりに苦労して実践していた内容が多く、今はもっと充実した内容になっていると願っていますが「もっと上の、部長や経営層が受けないと意味がないのではないか」と思わされる内容が当時は多かったと記憶しています。

平岡:私の所属してる会社も、かなり男性率が高いので、少しずつ伝えていきたいなと思うのですが、 ジェンダーについて話題に出すのはなかなか勇気がいる行動だと思います。そういった意味では、入口としてカードを使うのは、すごく伝えやすいなと思いました。

平岡:ジェンダーもやもや発見カードを今後どのように広めていきたいですか?

岡田:ありがたいことに、今、たくさんの問い合わせをいただいている状態です。メンバー8人(イベント実施当時、2024年3月現在は9名)全員が働きながら活動をしている中で、どうやったらカードを広めていけるかという点が課題になっています。今はマニュアル化を進めていますが、 私たちだけじゃなく、様々な方がこのカードを使えるように広めていくことができたらいいなと思ってます。
過去のワークショップに参加してくれた方で、包括的性教育の啓蒙活動をされてる方がカードを使ってイベントをやりたいということで、そこで初めてカードを第三者に貸し出しました。
今はトライアルという形ですが、ゆくゆくはライセンシーのような形で、カードの意図を正しく汲んでくださる方に、販売や貸し出しを行うなどの体制作りをしていきたいです。
ワークショップを開催するたびに、参加者から新しい「もやもや」をいただいているので、もっと内容をブラッシュアップして、アップデートした形で、より良いカードに育てていきたいなと思っています。

ジェンダーの課題について

トークイベントの風景

平岡: 今、一番変えていきたいと思っているジェンダー観は何ですか?

岡田: ジェンダーについてあまり興味を持ってない人にこそ、自分ごととして興味を持ってもらいたいなと思います。どうやってそういった人たちにリーチするかが課題です。
せっかく、「もや虫」というかわいいキャラクターがいるので、それを活用していきたいです。川崎では毎年6月に「男女平等推進週間」というイベントがあるんですが、2023年のそのイベントでは「もや虫」のシールを作って配布しました。
最初は、ただ「かわいい」から手に取ってもらい、「これって何だろう」というところから、「ジェンダーもやもや発見カードっていうものがあるんだ」と知ってもらうという流れを狙っています。
ワンクッションか、ツークッションぐらい置いて、ジェンダーの話題に気軽に触れてもらう導線が作れたらいいと思っています。

平岡:ジェンダーの問題を考えたことがない人に関心を持ってもらい、巻き込むために心がけていることは?

岡田:最近、できるだけ友人の前でも、こういった活動をしてることを小出しにして話すようにしています。昔の自分は、こういう活動してることを話しにくいと思っていましたが、勇気を出して話してみると「え、そんな素敵なことやってたの!」と言ってくれることも多いんです。
そこから波紋が生まれていることを感じているので、小出しにでも周りに言っていくことが大事なのかなって思います。

また、子どもに真っ当なジェンダー観を持ってもらうためには、まずは大人が勉強しないといけないなとも感じています。そのためには、いかに最新の情報に触れて価値観をアップデートした大人を増やすかが大事だと考えています。
カードを使って、自分が過去にしてしまったこと、気付いていなかったこと、に気づいてもらう機会をいかに増やすか、それが次の世代の人たちのためになるのかなと思います。
せっかくニュートラルな価値観で育っても、社会にでてから周囲の大人たちにジェンダー問題についての理解がないと、それに柔軟に染まりなおしてしまうんです。子どもたちのためにも、大人にこそ「今はこういう時代なんですよ」と優しく楽しく伝えていくことが大事だと思います。

平岡:ジェンダーに関する活動をしていくことのモチベーションは?

岡田:例えば先ほどお話した名字の話を例にすると、私が生まれる40年以上前からすでに日本でも「選択的夫婦別姓」を求める活動をされてきた方々がいて、中には亡くなってしまった方もいるという事実をここ数年で知りました。それでもなお、ジェンダーに関する日本の状況は変わっていないどころか、先を進む他国に遅れをとっている状況です。
ということは、今、私がここで何もしないでいると、自分の娘が大人になったとき、何も変わっていないどころか状況が悪化した日本を手渡すことになるのではと不安に感じました。
この時代に生きている人間として、それはちょっとどうかなと思うのです。次世代により良い社会を届けたいというモチベーションで動いています。
今、社会で当たり前に享受していることは、実は昔は全くそうじゃなかったことが多くあります。未来の当たり前を今、私たちが頑張ることで作っていければと思います。

ジェンダーやフェミニズムといった話題は、女性側が考えるものというイメージが強いかもしれませんが、性別に関係なく全員で一緒に考えていくことが重要です。女性が抑圧されてる、イコール男性も抑圧されているんです。大黒柱でなければいけない、などの男性らしさを求められる社会にプレッシャーを感じている方も少なくありません。
女性の不平等は、男性の不平等でもあり、紙一重なんだと考えています。女性だけの立場を良くしていこうという目線ではなく、お互いの不平等の凹凸をなくして、お互いを尊重しながら全員の権利をイコールにしてこうというスタンスで、ジェンダーについてみなさんと一緒に考えていきたいです。
長い年月がかかりそうですが、こうやってコツコツ活動していく他ないのかなと思います。

笑う岡田さんと平岡

・ ・ ・ ・ ・

以上、岡田恵利子さんのインタビューをお届けしました。
もし、「PLAYERだらけの世界」を目指す私たちの活動に共感した方がいらっしゃればこちらのフォームから気軽にご連絡もいただけると嬉しく思います。それでは、次回のPLAYER’s Fileでお会いしましょう!

また、PLAYERSではこのような紹介記事ならびに、最新の活動内容や進行中のプロジェクトを中心に、ぜひ注目して欲しい世の中のニュースやトレンドなど、皆さまが「PLAYER」としてワクワクしながら生きていくために役立つ情報をお届けるメールマガジン『PLAYERS Journal』を定期配信しています。よろしければ以下より購読のご登録をお願いします!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?