見出し画像

「認める」を絶対に許さない大人たちに思い出すいつものあの感覚

Xを見ていたら、ひとつのポストが目に入った。
ここでは引用しないでおくが、そこについたオジサン達の卑屈なコメントを読んで5年前に聞いたあるエピソードを突然思い出し、息が苦しくなった。

あるある、いつもある。

それはこんな感じのエピソードだった。

専務に罵声を浴びたT君の話


5年前、23歳の男性と知り合った。
ブログにいつも感想をくれていたのがきっかけで、たまにLINEをするようになり、時々ファミレスなどで会って話をするようにもなった。

Tというその23歳の男性は大学を卒業したばかり。
ある中小企業で働いていると言った。少々ブラックな社風の勤め先らしかった。
出社時間は就業規則上は朝8時半だが、慣習として必ず7時に出社。仕事が終わるのは23時。土日は休みのはずだが月に3日しか休めない。連休は定年退職をするまで不可能そうで、先輩たちは誰も新婚旅行には行っていない。というよりも結婚している人の方が少ない。

「それはすごいな、身体はきつくないの」俺は訊いた。

「身体はいつも疲れてますよ。でも仕事は楽しいし、若いうちは何とかなりますかね」

「仕事が楽しいなら何よりだよ」

T君はいつもさわやかで笑顔が絶えない。

T君の仕事はランディングページ制作専門のウェブマーケティングの会社だ。取引先はみなスタートアップで、突然ゲームオーバーになって消えていく会社も少なくないという。

T君は言う。
「仕事はきついけど、先輩たちも取引先もみんな刺激的な人ばかりだし、仕事も手ごたえがあって面白いんですよ。数字で全て表現できる仕事ですからね」

俺は言う。
「うん、面白いと思えるのは安心だよ」

T君はちょっと間を置いて、こんなことを教えてくれた。

「先月、僕、専務と会議で言い争いみたいになったんです。専務がエステのお店のランディングページのコピーに【女性らしい美】という言葉を使おうと提案したんです。だから僕はそれに対して、女性らしさという物言いは問題を起こしますと言ったんです」

「なるほど、その通りだね」

「そしたら専務が、お前みたいなガキに何が分かる!俺はずっとクライアントの売り上げを伸ばしてきたんだ!って激昂して。机も蹴るし、大暴れでした。それで先輩たちが専務に落ち着いてくださいって諭して会議は終わったんですが・・・」

「ああ、よくある光景だよねえ」

「でも、その一時間後、専務が自分のオフィスに僕を呼んでこう言ったんです。さっきは怒鳴って悪かった。確かにお前の言う通りだ。ごめんな。新卒のくせにしっかりしてる。お前がコピーを考えて俺に提案してくれ、って」

俺はそれを聞いて、つい声が出た。

「T君、ブラック企業と言う割にしっかりした上司がいて幸せだよな。すごいよ、その会社はこれから伸びると思う」

T君は少し驚いた様子も見せつつ、満面の笑顔になった。

「アキラさんって感じですね。やっぱり」

T君はこう続けた。

「この話をいろんなところでするんです。僕としてはこの専務を尊敬しているのでリスペクトのエピソードとして話すんですけど、話した相手の反応は結構違うんですよ」

「たとえば?」

「大学の友達はみんなアキラさんと同じ反応です。「感動かよ」とか「漫画か」とか言うんですが専務はいい人って感じで受け止めます。でも、大人の人、特に50歳以上の人にこれを言うと全員が違う反応をするんです」

「分かってきたよ」

T君が50歳以上の大人から言われるのはこんな言葉だった。

「その専務、老害だ」
「新卒のくせにというのがひっかかる」
「そんな会社やめた方がいい」
「専務が偉そうでむかつく」
「専務のジジイを許すなんてTは優しいね(嘲笑)」

T君としては専務の悪口を言うつもりはなく、むしろリスペクトの気持ちだと説明すると、またこう言われるという。

「お人よしすぎw」
「騙されてるw」
「ジジイだろ相手はw」

T君はもう話すことを辞める。でも最後に相手にT君はこう言う。

「ジジイだと思ってるようですけど、その専務、29歳なんです」

おじさんおばさんのあなたとは違って、もっと若いんですということだ。でもオジサンオバサンはさらにこう言う。
「若いくせに随分と偉そうな専務なんだね!」
「そんな会社やめた方がいいよ!」
「29歳で専務とかその会社、ママゴトじゃないの?」

T君はため息が出てしまう。老害はあなたたちの方じゃないのか、と。

何を言っても悪口しか出てこない。こんな話題を出した僕が悪かったよと。

こんな50代のおじさんおばさんは、まるで自分が若いつもりでいる。
それもそうかもしれない。インプットも乏しく、アップデートもなく、昇進もしていないし何者にもなれていない。若いというより幼稚。
幼稚なおじさんおばさんの感覚では「専務=ジジイ=老害」なのだ。しかし自分の方がジジイババアで、なんでも否定から入る老害だとは1ミリも思っていない。
他人に対して常にネガティブな感情を持っていて、それを毎日毎日増幅している。それが幼稚な老害だ。

いや、俺だって同世代にそういう人間が多い。
「何を言っても否定ばかり」「何かを共有したいと思っても批判から入る」という場面はいつもある。もう疲れてくるし、ため息が出てしまう。

人を悪くばかり言っていると、こちらはもうあんたと何も話すことがなくなるのよ。

オトナになるとはどういうことだろう


オトナになるということは、人生の中のあらゆる事象に対して、否定で終わらせないということだ。

「嫌なことがあった、でも、すべてを許してしまえるこんな言葉をもらった」というエピソードに対して、悪口を言わないのが成熟した大人なのだ。
否定することに慣れている感性をしてると、T君に対して専務を悪く言うオジサンオバサンのようになってしまう。

人生は嫌なことばかりだ、で終わるのは思春期までだ。
人生は嫌なことばかりだが、嫌な奴にもいいところがあるんだぜ、と思い続けられるのがオトナ。
オトナになるとは青臭さ、つまりエバーグリーンを心に維持する努力のことなのだ。

人を見ると否定する、誰かの話を聞くとすぐ悪く言う。そんな大人を老害と呼ぶ。それは自分の卑屈な色眼鏡で他人を見ているからだろう。

「認める」「許す」を忘れたらもう老人だよね


最近、悲惨な殺人事件を起こした犯人に死刑判決が下った。

いつものことだ、他人を悪く言いたい卑屈な大人が、自分とは関係のない事件に対して「殺せ殺せ」と盛り上がる。
でも、その姿を見られた時、決してカッコいいものではないと自覚はあるのだろうか。

少なくとも他人の前ではカッコつけることを忘れない方がいい。共感のオバケになって幼稚に悪口を言うのではなく、すかして他人を許してみてはどうなのか。

卑屈さを放置して先には、孤独しかないのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?