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夢の施設への外線

事例研2次予選の後から連休だったのだが、一気に疲れが噴き出して、よく眠った。と言っても、断眠。何か、沢山夢を見ては、はっと目が覚める。

施設の廊下で、いつものように皆がせわしなく働いていて、騒々しい中を歩いていると、左側に見たことがない部屋の入口がある。そこを通りかかりながら、『あれ?こんな部屋、あったっけ?』と思っていると、その部屋から、ひょっこり、Tさんの旦那様が出て来た。

Tさんとは、ご逝去されたお婆ちゃんのことだが、旦那様は今もご存命だ。それで私は、『どうしたの?お父さん。』と声をかける。『どうして私の夢の中なんかに出て来たの?お婆ちゃんが居なくて寂しいの?』と。

すると、旦那様が、両手で何かを大事そうに持って私の方へ差し出しながら言う。『いや、今ね、丁度、婆ちゃんから電話がかかって来たんだよ。代わってって言ってるよ。』と満面の笑みで。

旦那さんが差し出したものを観ると、それは受話器だった。電話の配線が部屋の中からピーンと伸びている。どこまで続いているだろうな、この線は。

いや、それより何より、Tさんが私に?!慌ててその受話器を受け取り、耳を押し付ける。色んな思いがこみ上げて来る。

今、どうしているの?肩コリは治った?そちらは、寒くないの?お気に入りのベストは着ているの?そして、そして、そして・・・・あの最後の施設での日々は、あなたにとって、どうだったの?

クレームでも良い、恨み言でも良い。何か言って貰える嬉しさや、単純に、もう一度声が聴けるという嬉しさで泣きながら受話器に耳を押し付ける。『Tさん!私です!代わりました!』

次の瞬間、加湿器のアラームが鳴って目が覚めた。

まだ目を開けていないまま『あーあ、起きちゃった。声が聴けなかった・・・。』とガッカリした。

ガッカリしたまま、ソファーの上で目をあけると、天井の灯りが眩しい。特に、足元の方向にある隣の部屋のLEDが眩しすぎる。

目を細めたまま、その灯りを見上げると、空中に羽毛布団の羽根のようなものが浮いて、フワフワ動いていた。布団か枕から出て来たのかな?いや、ダウンジャケットのやつかな?

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いや・・・、それにしてもおかしい。空中で、あんな半端な位置で静止しているなんて。

と思いきや、フワフワ漂い出した。

その瞬間に思い出した。これも以前見たことがあるということを。

元旦那さんが河島英五さんのファンだったのだけど、その特番を二人で見ているとき、目の前にこれと同じように羽根が忽然と現れた。座っている私たちの斜めの上、テレビの上に。

あの時は二人して立ち上がって『何?』と手を伸ばしたが、一度、ふっと消えた。二人とも『・・・・・・・。』と無言になったが、番組は録画しているわけではない。『・・・。とりあえず、歌、聴こうか。』と再び座って思い出の名曲を聴いていたが、しばらくすると今度は私たちの頭上に現れた。

もう二人とも追い回さなかった。ただ、歌を聴いていた。羽は天井に吸い込まれるように消えた。

あれと同じものが、今、目の前にあるわけで、ソファーから起き上がって角度を変えて観ても消えない。5分ほど経ったけど、風もないのに空中でふわふわ踊っている。

いよいよ持って、椅子を持ってきた。そして、椅子の上に上った。電気の近くに漂うそれに手を伸ばす。『何ですか?誰ですか?』と。でも、掴まらない。まるで反発し合う磁石のよう。まるで、いたずらっぽく笑っているかのよう。

玄関のチャイムが鳴った。Kちゃんが帰って来た!

観て!Kちゃん!と言った瞬間、天井に吸い込まれるように消えて行った。

今でもよく分からないけれど、テレビを観ているファンの元にいちいち他界した大物歌手が現れるわけないと思ったが、後にそういうこともあり得るのだという話を耳にした。あちらでは、時間軸や場所の縛りも無くなって、同時に色々なところへ現れることもあるのだそうだ。それが本人かどうかは分からないけれど、元旦那さんは本当に大ファンで彼の死を悼んでいたから。

そして、今日忽然と現れたのが果たしてTさんだったのかどうかも分からない。何なのかも分からない。ただ、夢から覚めたら、そこに自由な羽根のようなものが実態として存在していた。

夢の中の電話と言い、何かメッセージを受け取り損ねたかのような、少々歯がゆい思いのままだけど、今はただ、思考の枠に閉じ込めず、あるがままを心に収めておこうと思った。

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