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対等に真実を話すことは不遜なことではない

立川の方面へ単発派遣ナース。

練馬、世田谷と合わせて同じ企業の有料老人ホームへ行ったことになるのだが、3か所とも全然状況や事情、やり方が違うのでびっくりだ。以前勤めていた特養も大規模に展開しているところだったけれど、なかなか統一するというのは難しいんだろうね。

全然話は違うけれど、ゴミゴミした渋谷方面を通るのと多摩地区へ向かって出勤するのとでは、雰囲気が全然違う。
以前、立川や小平をアジトとしていたせいだろうか。目的地が近づくにつれて、ほのぼのとした朝だった。何だか良いわ~。
気温は23区内より1~2℃ほど低いけどね。

***

単発派遣で思い出したのだけど、昨年の夏の終わりに私は6年、相棒Kちゃんは8年務めた特養を退職した。

その後、ほんの短い間に、Kちゃんに至っては、全部で10か所以上の施設を目にしてきている。
かつて、おそらくは日本一の介護をしていた指導者なので、色んなところを観ていて、色んなことを思うようだ。

ある時、彼女は、全室個室の施設で、非常に意地の悪いご利用者様に出会う。

人が嫌がることをわざとするご老人だったそうだ。コールをバンバンひっきりなしに鳴らして何度も「トイレ」と言うのだけど、トイレに行くとわざと足をコの字型にして着脱をさせない。
部屋中に尿をまき散らしながら歩いたり、床を拭かせたり。それが認知症だからというわけでなく、寂しい故の確信犯だったのだと言う。
困らせれば困らせるほど、職員を長く自分のところに足止めしておけるから。

どこにでもこういう方は居るのだが、彼女は思わず「やめな!」とその人に言ったという。
どこでも人は少ないが、一際人手が足りない上に、全室個室。つまりは誰も観ていないことが多い環境。
しかも、職員の研修が進んでいない場所だった。

どんなプロでもイラっとすることがあるが、特にそこはメンタル面での研修がなされておらず、アンガーマネージメントという言葉さえ知る由もない職員ばかりの施設だった。

そこで彼女は『これはいかん!』と思って、真正面からその人に『やめな!お願いだから止めて!』と訴えたのだ。
『今は良いけど、そんなことしているとそのうち窓から落とされるかも知れないから!』

何も分からないふりをしていた当人は『え?』と動きを止めて、真剣に目と耳を開いたという。
『あのね。寂しいのは分かるけど、ご存じの通り、ここは・・・』と普通の人にするように、普通に詳しく説明したのだと言う。必死で。

すると、その施設で一番手がつけられないとうたわれていたその人が、最後に『ありがとう。わかった。』と手をがっしり握って応えてくれたのだと言う。

単発派遣なので二度と来れないかも知れない場所で、その人のことを思って真剣に話した一人の介護士の話である。
綺麗ごと抜きで、皆にプライベートがある。人間関係がある。介護をする目的も人それぞれ。皆が同じ目的を持ってその職についているわけではないのだ。
Kちゃんの行動は、誰にでも出来そうで出来なかったことだと思う。

もちろんご老人に限ったことではない。人は弱い。

でも、上手に甘えて、皆、健やかに長生きして欲しいものだと思う。

って、難しいか。

だからこそ看護や介護職は自分見詰つめをして、自己一致出来ている時間を多く持てる訓練をしていなければならない。
ダメな時は踏ん張るしかないが、時には本気の対話も必要なのだと思う。

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