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繊細とガサツに二分されるわけがない

施設職員に一名のコロナ陽性者が出て数日。
しかし、「そんな事情など、こちらは関係ない。遠方から来たんだから母と面会させて欲しい。」とアポなしの要求を向けられた。

もう、ただでさえ忙しくて大変なのだけど、確かに遠方から来て下さったわけだし、高齢の方はいつ何があるか分からない。貴重な日々だ。

対応する時間も人員も、本当のところは皆無なのだけど、ちょっと無理して面会を叶えて差し上げた。
世の中では感染者が爆発的に増えているから、本当は前もって予約している方々ですらZoom面会。今や、窓越し面会すら控えている最中なんだけどね。

面会は喜んで下さった。それは良かったのだけど、クレームが来た。

急に面会させろと言われた私は、よし!何とかして自分が対応しようと思ったのだが、「現場のスタッフに事情を説明してから抜けて来ますので、少々お待ち下さいね。」と断りを入れて去った。
2~3分で駆け戻って来たのだが、それが気に入らなかったと仰る。さて、何故だろう?

すると次に出て来た言葉が「私はHSPなんです。」とのこと。
それきり沈黙だったので、すみません、どういうことでしょうか?とお伺いすると「だから、ちょっと待てって言うのは、酷く傷ついてしまうんです!」とのこと。
私と同年代のご家族様だった。

頭が混乱したのだが、とりあえず「そうですか。申し訳ありません。」とお詫びする。

すると「遺伝だと思うんです。」と言われ、思わず「え?」となる。

思えば、今日出会ってからこれまでの言語がほとんど単語で唐突に思える。

「分からないかなあ?」と仰るその人に、何とか続きの言葉を求めると、
「母もそうだと思うので、母にもちょっと待って下さいという言葉は使わないで下さい。他の人が困っていても、母はHSPなんですから、絶対に言わないで下さい。」

時々ではあるが「うちの親だけはちゃんと見て下さい。」というご家族がいらっしゃる。
ご利用者様当人になると、もはやそれは「私だけは特別に扱って下さい。」のオンパレードだけど、まあ、それは良しとして。

でも、それは不可能なんだよね。

特養での人員と時間はひどく限られたものなので、もし”出来る限り”ということなら叶えるよう努力したいと思いますと答える。何でも安請け合いするわけには行かないからだ。

ところが「どうしてですか?あなた方はHSPではないでしょう?私たちは辛いんですよ。」と言う。その言い方が、あたかも「自分たち以外はガサツで辛くないだろうから頑張ってくれなくちゃ。」というニュアンスに聞こえた。

ひと昔前は「鬱の人に頑張れって言っちゃいけないんだよ。」とか「発達障害だから人の気持ちなんて分からないんだってば。期待しないでよ。もっと勉強してよ。」という人が沢山いた。

分かってくれない、分かってくれない、分かってくれないと繰り返す人々。

もちろん、メンタルの不調はとても苦しいものだが、いつの世も、どんな症候群でも、どんなに呼称が増えても、他人を動かそうとする人、自分以外をいくらでも酷使しようとする人々は、どこまで行っても双方幸せにはなれない。

また、それに応えようとして燃えつきる人々も居る。

プライベートでも同じ呼称の診断を受けた知人がいた。その人は、私と友人の間に無理やり割り込んで来て話を持って行くことが多く、それで困って微妙な空気になると「混ぜてくれない。傷ついた。」と仰るのだが。

その割り込み方たるや、なかなかの大胆なふるまいだと思った。あとは、先に書いたアポなし訪問のご家族もそう。多くの人は、どんなに寂しくても、他人様になかなかそういうことは出来ない。
気を遣うからだ。

無茶を言ったり場を侵害しては、烈火のごとく怒ったり、激しく絶望してはその気持ちを主張して来るところや、自分以外はがさつで傷つくことなどないと思っているあたりが凄い。

病名や診断名を欲しがり過ぎてはならない。それを盾にして生きることでますます人が近寄らなくなるから。
また、その状況を受け入れているのなら構わないのだが、硬い金属で出来た盾を持ったまま人に突進して行くと、相手は痛い。中には「何すんだよ、急に。」と怒る人がいても、そりゃ普通だ。
それで「受け入れてくれない。」というのはなしだよ。

誰でも傷つくし、誰でも痛覚はあるのだから。

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