カラフルなあなたに
今の職場に初めて面接に来た時のことを思い出す。
施設長と看護主任に滅茶苦茶質問されて、これまで取り組んで来たことをそのまま訊かれるままに答えた。
以前居た特養はご利用者様の人数がここの倍くらい居て同じくらい少ない人数でやっていたが、そこにはあらゆる工夫があった。それは特養をあたかもクリニックやホスピス化する流れになった。
自分でそうしようと思ったわけじゃない。ただただ、ご利用者さんやご家族のニーズを聴いてそれに応えて行ったらそうなったというだけの話。
それに対して施設長は『感銘を受けました。』とウルウルなさり、看護主任は何故だかムッとして口調が厳しくなって、質問が詰問になって行った。たかだか派遣の面接に何これ?とは思ったが、結果的には採用。
案の定、働き始めてからすぐに主任からのあたりが強く無茶苦茶なことを言うので一度軽く喧嘩した。(あくまで私的には軽いということ)
が、少しだけ長く付き合ったところ、共感できる部分も増えて来た。悪い人じゃないなあ。というより、一生懸命頑張って来た人なんだなということが見て取れるようになった。
ただ質問に答えていただけなのに、『私を馬鹿にしている』と捉えられてしまった事に対しては、ほとほと困ったり逆ギレしたりもしたが、要は否定されているような気持ちになって辛かったのだろう。そんなつもりはなかった。ごめんなさい。
その後は、毎日のように手作りの桜餅やジャムやサンドイッチやお菓子やいなり寿司など、要らないというのにプレゼントされた。『喉乾いてない?しゅわしゅわっとしたやつ、飲みたくない?』と言っては炭酸飲料をコップに注いで来たりとか。
酒飲みだから甘いものはあんまり食べないと、いくら言ってもくれた。元々あまり人の話を聴くタイプじゃないらしい。いつもうるさい。
が、その方がもうすぐ退職なさる。
これは、その面接の時点から聞かされていたことで、昨日今日の話ではない。最初から分かっていたことだ。
でも、なんか、居なくなると思うと寂しいじゃん。
少なくとも、ここでのやり方を沢山教えてくれた。
それで何かできないかなあ?と思うのだが、何も出来ることがない。
すると、飲みに行こうという話をしてくれたので良い機会だなと思う。何か考えろ、私。すっごいお喋りで毎日色んなことを聞かせて貰っただろう。何かしら、この人が喜びそうなものがあるはずだろ?
と考えたところ、やはり私は視覚派なのだろう。一番最初に会ったときのことを思い出した。
彼女は60代。
が、私と同じくらいケバイ。
ちゃんと化粧をしている人だ。今もお綺麗だが、多分若い頃は息をのむほど綺麗な人だったのではないか?と思う。
何か、メイク用品にしようかな?
アイシャドーなら何色あっても困らない。仕事ではつけないカラーマスカラやチークもセットにして、透明な袋にラッピングしてリボンをかけたら綺麗だろうな。
些細なことだけど、ちょっと楽しくなって来た。ウキウキした気持ちで可愛いメイク小物を選んだというのが、仕事帰りの今夜。
彼女のように綺麗にはなれないだろうけど、私もケバイ60代になれたら良いな。
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