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気がふれた住人(?)

駐輪場の、あの細い溝に車輪を、カシャン!とはめて停めなきゃならないやつが苦手。

しかも、この形式を採用している駐輪場は、元々狭い場所を有効利用しようと作られているので、お隣の自転車との幅も狭い。自転車の横に自分の身体を入れずして、どうやって停めるねん?と、いつも思う。

上方向に車輪をはめるやつ、その隣は地べたの溝にはめるやつ・・・と大抵は交互になってのスペース稼ぎ。上方向のやつに至っては、チビの私は「えいやっ!」と勢いをつけて自転車の車輪を乗りあげなければならない。しかも、時には、はずしてずっこける。そして、やり直す。←どんだけ不器用なのか。

先月から住み始めたこのマンション。リノベーションした内装を見に来るまでは、全てがトントン拍子だった。勤め先にも近くなるし良いね!と。

しかし、現地に着いて、駐輪場を一瞥するなり「あ、やっぱ、私、ここ、やめます。」と言ったものだから、不動産屋さんもKちゃんも大家さんも「どどど、どうしてー?!」とビックリ。

どうして?と言われても、こんなくだらない理由、恥ずかしくて言えるもんか。毎日この狭くて細い駐輪場を使うのが嫌だなんて。いい大人が。

どの口が言えるか。

でも、言った。

すると、問題は簡単に解決した。「このまーんま、まーっすぐ玄関の方へ乗り入れていただいて、ほら、ここに停めて良いですよ。ここ。」

そこはマンションの玄関の横、奥の方にあるスペースで、既に自転車が2台停まっていたが、それでもまだ結構広い。おそらくは大家さん一家が使っている場所らしかった。すっごく使いやすそう。ラッキー!

・・・・・・・。いや、違う。違うぞ、そういうとこだぞ、私。恥を知れ。こんなことではいけない。

やっぱり申し訳ないので、細い溝に車輪をはめる練習します。毎日。

「いや、そんな努力はしなくて良いので、ここに住んでいただけますか?」と、何故だか笑っていらっしゃる。

そしてKちゃんに至っては、「すみません。この人、人に出来ないことが出来る人なんですけど、同時に人がかんたーんに出来ることがてんで出来ない人でもあるんです。」と訳の分からない早口言葉のような紹介と謝罪を同時に行っているので赤面した。

それ以降、私は帰宅する際、マンションの駐輪場と並行して作られている、そこそこの坂になっている通路を玄関に向かってまっすぐ乗り上げて突っ込んで行くのが楽しみになっている。

その通路は、半分は歩行者用の階段、半分は自転車用に坂で出来ているのだが、時折、間違えて階段の方へ乗り上げてしまいビックリするのだが、止まるのも悔しいので、その勢いでガンガンガン!と階段をも乗り上げていく。

が、その日はそんな自分のアホさ加減を後悔した。階段と前輪がぶつかって予想以上に浮いてしまった。

後ろにひっくり返りそうな、しかし、前輪を地面に戻して復活できそうな・・・そんな絶妙な体重移動によるウイリー状態が5~6秒も続いて、無事に何とか着地出来た。無言の戦いだったが、心臓が口から飛び出そうだった。

しかし、地面に着地出来たので、一人、不敵な笑いを浮かべていたところ、なにやら視線を感じて前方を見ると、腰に手をあてた大家さんが真顔で立っていた。

そりゃ真顔にもなる、姿を見かけただけだったら挨拶をしようという目的でこちらを見ていたかも知れないが、どう見ても50過ぎのおばさんが夕暮れ時に無言でウイリーした後に不敵に笑ってドヤ顔しているのだから。しかも、一人で。

「こんば・・」と、挨拶しようと思ったら、素早く会釈して背を向けられた。去り際には、ボソッと聞こえた。「それができるんだったら・・・」と。

今度からは普通に帰って来よう。

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